第16話 出航

空想時代小説

 前回までのあらすじ 

 小田原・石垣山にて政宗の影武者が秀吉を殺める。その後、秀吉軍は崩壊し、北条家が巻き返す。政宗は佐竹を攻めると見せかけて反転し、宿敵相馬氏を倒す。以後、北の南部氏、越後の上杉氏を降伏させる。上杉氏に従属していた真田氏も降伏してきた。その真田氏の上州の領地を欲した北条氏と戦い、これを滅ぼす。ここに政宗の東国支配が決まる。10年後、西国を支配した徳川家康が幕府を開き、政宗は副将軍となり、家康とは不干渉同盟を継続することとなる。だが、家康が亡くなり、秀忠の時代となると不穏な動きが見られ、信州と小田原で戦が起きる。秀忠は家臣の勝手な行動と主張するが、虚偽であることは明白だった。そして政宗は反撃を開始する。水軍の活躍もあり、秀忠を隠居に追い込むことに成功する。3代将軍に家光をたて、政宗は隠居し、異国へ旅立つことを決めた。そして政宗はルソンから来た大船に乗って旅だち、ルソンへ到着した。そこでキリシタンとなり、イタリア・ローマへ行くことを決意する。


 雨季が始まる前の4月。日の本ジパング号は出航した。総勢200名の航海である。まずは、マラッカ海峡のシンガプーラ(シンガポール)をめざした。航海は順調だったが、海賊が横行する地域である。夜であっても見張りを怠ることができなかった。10日でシンガプーラへ着いた。ここはマラッカ王国の都市だったが、最近ポルトガルに侵攻され、戦乱の跡がいたるところにあった。それでも、水と食料の補給はできた。政宗(53才)が用意した金銀は効果大であった。しかし、この取引を見ている集団がいた。海賊シャチの一団である。

 早々にシンガプーラを出航した。静かな風が吹いていたので、櫓をこぐ水夫は休ませて、10人ほどの甲板員が見張りをしながら操舵していた。新月なので、星がきれいに見える。北極星ではなく、南十字星が羅針盤となっていた。

 その夜、海賊集団が襲撃してきた。10艘ほどの小舟で、静かに接近してきて船縁に鉤のついた縄をかけて登ってきた。見張りは、黒ずくめの海賊集団の襲撃に気づかなかった。見張りの内、2人が首を斬られて即死した。操舵を担当していた航海士の横山隼人(24才)が異変に感じた。操舵手は、甲板より一段高いところにあるので、甲板にあるかがり火によってわかったのである。

「曲者だ!」

その声で、他の甲板員は刀を握った。甲板員は短めの日本刀を持っていた。いたる所で斬り合いが始まった。海賊はおよそ20人。政宗勢は劣勢である。船長室から長房(25才)も出てきた。長房は、大事な舵を守りに階段を登った。そこに海賊の一人が向かってきた。長房は背を向けている。危ないと思われた瞬間、海賊は倒れた。手裏剣によって死んでいる。長房が、手裏剣がとんできたところを見ると、そこには横山隼人がいた。

「長房殿、舵を!」

と言い、忍び刀と手裏剣で次々と海賊を倒していった。船室へ侵入されたら政宗や金銀がねらわれる。隼人は必死になって戦った。10人ほど倒したところで、海賊は引き揚げていった。海賊の仲間を連れて、また襲ってくるかもしれないので、水夫を起こして全力でその海域から離脱した。狭い海峡なので、全力で行くのは座礁の危険性があったが、南十字星が方向を示してくれていた。

 政宗が船室から出てきて、長房と隼人を呼んだ。

「危なかったな。よくぞ守ってくれた。隼人の活躍うれしく思うぞ。お主の父も喜んでいるであろう」

政宗が二人にねぎらいの言葉をかけた。

「船を守るのは、我らのつとめ。当たり前のことでございますが、隼人は忍びだったのですか?」

「長房に教えていなかったな。我が家中の忍び集団黒はばき組の頭領横山左膳(50才)の息子じゃ。次男坊ゆえ、わしについてきたのじゃ」

「そうでありましたか。頼もしき存在ですな」

「そうだ。今のうちに家中の主な家臣団を紹介しておこう。隼人、例の6人を連れてきてくれ」

「はっ、わかりました」

と言って、隼人は6人の武士を連れてきた。

「この面々がわしの警護でついてきた家臣じゃ。年の順に紹介させよう」

「拙者は、太田光三(30才)。お屋形さまの身辺警護が任務でござる」

親衛隊長である。

「太田は、剣の達人じゃ。新陰流の免許皆伝だぞ」

「拙者は、佐藤新九郎(28才)でござる。金銀の警護が任務でござる」

「これも剣の達人じゃ。一刀流の免許皆伝だったな」

「拙者は、黒田守之助(27才)でござる。新九郎殿とともに金銀を守っております」

「守之助は、吹き矢の名人じゃ。ねらわれたら一発で死ぬぞ」

「拙者は、大場作左衛門(25才)でござる。水夫頭をしております」

「見たとおり、怪力の持ち主じゃ」

「拙者は、扇谷一豊(25才)でござる。甲板長をしております」

「長房もよく知っておるな。遠目と夜目が利く。弓矢の達人でもあるぞ」

「拙者は、遠藤又右エ門(25才)。鉄砲頭でござる」

「これも長房は知っておるな。鉄砲だけでなく、大砲の扱いにも慣れておる。そして、横山隼人(24才)航海士だ。以上、江戸7人衆だ」

「以前より、並みの方々ではないと思っておりました。頼もしく思います。今後とも、よろしくお願いいたす」

「こちらこそ」

遅い顔合わせがやっとできた。

 10日でダゴン(ヤンゴン)に着いた。船には20日分の水や食料が積んである。半分を消化したところで、補給をするのが妥当だった。ダゴンは小さな港だったが、仏教寺院であるバゴタがある町である。日の本の寺院とは違い、金ぴかの寺院である。(ところ変われば、寺も変わるか)と政宗は感心していたが、好ましくは思っていなかった。日の本の寺院の方が趣きがあるというか、落ち着きがあるというか、重厚さを感じていた。金ぴかの寺院は、太閤のイメージがあって好きになれなかった。

 ダゴンでひとつ問題が起きた。水が汚いのだ。ダゴンの河は大河で長い距離をやってくる。その間に土を含み、茶色に濁っている。今までは沈殿させれば解決したが、ここの水はその程度ではきれいにならなかった。

 横山隼人が、大きな樽を用意してきた。これで水をきれいにする道具を作るとのこと。まずは、樽の下の方にのみで穴をあける。そこに木片でできた栓をつける。まるで酒樽である。皆、興味津々の顔をしている。そして、樽の下に小石を敷き詰め、その上に砂利をまいた。次に炭を並べた。なるべく隙間がないように並べている。その上にまた砂をしき、最後に手ぬぐいを広げた。隼人は、皆が注目する中、汚い水をひしゃくですくい、その樽の中に入れた。しばらくして栓を抜くと、澄んだ水が出てきた。

「どなたが飲まれる?」

と隼人が聞いた。見た目はよくても、元は泥水である。だれも手をあげなかった。

「それでは拙者が」

と言って、隼人自ら飲んだ。皆が隼人の表情に注目した。隼人は、

「うーん、うまい」

と感嘆の声をだした。それを見て皆が飲みだした。さすがにひと口目は少しだったが、ふた口目からはごくごく飲みだした。

「これで、水の問題は解決した。しかし、忍びの技はすごいな」

「忍びは、死ぬ寸前の訓練をしております。これも生き残る術です。水生の術です」

隼人は得意げに言った。皆、さもありなんと思ったが、実際にはそんな名の術はない。だが、隼人は父から生き残る術として教わっていた。

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