第20話 土砂降りのなかで
柳原先生に別れを告げて玄関口に向かうと帰りの音楽が流れ始めた。すると偶然にも吹奏楽部の集団が通りかかり、その後方にあかりの姿を見つけた。話しかけるだけなのに無駄に緊張してしまうが、今日の反省を踏まえて勇気を振り絞り声を掛けた。
「あかり、もし良かったら一緒に帰りませんか?」
「あれ、シュウ珍しいね。いいよ、一緒に帰ろうよ」
こうして2人並んで帰ったのはいつ以来だっただろうか。小学生の時は一緒に登下校していたが、中学生に進学すると予定が合わず、2人の時間は徐々に減ってしまっていた。それでも朝の登校だけは高校生になっても続いていた。
「実は傘を忘れてしまって響也にこの傘を買ってきてもらったんだ」
「そうだったんだね。今度からはちゃんと持ってこないと・・・」
「・・・」
あかりの声色を見るに怒ってはいない様子ではあったが、会話がいつものように続かない。いつも元気が取り柄のあかりらしくない。
「あかり、元気がないけど大丈夫?遅刻したことに怒っているならどうか許してくれませんか?」
なるべく波風を立てないように機嫌を伺った。
「違うの、それは関係ない。それよりも謝らないといけないのは私の方だよ。つい感情的になってシュウに酷いこと言ったから・・・」
「気にしてないよ。全ては遅刻した自分が悪いのだから」
「・・・」
再び会話が途切れてしまった。雨が降りしきる通学路を無言のまま歩いていると、あかりの方から話しかけられた。
「シュウ、覚えている?小学生の頃はよく一緒に帰っていたよね」
「懐かしいなぁ。あかりは男子に混じってドッヂボールしてたよね」
「私、お兄ちゃん子だったからその影響で男子と遊ぶことが多かったんだ。今思うと恥ずかしいよね。シュウは砂場でひたすら砂鉄を集めてたでしょ。あの砂鉄で何をしようととしてたの?」
「確か、砂鉄の泥団子を作ろうとして沢山集めてたけど、結局、上手く固まらなかったな。失敗したけど今となってはいい思い出だよ」
「はぁっ・・・あの頃みたいに、ただ無邪気に遊べる日々に戻りたいな・・・」
あかりの大きな溜息と今にも泣きそうな表情で、肩も震えてしまっていた。普段は絶対に人前で弱音を見せないあかりがここまで弱々しい姿を見たのは初めてだった。どうしてあかりがここまで追い込まれている状況になっているのか自分には分からなかった。
「あかり、いったい何があったんだよ。どんな事でもいいから話してくれないか?」
「別に何でもないよ・・・シュウには関係のない話だよ・・・」
「あかりが辛い思いを我慢しているのに放って置ける訳ないだろう!」
「いいから放っておいて!!」
あかりから拒絶的な言葉を聞いて驚きと戸惑いが虚無感へと変わっていった。
「ごめんなさい・・・明日にはきっと普通になるから・・・今だけは・・・」
「分かったよ。あかりの意志を尊重することにするよ。でも話したくなったらいつでも相談に乗るから。あかりの力になりたいんだ」
「今はその言葉だけで十分だよ・・・」
道なりに進んでいくうちにあかりの家の前まで来てしまった。必然的に2人で共有できる時間が終わろうとしている。
「明日の朝は絶対、遅刻しないから、一緒に学校行こうな」
「約束だよ。今日は一緒に帰れて楽しかった。さよなら、シュウ」
あかりを無事に見送ることができたが、結局何について悩んでいるのか分からずじまいだった。遠くで雷鳴が轟き、全ての感情を吐き捨てるかのごとく、冷たい土砂降りの雨が襲い掛かってきた。しばらくの間、その場から動くことができず、自分はただ呆然と立ち尽くしていた。
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