第9話 些細なミス

長い時間の授業に耐え切って、本日最後のホームルームが始まった。もうひと踏ん張りで家へと帰り自由になれる。そう考えると自分は気が緩みそうな表情を浮かべていた。

「_き、昨日の渡した体育祭のプリントに出場したい種目に丸を付けて、提出して下さい。こちらからは以上で、私からは終了です」

相変わらずアヤ先生は緊張して連絡事項を伝えていた。自信を持って堂々と人前に立てるアヤ先生の姿はいつ見れるのだろうか?

「すみません、そのプリントをまだもらって無いんですけど・・・」

その生徒の指摘通り昨日は説明だけで終わってしまっていて、実際に配られてはいなかった。

「すみません、私のミスでした。すぐにお配りします」

アヤ先生はファイルからプリントを取り出そうとしたが手元が滑ってしまう。

「すみません、すみません。すぐに片付けます」

床に散乱したプリントを拾い集めようと、すぐに周りの生徒達も手伝い始めた。おかげで瞬く間に教室は片付き、すぐさま全員にプリントが行き渡った。

「皆さん、協力して頂きありがとうございます。私が鈍臭いばっかりに・・・」

アヤ先生は沈んだ表情を浮かべ苦悩が滲み出ていた。そんなアヤ先生を気遣って、山田先生は事態の収拾を推し進めた。

「えー、もう時間もないのでプリントに記入してから帰って下さい。全員出すまでホームルームは終わりません!」

慌ててプリントに目を通して体育祭の種目を確認する。上之関高校の体育祭は、学年別の対抗戦形式で行われており、特に運動部が激しい競技でしのぎを削っている。その様子はとても盛り上がりを見せて、地域の人々にも支持されている。体力に自信のない自分には無縁の話であるが、団体戦で目立たない玉入れ、綱引き、大玉転がしに丸を付けた。

「えー、今年の体育祭も全力で取り組みましょう。特に野球部、最高のパフォーマンスで2年生チームを引っ張っていけるように頑張りましょう!」

「はいっす。今年も優勝目指して頑張るっす。」

山田先生の熱い言葉で野球部員達は決意を新たにしていた。そんなやり取りをしているとクラス全員分のプリントが集まった。誰だって無駄にクラスに残りたくないのだろう。

「えー、これでホームルームを終わります。また明日も会いましょう、以上」

居残りになると思われたホームルームは案外そっけなく終わった。

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