特別な2人組 3

 昼休みになっていつものように席同士をくっつけて集まると、最初に出たのは、瀬那の文句だった。

「もう! アイカってば!

 勝手に1人で行っちゃって!」

 プリプリ怒り出す瀬那に「ごめん、つい」と謝る。

「ちょっと待っててもよかったと思うけどね」と美羽音がお弁当の包みを広げる。

「さっきの英語でもそうだったけど、2人組つくる時ってさ、全体の人数が奇数だと1つだけ3人組を作ることになるでしょ?」

 体育の後の英語の授業でも、ペアワークの時間があった。私たち1年F組は41人。席の場所の関係もあって、真ん中の2列の一番後ろで、只野ただの君、寺内てらうち君、戸部とべさんの3人組ができた。片方がもう片方に質問する、という内容で、毎回3人目のターンがあったので、私のペアは交代で3人目を務めた。

 わざわざ時間を設けてもらった3人組はというと、男子2人の間でやりづらそうにしてたな、戸部とべさん。

「ほら、スポーツテストの時とかも余っている子いたから、たぶん1つは3人組ができるんだよ。

 それがうちらでもよかったじゃん?」

 そう言って、美羽音はウインナーを口に放り込んだ。

「そうだよ!」とご飯を飲み込んだ瀬那が続けた。

「もし誰かがあぶれてたら、今度はジャンケンとかして決めよ、ね?」

 瀬那の念押しに、「わかった」とうなずいて、ちょっとだけ微笑みがほころぶ。キツい言い合いも出る2人の間だけど、ちゃんと、友達なんだって、ふっと、心が温かくなる。

 私も一口ご飯を口に入れたところで、「でも今回は3人で組まなくてかえってよかったかもね」と話が続いた。

 箸を口にくわえたまま、ほえ? と首をかしげる。

「背中合わせで立つのをやる前さ、板垣先生、なんか様子がおかしかったでしょ。みんなの間をグルグル行ったり来たりして」

 美羽音に言われて、思い出した。他のストレッチはテンポよく進んでいったのに、背中合わせで立つ運動をやる前になって、ずいぶん待たされたのを。

「授業終わってアイカのところへ行く前に聞こえたんだけどさ、田代たしろさんたちがコンタクトでも落としたんですかーって板垣先生のところに集まってて。

 3人組を探してたんだって」

「3人組?」

 名前も言わなくていいほど有名な3人組なんだろうか。あるいは誰の名前も知らないから便宜上そう呼んでいるのか。

「あれ2人でもきついのに、3人だと難易度上がるでしょ。

 それを見せたかったみたい」

 瀬那の解説で、3人でも背中合わせをして立つことができる、という実演を見せたかったのだとわかった。

「ってことは、もし3人で組んでたら見世物になったかもしれないってこと?」

「そういうこと」

 2人がうなずいて、私もうなずく。嫌だ、クラス中の晒し者なんて。今回は2人組しかできなかったから、見世物にされる人はいなかった。めでたしめでたし。

「あれ? でも今日見学もいなかったよね?

 何で3人組ができなかったんだろう」

 私の疑問に、「C組に休みがいたんじゃない?」と瀬那が答える。

 あ、そうか。体育はC組との合同授業だ。F組に休みや見学はいなかったのだから、C組の誰かが休みだったのだろう。

 次の話題に移ったところで、ふと星野さんの席が目に入る。別の子が向かい合っている友達とお昼を食べるためにイスを使っている。星野さん自身の姿は教室には見当たらなかった。うちの高校には、食堂はない。

 あの子はどこでお昼を食べているんだろう。

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