第18話 コロンボからアフリカへ

空想時代小説 

 前回までのあらすじ 

 小田原・石垣山にて政宗の影武者が秀吉を殺める。その後、秀吉軍は崩壊し、北条家が巻き返す。政宗は佐竹を攻めると見せかけて反転し、宿敵相馬氏を倒す。以後、北の南部氏、越後の上杉氏を降伏させる。上杉氏に従属していた真田氏も降伏してきた。その真田氏の上州の領地を欲した北条氏と戦い、これを滅ぼす。ここに政宗の東国支配が決まる。

10年後、西国を支配した徳川家康が幕府を開き、政宗は副将軍となり、家康とは不干渉同盟を継続することとなる。だが、家康が亡くなり、秀忠の時代となると不穏な動きが見られ、信州と小田原で戦が起きる。秀忠は家臣の勝手な行動と主張するが、虚偽であることは明白だった。そして政宗は反撃を開始する。水軍の活躍もあり、秀忠を隠居に追い込むことに成功する。

 3代将軍に家光をたて、政宗は隠居し、異国へ旅立つことを決めた。そして政宗はルソンから来た大船に乗って旅だち、ルソンへ到着した。そこでキリシタンとなり、イタリア・ローマへ行くことを決意する。途中の港では幾多の苦難にあう。それを乗り越えてコロンボへ向かう。


 日の本ジパング号は、セイロン島の東側を航海した。いたるところ原生林だらけである。港が見えたら食料補給のために寄るつもりだったが、とうとうコロンボまでなかった。雨は毎日のように降ったが、嵐になるほどではなく、熱帯の航海としては楽な方だと思った。なにせ、太陽がでると40度を超す暑さなのである。

 コロンボは落ち着いた仏教都市であった。パゴタは金ぴかではなく、日本と同じような黒を基調としている。形はタマネギ形をしているものもあったが、政宗にとっては好感のもてる町であった。ここはポルトガルの支配ではなく、エゲレス(イギリス)の影響が強いところであった。ポルトガル語は、イスパニア語に似ているので、通訳や長房(25才)でも理解できたが、エゲレス語は全くわからなかった。食料確保はできたが、人捜しは難しかった。マダガスカルのことを知る人間は見つからなかった。だが、幸運なことがあった。政宗が酒場で親しくなったエゲレスの船長がホープ岬経由で帰るというのである。付いてこれるなら付いてこい。ということをイスパニア語とエゲレス語の二人の通訳を介して理解することができた。エゲレスの船はホープ号という。コロンボには胡椒と茶を求めにきたとのこと。そして帰りにはアフリカの港により、人を乗せて帰るということであった。このことを政宗が得意げに長房に話すと、

「エゲレスは信用できませぬ。奴らは野蛮人です。ですが、お屋形さまが決めてきた話ならば、いた仕方ありませぬ。その船に付いていきましょう」

長房は、イスパニア人からエゲレスの横暴ぶりを聞いていた。大昔はバイキングという海賊集団の国だった。そしてカトリック教徒であるスコットランド女王を暗殺し、ローマ教皇から破門されたという歴史をもっていた。イスパニアとは犬猿の仲である。

 2日後、日の本ジパング号の方はホープ号とともに出航した。船の大きさはほぼ同じであったが、帆の数はホープ号の方が多かった。風がある時は、ホープ号の方が速かったが、櫓の動きがまるで違うのである。その理由は後日わかった。連日、雨が降ったが大きな嵐にはあわずにマダガスカルに着いた。早舟に乗り換えて、水と食料の確保に向かった。町はなく、自分たちで川から水をすくい、樹木から果実をとった。原住民とは出くわさなかった。だが、大船にもどろうと早舟に乗り込んだところで、槍や矢がとんできた。ほうほうの体で、大船にもどってこれた。早々にマダガスカルを離れた。

 その後、アフリカ本土の港に何ケ所か寄り、ホープ岬に到着したのは、10月になっていた。南半球なので、これから夏を迎えようという初夏のはずだったが、やたら寒かった。船員たちは、常夏のルソンからきている者が多いので、震えている者が多かった。これで嵐がきたら死ぬなと長房は思った。濾過樽用に作っていた炭が役にたった。

 南アフリカのダカールという港に着いた時に、数日逗留するということで、政宗たちも上陸した。黒人だらけの港町である。初めて見る日本人を見て、

「ジパン、ジパン」

と何度も言っていた。

 ホープ号に酒を持って表敬訪問をした。船長室で食事をしながらお互いわけのわからない会話をしていた。同席した通訳も、酒の場の戯言を訳すのは難しかった。帰り際、水夫たちの船室をのぞき込むと、そこには、やせこけた黒人の水夫たちがいた。それも足元には鎖が巻かれていた。通訳が

「この者たちは奴隷ですね」

と政宗に話しかけようとしたら、ホープ号の船長の目が厳しくなった。そこで話をやめ、政宗たちは日の本ジパング号にもどった。ジパング号にも黒人の水夫がいるが、たくましく力があり、頼もしい存在である。長房が、政宗から聞いた話をその黒人に話したら、武器をもってホープ号に乗り込むと言い出した。そのあまりの剣幕に、皆驚いたが水夫仲間がなんとかなだめてやめさせた。その黒人は、

「あの船は奴隷船だ。奴隷に櫓をこがせて航海している。足元には鎖が巻かれ、ろくな食事も与えられず、死ぬと海に投げ出される。そして新しい奴隷が補給される。見ていろ。今に、あの船には奴隷が乗せられるぞ。あいつらは奴隷商人だ!」

と叫んでいた。その言葉どおり、翌日には多くの黒人が鎖でつながれ、船に乗せられた。男だけでなく、女や子どももいる。100人は越えただろうか、船室に入りきれない黒人は甲板に横たわっている。それも隙間がないくらいに。やはり奴隷として売られるのだろう。政宗(53才)や長房ら、日の本ジパング号の面々は嫌悪感を感じた。しかし、これが世界の常識なのだ。日の本でも奴婢という身分の人間がいる。力のない者はそういう運命になりかねないのだ。

 ホープ号は、この後エゲレスに向かうということで、ここで別れた。それでなくても、もういっしょには行けないと思っていた政宗であった。幸いなことにカナリア諸島に帰りたいという漁師に出くわした。ダカール沖で難破し、3ケ月ほどここにいたとのこと。カナリア諸島は、イスパニア(スペイン)の影響が強い。ヨーロッパの入り口であるジブラルタ海峡にも近い。いよいよヨーロッパに近づくということで、皆意気揚々であった。

 10日でカナリア諸島のラスパルマスの港についた。大きな港町で、多くの漁船がいた。その漁師の案内で、政宗と太田光三(30才)と通訳が、漁師組合の組合長というところに連れていかれた。漁師を連れ帰ってきたので、礼を言われるのかと思っていたら急に縄でしばられ、牢屋にぶちこまれた。通訳の話では

「どうやら、ここは悪党の巣のようです。あの漁師は我々を売ったんです。我々のことを金持ちだと言っていました」

「全く、油断のならぬ連中だ。エゲレスもイスパニアも似たようなもんだ。太田、何とかなるか?」

「逃げる手立てはありまする。お屋形さま、拙者の帯の中に小柄(細長い手裏剣)がありまする。何とか取れますか?」

「うむ、やってみる」

政宗は手首を縛られた手を太田の帯に突っ込み、小柄を探した。何とか探し出し、太田の口にそれをもっていった。太田が、小柄を口にし、政宗を縛っていた縄を切り落とした。ここまでくると、後はすんなりである。全ての縄を切ることができた。次は脱出である。通訳が

「わたしが、大声で助けを呼びまする。お屋形さまや太田殿はひん死の状態でいてくだされ。様子を見にきたところをつかまえれば、脱出できるかも・・・?」

「うむ、やってみる価値はある」

政宗と太田は、切った縄を体に巻き、横たわった。それを見て、通訳がイスパニア語で

「大変だ! 二人が苦しんでいる。死にそうだ!」

と叫んだ。すると、一人の男が入ってきて、牢屋の扉をあけた。一歩ふみこんだところで、太田がとびかかった。政宗もなわで相手を締め付けた。しばらくして、男は息絶えた。3人は難なく脱出できた。別室には政宗たちの刀もあった。

「おかしい。他の者たちはどこへ行った?」

「お屋形さま、船が危のうございます」

「確かに!」

3人は港へ走った。すると沖合にいる日の本ジパング号にウンカのごとく漁船が群れかかっていた。鉄砲を撃ちあっている。港では何事かと野次馬が集まってきていた。3人はどうやって船にもどろうかと思案していたら、通訳が銃を持った兵士らしき人間を見つけた。その人間にイスパニア語で何かを訴えている。すると、その兵士らしき人間は走っていき、軍船に乗り込んでいった。その軍船の脇から大砲も備えた小舟が出航していき、ジパング号を取り巻いている漁船を駆逐し始めた。漁船団は四散していった。3人はほっと胸をなでおろし、政宗が通訳に問うた。

「お主、あの兵士になんと言ったのだ?」

「はっ、あの船は日本のキリシタン大名の船で、これからローマ教皇に会いにいくところだ。まわりの漁船が悪党どもで、ローマ教皇への土産をねらっている。と言ったのです」

「確かに・・・・嘘ではないな」

政宗は通訳の機転に感心していた。この通訳、河合ジョアン(22才)という。ジョアンの父は高山右近に仕えていたという。それで信房と面識があり、今回の航海についてきたのである。

 翌日、イスパニア(スペイン)の軍船に礼を兼ねて、表敬訪問をした。箱に金銀を詰めていった。今回は船長の信房も同行した。軍船の船長は、いたく感激し、バルセロナに行く予定があるので、付いてくるかと誘ってくれた。この申し出には、信房も喜んだ。軍船がいっしょならば、途中のジブラルタ海峡も抜けやすいからである。軍船にとっても2艘の方が心強いし、バルセロナに着いてからの礼も期待できるからであろう。

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