第4話 夢と化け物
銀太は居間のソファーで横になったついでに寝てしまったようだ。
「うわああああああ!!」
飛び起きるように目が覚めると、尋常ではない汗をかいていた。
そう彼は夢を見ていた。夢の中で聞こえてきたのは、家族の会話。雨の降る空いている高速道路であろうか、まっすぐな道を猛スピードで移動する車の中のようだ。乗っている車はどうやら高級車のようだ。座席のシートは全て革で覆われており、車の中も高級な雰囲気だ。いい車だな。夢の中の銀太はそう思った。
運転席の父親らしき男は、何やら助手席に座っている妻と思われる女性に何かきつく言葉を発している。言葉は聞き取れない。今度は助手席の妻が運転席の男に向かって何かを話している。これもまた穏やかではない雰囲気だ。何かいい争いをしているのだろうか、、、。ふと後部座席を見ると6歳程の女の子が耳をふさいでいる。泣いているのだろうか、、、。銀太が女の子に
「どうしたの?」
声を掛けようとした。その瞬間、助手席の母親らしき女の悲鳴。いや叫び声。その後、父親らしき男の叫び声。ハンドル操作を誤ったのだろうか、急に車が制御を失ってしまったようだ。
まるでスローモーションのように感じるが、相当なスピードで制御を失った車はスピンをしてしまったようだ。女の子は悲鳴を上げながら、伏せる形になった。銀太はただ呆然としている。父親の叫び声、母親と娘の悲鳴。スローモーションで動く周りの風景はその瞬間の絶望を表しているようだ。
ドン!!そんな音が聞こえて目が覚めた。最後のシーンはよくわからない。いきなり真っ暗になった。おそらくそんな夢の終わりだったと思う。
「ちょっと!!どうしたの!!?」
妹の音羽が部屋に入ってきた。どうやらキッチンで夕食の準備をしている所だったのだろうか、エプロンをしている。
「いや、何でもない。悪い夢を見たよ、、」
銀太は妹を見ないで話した。
「はあ!?夢!?もう!脅かさないでよ!さっきはひっくり返っているし、、、ちょっと大丈夫?」
音羽は兄を本気で心配している。
「ああ、ごめんちょっと疲れたみたいだな、先に寝るわ、、、。ご飯はいいや。」
そう言うと銀太は自分のベッドにまた寝転がった。
「ちょっと!!お兄ちゃん!!本当に平気?ご飯ぐらい食べたほうがいいって!!」
音羽は銀太に声をかけたが、彼は特に振り返りはしなかった。
銀太は焦りを感じていた、何だろうこの気持ちは、今日はあの化け物を見た。で、今度はこんな夢を見た。なんだか分からないが胸騒ぎがする。このままでは家族を巻き込んでしまうのではないかという不安に駆られた。
「あの夢はなんだ?あれはあの化け物が俺に見せたのか?」
銀太は必死に考えた。一体何の目的で?なんで俺のところに来た?やめてくれよ。大体あの夢に出てくる、父親、母親、女の子。誰も知らない。あの事故の映像、、あの後どうなった??
「なんだってんだ!!このやろう!!」
銀太はだんだん腹が立ってきた。と同時に銀太は眠るのが怖くなった。眠ってしまったらさっきの続きが始まるのではないか?あの化け物がまた来るのではないか?そんな不安を感じながら、部屋にあるステレオで音楽をかけた。賑やかな音楽を聴くと、少しだけ不安が無くなってくる気がする。
銀太は自分の部屋のテレビをつけた。ニュース番組がやっている。ベッドに寝転がりながら、枕元に置いてあった野球ボールを天井に向かって投げた。キャッチするとまた天井に向かって投げる。天井に当たらないようにギリギリに投げる。それを取る。そして投げる。
銀太は小学生の頃からこの動作を何度も繰り返した。そう、大事な試合の前。こうやっているとなんだか落ち着いた。小学生の頃、銀太はエースで4番だった。市の小さな大会だったが、初めて優勝がかかった試合の前の晩。こうして天井めがけてボールを投げた。そうする事で落ち着いた。そしてよく天気予報を気にした。雨が降ると銀太はピッチングが荒れるのだ。握ったボールが雨のせいで滑る。そしてコントロールが乱れる。だから雨が嫌いだった。
そんな雨が降りそうな時いつもテルテル坊主を作った。まだ幼稚園児の音羽と一緒にテルテル坊主を作って部屋に飾りつけた。音羽のテルテル坊主は、カラフルなテルテル坊主だった。銀太のはいつも黒い大きな目玉と口を書いて終わり。
「!!?」
銀太は慌てて飛び起きた。
「あれは、、、テルテル坊主じゃねーか!!」
銀太は、先ほど現れた化け物がテルテル坊主そっくりな事を思い出した。大きさが巨大ではあるが、丸い顔と目と口、カーテンのような服というかスカートのようなもの。これはどう考えてもテルテル坊主、、、。なんでテルテル坊主が俺のところに来たんだよ、、、。銀太はウンザリしながら、またベッドに横になった。
「ヤメだヤメだ!!アホらしい!!」
考えても仕方ないが、銀太は諦めてベットに横になった。
「テルテル坊主ごときにビビるオレ様と思ったのか!!?」
銀太はそうつぶやくと天井に向かってまたボールを投げた。
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