第5話 黒猫の訪問者

 銀太の仕事は、霊園の管理だ。管理といってもその仕事の幅は広い。銀太の実家が経営している株式会社トーワメモリアルは、地域に複数の霊園を管理している。元々土地持ちだった家柄だったこともあり、始めのうちは自分の土地に霊園にすることで、規模を拡大してきたが、なにせ嫌われる。墓地を立てるなんて言うと地域住民の反対にあうのだ。確かに家の目の前に墓地ができたら、「それは衝撃だろうな、、、」と、銀太はそのことは十分すぎるほど理解している。


 先祖代々持っている土地を墓地として提供したのは、祖父の代からだ。戦争から帰ってきた曽祖父が「お前にやる」と言って貰ったものが東京の西、武蔵野地区にあったほぼ山や田んぼの田舎の広大な土地だった。

 当時は大した価値のない土地であったし、山間の人の住まない地区だった事と寺の娘であった妻の実家に頼まれ、墓地として提供したのが始まりだった。


 年々地価は上がり、電車が通り今では一等地と言って良い土地ばかりだった。元来遊び人の祖父が現金欲しさに売り払おうとしたりしたが、都度祖母がどこからともなく現れて、祖父の企みは全て台無しにしてしまうのだった。

 祖母は若い頃からとても気のいい美しい人だったと聞いた。その娘である銀太と音羽の母親もまた美しい人だった。祖父が妻と娘を溺愛し、まともに暮らせるのも祖母のおかげと言っても過言ではなかった。


 墓地を立てるときの役所の申請や、地元の人達との交渉ごとは、祖父と父が行っていた。なかなか泥臭く大変な仕事であったが、まだ銀太には早いと判断したようだ。


 その日、銀太は一人で霊園の見回りと掃除をしていた。基本的に銀太の任されている霊園は、比較的新しい霊園で区画もきっちり行われており、怖いという雰囲気はあまりない。子供の頃や仕事を始めた頃はやはり怖かったのだが、今は流石にもう慣れたものだ。


 現在銀太の管理担当は、実家から車で30分ほど離れた街の霊園であった。霊園ができてまだ5年も経っていないが、既に半分近くの墓石が並んでいる。

墓石の中にはまだ誰もはいっていない、いわゆる生前に購入する人も結構いるので、実際に「人が入っている」のは全体の三分の一程度であった。


 霊園の終わりは夕方の18時に終わる。掃除を終え火の始末を確認し、事務所の鍵を閉めて家に帰る。その帰りかけのときだった。


「にゃーん」

銀太の車の横に黒い猫がおり、銀太を見上げて鳴いている。


「は?猫?」

銀太は一瞬ぎょっとしたが、猫の前にしゃがみ込むと首を撫でようとした。だが、その黒い猫はパッと身を翻すと、スタスタと歩いて墓地の方へと姿を消していった。


「首輪もしていたし、飼い猫かな…」

銀太は独り言を言うと、さっと車に乗り込んで家路についた。


「おかえり〜」

事務所に着くと、音羽が事務所の前で銀太を出迎えた。彼女の足元には黒い猫が寝転がっており、お腹をワシャワシャと撫でていた。


「あ!?その猫!?」

銀太は思わず声を上げた。その猫は先程霊園に居た猫とそっくりだったからだ。

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お墓の守り人 銀太と奇妙な訪問者 珈琲パンダ @wassan

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