第4話 放課後の騒動
ホームルームの時間、山田先生とアヤ先生2人が並んで教壇に立ち、話を進める。
「えー、ではホームルームを始めます。月城先生、司会の方お願いします」
「えっと、さ、最近、学校周辺の東通りの方で不審者が相次いでいると、です。なので、登下校の際はなるべく2人以上で行動するとか、人通りの多い場所を通る事になるようにお願いします。じ、自分の身は自分で守ることが大切なのです。あの、何か不審な人物を目撃したならば、担任や警察に報告をしてください。」
アヤ先生はまだ人前で話すことに慣れていないのか、セリフがたどたどしく、言葉遣いも所々間違っていた。
「あと、水曜日のロングホームルームでは体育祭の打ち合せします。えっとこちらのプリントを配ります。参加する種目が書いてあるので目を通し、記入しておいて下さい。私からは以上です。」
まだ緊張が抜けきれておらず、ぎこちないながらも、アヤ先生なりに一生懸命に連絡事項を伝えようとしていた。
「えー、月城先生ありがとうございます。場数を増やせばね、緊張せずにちゃんと教えられるようになるので頑張って行きましょう。あとはお前らもいい大人なんだから提出物出せよ!以上!」
山田先生はホームルームを投げやりにして終わらせた。それでも今日も一日無事に過ごすことができた。引き出しの中の教科書やノートをかばんに詰め込んで帰宅する準備をしているとあかりが泣きながら駆け寄ってきた。
「シュウ~、英語の課題手伝って~」
「あかり、お前だったのか。提出物やってない奴は」
「あと何ページくらい残っているんだ?」
そんな姿を見かねてか、響也も救いの手を差し伸べる。
「穴埋め問題のページだけ残ってる」
「問題の答えを教えても、理屈が分からないと本人のためにならんからな」
あかりには響也の爪の垢を煎じて飲ませたいくらいの真っ当な回答だった。
「何でもいいから教えてよ、このままだと私、山田先生に怒られちゃうじゃない」
「自業自得だろ」
「小学校からの親友を見捨てるの、信じられない!」
「そもそもどうして2人とも今日の昼休みに居なかったの?せっかく課題教えてもらおうとしてたのに」
「まぁ、色々あってな」
当然、アヤ先生と会っていたなどとは言えず、話の論点をずらして茶を濁すことにする。
「そもそもなんで当日に慌ててやるんだ、もうちょっと計画的に出来たはずだろ」
「私は8月31日の1日ですべての宿題を終わらせてきた女よ」
「それは威張れることじゃないだろ」
「とにかく始めないと。帰りの電車の時間もあるから1時間くらいしか手伝えないぞ」
こうして放課後は、あかりの課題を手伝う羽目になった。
「この文の例題は、子犬が月を見上げています。現在進行形でbe動詞とing形になるからThe puppy is looking up at the moon.が正しい表現になるけどわかる?」
「ふむふむ、分からない所がわからない」
「・・・」
さすがの響也もお手上げ状態で困り果ててしまった。そして締め切りまで残りわずか30分に迫っていた。
「どうしよう、もう時間がないよ」
「考え方は教えたから、後は解くだけだろ?」
「まだ、諦めるなよ。あかりならきっとできるはずだ」
「そうだよね。とにかく今は、集中、集中。間に合え〜!!」
気合と根性で次々と問題を解き続ける。その表情には鬼気迫る凄みがあった。
「はぁっ・・・終わった・・・。採点お願いします・・・」
苦労の末にようやく課題を終わらせた。窮地に立たされるほど人間は驚く程の力を発揮するようだ。
「すごい・・・半分も正解している」
普段の実力なら3割が妥当だろう。火事場の馬鹿力で知的能力も上がっているのだろうか。
「何でもいい、とにかく提出してくる。ありがとう2人とも、またね」
こうして嵐は過ぎ去って行き、教室は普段の静けさを取り戻した。
「俺たちも帰るか」
「だな。お疲れ様、響也。また明日な」
あかりが戻るのが遅くなると踏んで2人は早々に帰路に着いた。後から聞いた話だと、予想通りあかりは19時過ぎまで間違えた問題を解き続けたと言う。
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