第16話 自責の念

結局あかりに何も伝えられないまま、昼食の時間になってしまった。謝る為の言葉にするのが今日は弁当を持たず慌てて家を飛び出したので、購買まで行かなくてならない。するとアヤ先生が教室に戻って来て、自分に話しかけてきた。

「今日の自己紹介の時は本当にありがとうございました。君が勇気を持って励ましてくれたおかげで、私は自信を持って授業ができたのだと思います」

「自分は大した事はしていません。それにあの時のアヤ先生の姿を見て居られなかったから・・・」

「私が頼りにならないばかりに、柊君に迷惑掛けてばかりでごめんなさい。それに本来はすぐに声を掛けなければならなかったのに・・・」

「そんな事は気にしないで下さい。それに数学の授業は問題なく出来ていたじゃないですか」

「数式を見ていると心が落ち着いてきて、安心できるの・・・ほら、世の中って不確定要素の方が多いじゃないですか。でも数学は規則性があるから論理的思考が出来るからって・・・何か変なこと喋ってますよね、分かってもらえないと自覚してるんですけど・・・」

「全然変じゃないですよ。自分は熱心に数学の授業をして下さるアヤ先生が好きです・・・。って、その、好きにもいろいろあるのですけど、その尊敬の意味合いの方で、落ち込んでいるより元気の方が似合うと言いますか・・・」

言い訳を重ねようとするほど墓穴を掘るのでこれくらいで言葉を止めた。そんな様子を見てアヤ先生は微笑みを浮かべて、自然と笑い声が漏れ出していた。

「月城せんせ〜い、私たちと一緒にご飯を食べませんか?是非、お菓子のレシピとか教えてくれたら嬉しいです!!」

一人の女子グループの生徒に食事の誘いを受けたアヤ先生は困惑していた。

「その、えっと・・・」

いつも自分達と一緒に昼食を取っていたので気にかけてくれたのだろう。

「自分のことは気にせず食べに行って下さい。それに今日はお弁当がないので買いに行かないと行けないので」

「分かりました。その・・・行ってきます・・・」

深々と頭を下げてお礼をした後、アヤ先生は女子グループに混ざり、楽しげにおしゃべりしていた。改めて教室を見渡してあかりを探すが何処にも見当たらない。スマホから通知の音が鳴り、確認すると響也が先に体育館で待っていると連絡があった。購買に寄ってから行きますとフリック入力で打ち込んでから、教室を後にした。


購買へ到着すると既にたくさんの人でごった返していた。アヤ先生と会話でスタートダッシュに遅れてしまった為なのだが、もちろんアヤ先生の責任ではない。全ては自分の甘さがこのような事態を招いてしまったのだ。いつものサンドイッチとメロンパンは既に売り切れていたので適当にパンを数個手に取り行列に並んだ。早くあかりに謝らなければならない。それが頭から離れない。いくら自責の念を嘆いても、行動に繋がらなければ意味はない。スマホを取り出してあかりに今どこにいますかとメッセージを送る。数秒後には既読のマークが付いた。怒っているウサギのキャラのスタンプと体育館に響也と一緒にいるよとメッセージが返ってきた。そんなやり方をしていると自分の番の会計が回ってきた。支払いを済ませてお釣りを素早く受け取るとようやく人混みから解放された。ミルクティーとだけ書かれた追加のメッセージがあかりから届いた。普段なら既読スルーを決め込むのだが、今回は自分に非があった。分かりましたと短い文章を送り、自販機の中で1番高いミルクティーと自分用の1番安いお茶を購入した。

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