第10話 アヤ先生を探して

ようやく待ち望んだ放課後がやってきたのだが、ミスしてしまったアヤ先生の事が気になって、頭から離れない。昼ごはんの時の様子を見るとまた落ち込んでいるかも知れない。普段ならトンボ帰りで帰宅するところだがアヤ先生を探すことにした。

「響也、アヤ先生を見なかったか?また落ち込んでいないか心配で・・・」

「アヤ先生ならすぐ教室を出ていったよ。柊、気持ちは分かるけど少し過保護過ぎじゃないか?」

「ただの杞憂だといいんだけど、どうにも気が晴れなくて・・・」

昔のアヤねぇを知っている自分は、彼女が落ち込んだ姿を見たことがないので余計に心配なのかもしれない。

「一緒に探してあげたいけど、今日は役員の手伝いを頼まれてしまって、ごめんな」

「無理言ってすまない。1人でも探せるから大丈夫。また明日な」

響也に別れを告げて、教室を出ようとするとあかりに声を掛けられる。

「ツッキー先生を励ましに行くんでしょ?私も行く!」

「あかり、今の話を聞いていたのか?」

「大丈夫、私に任せて。私も行けば泥舟に乗ったつもりで安心できるでしょ」

「おいおい、泥舟だと全員沈んでしまうだろ」

「大船に乗ったつもりが正解だったな」

響也がさりげなく正しい解答を教えていた。いつもなら楽しい会話もどこか上の空で聞いていた。

「そんな事よりツッキー先生を早く探さないと・・・」

「あかり、あんた昨日も吹部さぼったんだから今日は来なさい!」

同じクラスメイトの友人にあかりは引き留められてしまった。

「サボってない!!昨日は英語の課題をやらされてたから行けなかったの!」

「開き直ってないで練習、練習。もう大会も近いんだから」

「はい、はい。分かりました。行けばいいんでしょ、行けば。」

「駄々をこねないの。子供じゃないんだから」

「そういうことでシュウ、ツッキー先生のこと頼んだよ、また明日ね」

最終的に1人でアヤ先生を探す羽目になった。ただ闇雲に探すのでは効率が悪いので、手始めに職員室へ寄ってみた。窓から職員室を覗いたがアヤ先生を見つけられなかった。他の先生にアヤ先生の居場所を聞くという選択肢もあったが、正直にアヤ先生が心配だから探していますと話す度胸が無かった。他にアヤ先生が行きそうな場所を考えているといつも昼ごはんを食べているあの場所ではないかと閃いた。隅っこの方で小さくなっているアヤ先生を容易に想像できた。慌てて体育館の裏手まで走り出す。すぐに目的地までたどり着くもアヤ先生の姿はない。ついでに体育館の中も覗いたが案の定、見つからない。他に考えも思い付かないので、1つずつ教室を見てまわる事にした。1階から3階までの校舎を早足で駆け回った。それでも見つけられない。別校舎の方かもしれないと渡り廊下を歩きながら、ふと我に返って考えていた。自分はアヤ先生の為に何が出来るのだろう。どのように声を掛けたらいいのだろう?そもそもアヤ先生は落ち込んでおらず自分を必要としていないのかもしれない。自問自答を繰り返し、思考が脳内を堂々巡りしていた。別校舎に着き、図書館や視聴覚室などの大きな部屋から探し回るも結果は散々だ。やれることはやった。また明日でもアヤ先生には会えるのだから無理せず家に帰ろう。そう自分に言い聞かせては現実逃避がしたかった。そんな時、使われなくなっていた空き教室からアヤ先生の声が聞こえてきた。不意に耳に飛び込んできた声を頼りに足を運んだ。教室のドアを勢いよく開けるとアヤ先生と柳原先生の姿があった。

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