第22話 ルソンをめざして

空想時代小説

 前回までのあらすじ 

 小田原・石垣山にて政宗の影武者が秀吉を殺める。その後、秀吉軍は崩壊し、北条家が巻き返す。政宗は佐竹を攻めると見せかけて反転し、宿敵相馬氏を倒す。以後、北の南部氏、越後の上杉氏を降伏させる。上杉氏に従属していた真田氏も降伏してきた。その真田氏の上州の領地を欲した北条氏と戦い、これを滅ぼす。ここに政宗の東国支配が決まる。

 10年後、西国を支配した徳川家康が幕府を開き、政宗は副将軍となり、家康とは不干渉同盟を継続することとなる。だが、家康が亡くなり、秀忠の時代となると不穏な動きが見られ、信州と小田原で戦が起きる。秀忠は家臣の勝手な行動と主張するが、虚偽であることは明白だった。そして政宗は反撃を開始する。水軍の活躍もあり、秀忠を隠居に追い込むことに成功する。

 3代将軍に家光をたて、政宗は隠居し、異国へ旅立つことを決めた。そして政宗はルソンへ到着した。そこでキリシタンとなり、イタリア・ローマへ行くことを決意する。途中の港では幾多の苦難にあう。それを乗り越えていよいよヨーロッパへ入り、イタリアへ到着した。ローマ教皇に謁見し、貴族に任じられるものの、想定外の出費を強いられ、長くはいられないと判断した。

 帰路につくが、途中で攻撃を受け、政宗は負傷する。医者がおらず、厳しい航海となる。


 アフリカから出航して3日目に、嵐に遭遇した。雨が降ってきたと思ったら、風がだんだん強くなってくる。嵐にあうのは初めてではないので、皆で協力して乗り切った。まる一日嵐とたたかった。夜になって、星空を見ると南十字星がやたらと高い。予定よりだいぶ南へ流されたようだ。長房(26才)と隼人(25才)は地図とにらめっこして、現在地を割り出していた。赤道よりもだいぶ南に位置していることは明らかだった。

「長房殿、北のコロンボをめざすより、東の島をめざした方が早いのでは?」

「確かに、スマトラ島につけば、コロンボに行くよりルソンは近いな。だが、あそこはムスリムのアチェ王国だ」

「ムスリムとて、平和を欲しているはず。こちらが交易を希望していることを明かせば、無下にはしないかと」

「マルコ神父らには、船室にこもっていてもらわねばならぬな」

「仕方ありませぬ」

 二人は、東へ東へと船を進めた。赤道直下をすすむよりは、若干過ごしやすかったし、季節風は北東へ向かってふいており、絶好の風であった。

 12月にはスマトラ島が見えてきた。日の本ジパング号は、ブンクルという港に入港した。すると、そこには見たことのない国旗の船がいた。フランスに似ているが、三色旗は横になっている。身振り手振りで聞くとオランダ(ネーデルランド)ということだった。隼人たちにとっては、初めて聞く国であった。なんとか食料や水を補給して船にもどると、すぐに出航となった。マルコ神父(55才)にオランダの名を伝えると、顔を青ざめて

「あぶない国です。フランスの北にある国ですが、交易で栄えている国です。キリシタンですが、カトリックではなくローマ教皇と争っています。彼らは、聖書が第一で神父を神の使いと思っていません。私が乗っていることがわかったら攻撃されます」

 日の本ジパング号は、スマトラ島とジャワ島の間のスンダ海峡を越えた。ここから赤道直下で陽射しが厳しい。昼は休養し、夜に北極星をめざして進んだ。このあたりから政宗(54才)の容体がまた悪くなってきた。塗り薬はすでになく、弱った体力で暑さに負けている感じだった。高熱ではなかったが、体がだるいということで、横たわってばかりいる。もうじきルソンというところで、長房と新九郎(29才)が政宗のところにやってきた。

「お屋形さま、もうじきルソンに着くと思いますが、新九郎殿から相談があるとのことです」

「うむ、なんだ新九郎?」

「はっ、実は残っている金銀ですが、日の本に帰る分の補給品を購入する程度しか残っておりません」

「それの何が問題なのだ?」

政宗は、体が弱っているだけでなく、カンも鈍っている。

「お屋形さま、水夫たちの給金がないのです。ルソンで払う約束でした」

「そういえば、そうであったな。給金を払えば日の本に帰れずか?」

しばらく沈黙の時間が続いた。そこにマルコ神父(55才)がやってきた。その時、政宗があることを思い出した。

「そういえば、あれがあった。マルコ神父ありがとう!」

マルコ神父は、なんのことかわからず、ぽかんとしていた。その姿を横目に3人は頭を寄せ合って相談した。

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