第19話 ヨーロッパ入国

空想時代小説 

 前回までのあらすじ 

 小田原・石垣山にて政宗の影武者が秀吉を殺める。その後、秀吉軍は崩壊し、北条家が巻き返す。政宗は佐竹を攻めると見せかけて反転し、宿敵相馬氏を倒す。以後、北の南部氏、越後の上杉氏を降伏させる。上杉氏に従属していた真田氏も降伏してきた。その真田氏の上州の領地を欲した北条氏と戦い、これを滅ぼす。ここに政宗の東国支配が決まる。

 10年後、西国を支配した徳川家康が幕府を開き、政宗は副将軍となり、家康とは不干渉同盟を継続することとなる。だが、家康が亡くなり、秀忠の時代となると不穏な動きが見られ、信州と小田原で戦が起きる。秀忠は家臣の勝手な行動と主張するが、虚偽であることは明白だった。そして政宗は反撃を開始する。水軍の活躍もあり、秀忠を隠居に追い込むことに成功する。

 3代将軍に家光をたて、政宗は隠居し、異国へ旅立つことを決めた。そして政宗はルソンへ到着した。そこでキリシタンとなり、イタリア・ローマへ行くことを決意する。途中の港では幾多の苦難にあう。それを乗り越えていよいよヨーロッパへ入ることとなる。


 年があけ、10日ほどでジブラルタ海峡に入った。左右に陸地が見える狭い海峡である。左右の勢力がにらみあっており、いつ紛争が起きても不思議ではない。怪しいと思われたら、大砲の弾がとんでくるのかもしれないのだ。単独で来たら弾がとんできたと思われる。

 翌日、イスパニア(スペイン)のマラガの港に入港した。さほど大きな町ではないが、政宗(54才)にとっては、夢見たヨーロッパの街並みそのものであった。マニラの教会で見た絵の景色がそこにはあった。石で造られた家が続き、市場もにぎやかである。

 補給後、バルセロナに向かって出航した。7日で到着した。海はおだやかだった。青い海の向こうに、小高い丘が見え、白い建物が連なって建っている。そして青い空。絵心があれば、画にしたいくらいだった。不思議なのは樹木が極端に少なかったことぐらいである。軍船に感謝の表敬訪問をし、ここで別れた。

 軍船の船長は2つの旗をくれた。キリシタンである証しのクロスの旗と、イスパニアと友好関係である証しのライオンの紋章である。もちろん、船長には充分すぎるくらいの金銀を渡した。そしてバルセロナで二人の通訳を雇った。フランス語とイタリア語の通訳である。長房(26才)とジョアン(23才)のイスパニア語がこれから通用するかどうかが心配だったからだ。バルセロナは、イスパニアとはいえ、なまりの強い地域だったのである。ちょっとわかりにくいところもあったが、なんとかわかりあえた。通訳の身分の証明も軍が仲介してくれたので、確かなものだった。遭難した漁師などといううさん臭い人間はもうこりごりだった。

 4日でフランスのマルセイユに着いた。丘の上に大きな教会があり、港の入口には要塞があった。イフ要塞というらしい。ここから大砲で撃たれたら終わりである。バルセロナとは、また雰囲気が違い華やかさがあった。政宗はここで食べた海鮮スープが忘れられなくなった。ブイヤベースである。日の本にもどったら自分で作りたいと思い、通訳を介して作り方を教わった。通訳のジョアンは、(大名が自分で料理することなんてあるのか?)と不思議であった。でも、そういう他愛のない姿を見せる政宗に親近感をもちはじめていた。本来ならば、日の本の副将軍である。下々の者が近寄れぬ人なのである。

 マルセイユの次に、イタリアのジェノバに寄り、いよいよローマの近くのチヴィタヴェッキアに到着した。多くの船が行き交いしているし、大船がつける桟橋もあった。ここから馬車でローマに向かう。馬車で一日の距離である。しかし、突然行くわけにはいかない。港湾長に付け届けをして、紹介状を書いてもらった。もちろん、政宗もイタリア語の書簡をだした。政宗が話したことをジョアンがスペイン語に直し、それをバルセロナで雇ったイタリア語の通訳が訳し、港湾長が紹介してくれた書記官が書簡を書くという手間がかかる作業だった。書簡を書くだけで1日かかった。その書簡をもって、港湾長の部下とジョアンが先行した。ジョアンが返書を持ってきたのは、10日後だった。巨大な教会なので、書簡を受け取ってもらうだけで3日かかり、返書がもらえたのはその5日後だったのである。ジョアンはイタリア語の通訳を連れていくべきだったと後悔していた。スペイン語のわかる相手をさがすのに苦労したらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る