第13話 寝不足

重い体を引きずって、まぶたをこすりながら、朝の身支度を整えていた。いつも通りの時間に起きれず、予定が大幅に遅れていた。それでも脳裏に浮かぶのはアヤ先生のことだ。まさかアヤ先生があがり症だったなんて・・・。教壇に立つと時に上手く話せないのは、単に経験不足だと思っていた。何度も練習を重ねれば克服できるはずだと気にも留めていなかった。あがり症について、ネットの記事を読み漁って、分かった事がある。あがり症は立派な病気の一つである事、アヤ先生自身が話すことに自信を持つことが大切であること、アヤ先生の不安な気持ちを理解して辛抱強く付き合いサポートすること、そして場合によっては専門機関に受診することも考えなければならないらしい。調べ物に夢中になった結果、睡眠不足に陥ってしまいこのザマである。おまけに今日の空はあいにく曇りがちで、日の光も見えず少し肌寒く感じた。家から勢いよく飛び出して、いつもの通学路を息を切らして駆けていく。これといった約束をしていないのであかりにも出会えなかった。ひとりぼっちで登校するのはいつ以来だろうか。なんだかんだで、隣にはいつもあかりがいた。昨日の夕食はカレーを食べたとか、誰と誰が付き合っているとか、取るに足らない話ばかりを聞かされた。そんな話に耳を傾けているだけで、自分の日常を色鮮やかにしてくれたことに今更、気が付いた。学校に着いたらあかりにちゃんと謝ろう。きっと寂しがっているはずだ。そして今後は遅刻はしないと心に決めるのだった。上之関高校は遅刻に厳しく、予鈴が鳴ると直ちに校門が閉じられてしまう。乱れた呼吸を整える暇もないまま、ようやく学校へ到着できた。幸運なことにまだ校門は開いていた。ほっと胸をなでおろし、肩呼吸をして体中に酸素を取り込んだ。これなら遅刻届を書かずに済みそうだ。静かに教室のドアを開いて、素早く自分の席に着く。誰かと話す余裕もないまま、朝礼が始まってしまう。今日は山田先生が教壇に立っていて、隣にアヤ先生が待機していた。

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