第21話 さらばヨーロッパ

空想時代小説

 前回までのあらすじ 

 小田原・石垣山にて政宗の影武者が秀吉を殺める。その後、秀吉軍は崩壊し、北条家が巻き返す。政宗は佐竹を攻めると見せかけて反転し、宿敵相馬氏を倒す。以後、北の南部氏、越後の上杉氏を降伏させる。上杉氏に従属していた真田氏も降伏してきた。その真田氏の上州の領地を欲した北条氏と戦い、これを滅ぼす。ここに政宗の東国支配が決まる。

 10年後、西国を支配した徳川家康が幕府を開き、政宗は副将軍となり、家康とは不干渉同盟を継続することとなる。だが、家康が亡くなり、秀忠の時代となると不穏な動きが見られ、信州と小田原で戦が起きる。秀忠は家臣の勝手な行動と主張するが、虚偽であることは明白だった。そして政宗は反撃を開始する。水軍の活躍もあり、秀忠を隠居に追い込むことに成功する。

 3代将軍に家光をたて、政宗は隠居し、異国へ旅立つことを決めた。そして政宗はルソンへ到着した。そこでキリシタンとなり、イタリア・ローマへ行くことを決意する。途中の港では幾多の苦難にあう。それを乗り越えていよいよヨーロッパへ入り、イタリアへ到着した。ローマ教皇に謁見し、貴族に任じられるものの、想定外の出費を強いられ、長くはいられないと判断した。


 1619年7月、日の本ジパング号は、イタリアを後にした。帰りは、寄港を少なくし、できる限り早く行くこととした。経費を極力減らしたいからである。まずは、カナリア諸島のラスパルマスをめざした。

 ジブラルタ海峡を越える際に、想定外のことが起きた。砲撃をくらったのである。来た時は、イスパニアの軍船に付いてきたので、砲撃を受けなかったのだが、今回は単独での航海である。大砲を撃ってきたのは、左岸からであった。マルコ神父が

「向こうはムスリム(イスラム)です。右岸に寄ってください」

と叫んだ。宗教戦争の舞台なのである。幸いにも船自体には被害はなかった。しかし、砲撃の衝撃で船が揺れ、何人かがけがをした。政宗(54才)もその一人であった。頭をしこたまぶつけた。めまいがして、しばらく歩けないぐらいであった、この船には医者が乗船していない。多少、医学の知識があるのは横山隼人(25才)で、外科的な症状には対処できるが、打撲によるめまいは、隼人の知らぬ世界であった。ただ様子を見るだけしかできなかった。

 ラスパルマスに着いて、医者に診てもらったが、めまいの原因はわからなかった。

「視神経かもしれない」

と言われたが、処置のしようがないということだった。時折、めまいに悩むことはあったが、政宗は自室で旅の記録を書くのを日課としていた。

 アフリカでは、リベリアのロバーツポートに入港した。いろいろな国の船が入港していたが、エゲレス(イギリス)の船が多く、長居は無用と、補給だけをして早々に出港した。この時には、クロス旗とライオン旗は降ろしていた。イスパニアの船と思われるよりは、ジパングの船と思われた方が補給がしやすいのである。入港の際、マルコ神父らには船室にいてもらっっていた。次は、ホープ岬(喜望峰)近くのケープタウンである。

 来る時と同じ10月にケープタウンに着いた。ここもエゲレスの影響が強い港である。ここも補給を終えたら早々に出港しようといたところ、よく見た船が近づいてきた。ホープ号である。横付けしようとして近づいてきている。何かを叫んでいるが、エゲレス語なので何を言っているかさっぱりわからない。何事かと、マルコ神父が船室から出てきてしまった。船が動いていたので、油断をしたのだろう。その姿を見たホープ号で、あわただしい動きが起きた。不穏な動きを感じた船長の長房(26才)は、甲板員に警戒を命じた。

 ホープ号は左舷から近寄ってきた。ホープ号の櫓は引き揚げられている。体当たりをするかもしれない。そう感じた長房は、水夫長の大場(26才)に櫓を引き揚げるように指示した。ジパング号の櫓が揚がった瞬間、ドシーンと衝撃がきた。そして、ホープ号から船員が飛び込んできた。ジャンプしてくる者、ロープで渡ってくる者、はしごをかけて渡ってくる者、総勢20名ほどが襲いかかってきた。

「海賊の襲撃だ!」

長房の大きな声で、いたるところで斬り合いが始まった。敵は、短剣や太くて大きくそった刀をもっていた、こちらは短い日本刀である。やや不利な状況だ。そこに船室から政宗や、太田光三(31才)・横山隼人(25才)・遠藤又右衛門(26才)が出てきた。隼人が繰り出す手裏剣は、威力があった。相手を死にいたらしめるほどではないが、戦闘能力を奪うには充分だった。太田光三もばったばったと敵を切り倒している。又右衛門も鉄砲の準備ができるとホープ号から飛び移ろうとしている敵を正確無比にとらえていた。政宗も斬り合いに参加した。敵を10人ほど倒したところで、敵はホープ号にもどっていき始めた。その時、政宗がめまいにおそわれた。その瞬間、敵の刃が政宗に振り落とされた。が、そこに隼人の手裏剣がとび、その敵は海に落ちた。

「お屋形! 大丈夫ですか!」

長房が近寄り、政宗を抱きしめた。

「さしたることはない。かすり傷だ」

と言ったが、左の肩から血が流れている。かすり傷ではない傷の深さだった。酒で消毒したが、ばい菌が入れば敗血症になる可能性がある。清潔なさらしを巻いたが、船内には大量にさらしがあるわけではない。隼人は長房に早く港に寄ることを進言した。しかし、ケープタウンに入港するわけにはいかない。ホープ号がまた現れるかもしれないし、仲間の船がいるかもしれないのである。早くこの海域を離れる必要があった。水や食料は半分の10日分をきっている。陸地から離れて航行したので、極地に近い航路を通った。行きよりも寒い。とても初夏とはおもえない寒さである。

「あれは何だ!」

見張りの甲板員が叫んだ。巨大な白い物が近づいてくる。マルコ神父が

「あれは流氷です。南極の氷が砕けて流れてきたのでしょう。近づくと危ないです。あの氷の下は大きな岩と同じです。流氷にぶつかって沈む船もいます」

皆、初めて見る流氷にあっけにとられている。それにしても寒い。濾過樽用の炭がなければ凍え死んでしまうところだった。幸いなことに風があったので、船は帆を張って進むことができた。水夫たちは、櫓を引き揚げて全ての穴をふさいだ。風が入るのを防いだのである。水夫たちは体を寄せ合って寝た。

 政宗は、高熱をだしていた。太田と守之助(29才)が交替で看病している。きれいなさらしがないので、使うたびに洗っていたが、さらしが凍ってしまい、乾かすのに苦労した。消毒用の酒も不足してきている。船内は禁酒となっていたが、だれも文句は言わなかった。

 ケープタウンを出て7日目、遠目のきく一豊(26才)が遠くに煙が立つのを見た。長房は、船首をそちらに向けさせた。甲板員に警戒をさせた。海賊の煙かもしれないからだ。

 近くへ行くと、そこは小さな港であった。早舟で上陸すると、そこにはエゲレス人がいた。イスパニア語を話すとまた襲われるかもしれないので、身振り手振りで補給品を確保した。持ってきた金銀の力は大きい。

 補給担当の横山隼人は、酒とさらしになる布の確保もした。医者をさがしたが、いそうもなかった。そこで、隼人はエゲレス人の前で、刀を抜き自分の左腕を傷つけた。血がにじんできた。それを見たエゲレス人は、びんに入った薬をもってきた。消毒薬であろう。それが乾くと塗り薬をつけた。これが治療薬だということはわかった。その薬を譲ってくれるように頼んだ。が、なかなか譲ってくれない。船に病人がいるということを身振り手振りで現したが、上手く通じない。結局、金を一枚ずつ見せて、向こうが納得するまで積み上げた。予想外の出費だった。

 船にもどると、皆から喜ばれた。水や食料がなくなりかけていたのだ。隼人が入手した薬を早速政宗に施してみた。翌日には、政宗の熱が引いていた。皆、ホッとした。その後、いくつかの港により、インド洋横断のための食料を補充していった。水は樽を増やすわけにはいかないので、雨頼みだった。めざすはコロンボである。

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