第12話 海戦
空想時代小説
前回までのあらすじ
小田原・石垣山にて政宗の影武者が秀吉を殺める。その後、秀吉軍は崩壊し、北条家が巻き返す。政宗は佐竹を攻めると見せかけて反転し、宿敵相馬氏を倒す。以後、北の南部氏、越後の上杉氏を降伏させる。上杉氏に従属していた真田氏も降伏してきた。その真田氏の上州の領地を欲した北条氏と戦い、これを滅ぼす。ここに政宗の東国支配が決まる。10年後、西国を支配した徳川家康が幕府を開き、政宗は副将軍となり、家康とは不干渉同盟を継続することとなる。だが、家康が亡くなり、秀忠の時代となると不穏な動きが見られ、信州と小田原で戦が起きる。秀忠は家臣の勝手な行動と主張するが、虚偽であることは明白だった。
正月があけた。幕府とは相変わらず緊張状態で、国ざかいの山中城には1万以上の兵が常駐している。障子堀りで知られる山中城は、いろいろなしかけがされている。
守勢1万の山中城を攻めるのは容易ではない。にらみ合いの日々が続いている。そこに田村宗顕(44才)がやってきた。
「お屋形さま、あたらしい戦船の用意ができました。横須賀まで来ていただきたく、お迎えにまいりました」
「うむ、待っておったぞ」
二人は横須賀まで馬をとばした。
「お屋形さま、これでござる」
宗顕が指さした先には、異様な黒い船が浮かんでいた。
「なんだ、これは?」
「双胴船でござる。安宅船に鉄板を打ち付けると重さで傾きが耐えられず、横波に弱いことがわかりました。されど、ふたつの船をくっつけると、それが解決されます。小回りは不自由ですが、火矢からの防備は万全です。また船の半分は倉庫として使えるので、補給船なしでも尾鷲に行くことができます」
「なんと!」
「それに安定したので、左右に新式の大砲をつむことができました。それも4門」
「すごいな」
「早舟にも工夫をしました。小舟は櫓(ろ)がひとつだったのですが、3つから5つの櫓をつけ、速く動けるようにしましたし、小回りも容易です。これで双胴船の弱点を補うことができまする」
「いいぞ。この船で戦えるのが楽しみだ。いつ出陣できる?」
「3日後には」
「うむ、わしも行くぞ」
政宗(50才)は、久しぶりに心が躍った。
3日後の船出には、小十郎(32才)らが見送りにきた。政宗と小十郎は目を合わせ、
「また会おうぞ」
と言った。その言葉の意味を小十郎は知っており、見送った後、早々に小田原城へもどった。政宗は、戦船建造にかかわった人々の労をねぎらい、5000の兵とともに出陣した。早舟は双胴船2艘に曳航されている。早舟は大小合わせて50艘に増えていた。
信州では、上杉景勝(58才)ら2万の軍勢が岐阜城に進軍していた。岐阜城を攻め落とすのが目的ではなく、敵の目を岐阜に向ける陽動作戦である。
2日後には、船団は韮山に着いた。双胴船から早舟に乗り換えた4500の兵は、韮山城を攻めた。韮山城は鎌倉時代からある古い城である。石垣はなく、土塁で囲まれた低い平山城である。最新式の大砲をもつ政宗勢は難なく韮山城を攻め落とした。
次の目的地は、山中城である。小田原の小十郎勢1万と、はさみ撃ちをする算段である。重い大砲を峠まで運ぶのはたいへんだったが、そのおかげで山中城のしかけにひっかかることはなく、攻略できた。わずか1日で、1万の兵が散りじりに逃げていった。その後、小十郎勢1万は駿府城へ進んだ。
政宗の船団は浜松へ向かった。そこには敵の九鬼水軍が待ち構えている。敵は5艘もの鉄甲船をくりだしてきた。こちらは、2艘の双胴船と50艘の早舟である。だが、大砲の性能が違った。鶴翼でくる敵に対し、双胴船は船首を回頭し、横腹を見せた。本来ならばすれ違う際に大砲を撃ちあうのだが、射程距離は政宗勢の最新式の大砲の方が倍近い性能をもっていた。徳川勢にも最新式の大砲はあるのだが、それを撃つと、すごい反動で船が大いに揺れ、あやうく転覆しかけたから搭載できなかったのである。政宗勢の双胴船は、その揺れを解決したし、船に設置した際も、固定ではなく、ずれるようなしかけを施していた。いわば無反動砲である。2艘の双胴船から放たれる4発ずつの大砲弾はおもしろいように敵の鉄甲船にあたった。砲撃がやむと穴のあいた船にウンカのごとく早舟が近づき、炮烙玉を投げ入れた。敵の鉄甲船は、たちまち火だるまとなった。火矢には強くても、内部に炮烙玉を投げ入れられてはたまらない。早舟同士の小競り合いも起きているが、鉄甲船がやられている九鬼勢は逃げ腰である。夕刻前には敵は去っていった。政宗勢は難なく浜松の港に入ることができた。敵の守備隊は浜松城へ逃げ込んでいる。
「宗顕殿、双胴船の威力さすがでござる。よくぞ造られた」
政宗は、正室愛姫(めごひめ)の実家の当主である宗顕を敬意をもって呼んでいた。家臣という意識ではなく、盟友という形にもなっている。
「いやいや、これもお屋形さまの援助によるもの。安宅船1艘を無駄に沈めてしまったこと。申しわけありませぬ。ところで、先日、愛姫(めごひめ・49才)様から文がきて、お屋形さまは九死に一生を得たとのこと。大変でございましたな」
「うむ、愛(めご)に救われた。愛はすごいぞ。敵がいつおそってくるかわからぬ状況でも、びくつくことなくじっとしておった。ふつうのおなごならば、叫び声をだして逃げ出すところだ。それで、わしも落ち着いていられたのじゃ」
「仲がよいことでござるな。うらやましく思いまする」
「ふだんはこわいぞ」
「それはどのおなごも同じこと。おなごが強い方が家は守られます」
「男は外では強く、家では弱い者だからな」
二人は、おたがいの奥方を思い起こしながら笑い合っていた。
浜松での逗留は5日ほどで終わった。駿府城を2日で落とした小十郎勢は、翌日には浜松城を攻め、これも2日で落とした。守備兵はいずれも1000ほどしかなく、抵抗が弱かったのである。やはり岐阜城攻めが効果的だったようだ。
田村水軍は、いよいよ敵の本拠地、尾鷲をめざした。2日後、尾鷲の島々が見えるところまできたが、敵の応戦はなかった。双胴船は、尾鷲の海を自由に航海できなかったのだ。海が浅く、船底があたり座礁しかねなかった。海に詳しいものがおれば、水先案内ができるのだが、政宗家中に尾鷲を詳しい者はいなかった。仕方なく、沖合でいかりをおろし、停泊することとした。早舟は、双胴船になわで結ばれ、一人か二人の船番を残して後の者は双胴船に乗り移っていた。双胴船の方が揺れが少なかったし、なんと言っても飯のうまさが違った。
その夜、黒い小舟が静かに近づいてきた。数はおよそ100。1艘に4から5人しか乗っていない。海を滑るように進んでくる。船底が平らになっているから波がたちにくい。政宗勢は、見張りはいたが連戦連勝で気が緩んでいたのだろう。だれも気がつかなかった。急に政宗勢の早舟に火がついた。そこで、双胴船の者たちは何事かとのぞきこんだところに矢がとんできて、多くの政宗の兵士が顔面を撃ち抜かれた。目に矢がささり、悶えている兵士がいたるところにいる。すぐに飛び起きた宗顕は鉄砲で応戦するように指示をした。だが、敵は黒ずくめでどこにいるかわからない。顔を出すと矢がとんでくる。政宗勢は、ただやみくもに発砲するだけだった。
朝になると、敵は去っていた。政宗は宗顕とともに、呆然として水軍のありさまを見ていた。
「宗顕殿、早舟はいくつ残った?」
「ほぼ半数の25艘でございます」
「このままでは、尾鷲を攻略できんな・・・」
政宗の声は沈んでいた。そこに見張りの者の大きな声が響いた。
「大きな船が見えまする。新たな敵やもしれませぬ!」
と外洋の方を指さしている。砲手は所定の場所についた。射程距離近くになったところで、宗顕が発砲の指示を出そうとした時、遠眼鏡をのぞいていた政宗が
「待て! あれは竹に雀。わが家中の紋章じゃ」
「発砲中止!」
宗顕はあらんかぎりの声で叫んだ。砲手は一気に力が抜けた。
黒い大船が双胴船に近づいてきた。ふつうの安宅船の倍の大きさはあるだろうか。大きな大砲が左右に5門ずつついている。船をこぐ櫓は片方に30本はある。漕ぎ手だけで、最低60人はいることになる。船上には、懐かしい顔があった。
「お屋形さま、お待たせしました」
「常長(46才)! 待っておったぞ!」
昨年旅立った支倉常長がもどってきたのだ。早舟に乗り換えて、双胴船に二人の武士を連れて常長はやってきた。
「お屋形さま、お久しぶりです。船を手に入れるのに手間取り、思ったより遅れてしまいました」
「なんとか間に合ったぞ。だが、九鬼水軍にやられてこのざまじゃ。来てくれてうれしく思う。ところでお二人は例の二人か? お一人はだいぶ若いが・・?」
「こちらは内藤ジョアン(66才)殿。今回の船の買い付けに力を貸してくれました」
「それはありがたい。お名前はかねがね聞いております。今後ともよろしくお願いいたす」
「こちらこそ、政宗様はキリシタンに寛容と聞いております。徳川殿はキリシタンに厳しく、我らは故国を捨てなければならなくなりました。また、日の本にもどれてうれしく思っております。ただ右近殿は・・・」
そこまで言って、絶句してしまった。
「わが奥方も娘もキリシタンでござる。安心して過ごされよ。で、こちらの若者は?」
そこで、常長が若武者を表にだした。
「高山長房(23才)殿でござる」
「父、右近は昨年ルソンにて他界しました。わけのわからぬ熱病でした」
「そうか、おしい方を亡くされた。まだまだ日の本のために仕事をしていただきたかったが・・・」
「お屋形さま、船の買い付けの際には、長房殿の口上がきいたのです。イスパニア(スペイン)人から買ったのですが、紹介はジョアン殿にしてもらいました。しかし、なかなか売ってくれません。そこで、長房殿が流ちょうなイスパニア語でたんかをきったのです」
「ほう、なんと言ったのだ?」
政宗は、長房に問うた。長房は恥ずかしながら答えた。
「日の本の副将軍の頼みぞ。これから交易をしようとしている方が、頼んでおるのだ。その頼みをじゃけんにするとは、お主はもうけの機会を一生逃すことになるぞ。もしかしたら副将軍の水軍が攻めてくるやもしれんぞ」
と脅かしただけです。
「その時のイスパニア人の顔は見ものでした。こんな顔でした」
と、常長は目をむき、口をぽかんとあけた顔をしてみせた。その表情に皆笑った。政宗も久しぶりに大笑いした。きまじめだとばかり思っていた常長のひょうきんな姿を見て、余計におかしかったのである。一同の笑いがおさまると、常長は得意げに
「お屋形さま、さらにいいものを見つけました。あれです」
と言いながら、大船の後方に曳航されている妙な2艘の船を指さした。
「なんだ、あれは?」
「亀甲船です。お屋形さまが作った亀甲車の船版でござる。元々は、朝鮮で考えられたそうですが、シナで作られ、ルソンにわたってきました。ルソンでは、これを使う海戦はなく、ほこりをかぶっておりましたので、安く買えました。上部は鉄板で覆われ、くさびがうっておりますので、敵は船にのぼれませぬ。小さい大砲を10門ほど積めますが、今回は買うことができませんでした。でも、そこから鉄砲で撃つことができます。それに船首の龍の口からは、花火で火を噴くこともできます」
「ほほう、おもしろいな」
「それにもうひとつ。破裂弾を10発ほど買えました」
「破裂弾とは?」
初めて聞く言葉に政宗はいぶかしがった。常長はジョアンに目くばせをした。
「私どもが買った物でございます。弾の先端がとがっており、そこに火薬が仕込んであります。今までは石や鉄の塊でしたので、当たっても穴をあけるしかできませんでした。しかし、この破裂弾は当たれば、そこで破裂します。その場にいる多くの者が傷つきまする」
「おそろしいものだ。キリシタンは、そういう物騒な物を使うのか?」
「かつてイスパニア(スペイン)とエゲレス(イギリス)が戦いました。イスパニアが負けたのですが、エゲレスが使ったのがこの破裂弾でした。イスパニアの人たちは悪魔の弾と呼んでおります。キリシタンは元来、平安をのぞみます。ですがエゲレスはローマ教皇にさからったのです。元々は海賊の国です。今では泥沼です」
しばしの沈黙がまわりを取り巻いた。
「異人のいくさは派手だろうな」
政宗がつぶやいた。すると、
「お屋形さまの戦も結構派手でござる」
常長の素っ頓狂な声で一同が笑った。政宗も常長を叱る気にはなれなかった。異国での難しい任務をなし終えて、無事に帰ってきたのである。負け戦をしたばかりの政宗を励まそうとしているのがありありだった。それに、政宗自身、自分の戦いぶりは派手だと思っていた。もうひとつ、常長が政宗を驚かせたことがあった。政宗が黒船に乗り込むと、その櫓(ろ)をこいでいる人間である。皆、鎖につながれている。
「皆、獄につながれていた囚人です。この航海が終われば給金を与えて、開放すると約束したらついてきました。日の本に残りたければ、残るもよし。ルソンに帰りたくば帰してやる。と言いました」
「顔が黒い者もいるではないか」
「信長公の配下に黒人の家臣がいました。弥助といっていました。ルソンでは珍しいことではございませぬ。力もちで、足も速うござりまする。言葉がわかれば、いい兵士になりまする」
「異人部隊か、隊長は常長だな」
と言いながら政宗は笑った。その日は、亀甲船の操作に慣れることで終始した。20人が櫓をこぐのである。並みの早舟より速かった。政宗は、これで九鬼水軍を破ることができると確信していた。
その夜、また九鬼水軍が闇にまぎれてやってきた。待ち構えていた政宗勢は、火矢で対抗した。九鬼水軍の船があからさまになり、鉄砲で撃ち込まれ、早々に引き揚げていった。
「馬鹿め。同じ手でくるやつがいるか。九鬼水軍も大したことはないな」
常長のその言葉に政宗が返した。
「その慢心が危ないのだ。ここは九鬼のなわばりだ。もしかしたら釣り野伏せかもしれんぞ。うん? 海だから釣り水伏せか」
政宗は、自分で言って笑ってしまった。
「明日は、大いに釣りましょうぞ」
翌日、晴れ渡った海に、2艘の亀甲船と25艘の早舟が出航していった。亀甲船には田村宗顕と高山長房が分かれて乗船した。連携して戦う戦法である。最初の浜に行くと、10艘ほどの早舟が迎え撃ってきた。田村水軍の早舟が対抗して進んでいくと、海に潜っていた兵から奇襲を受けた。吹き矢攻撃である。中には船に乗り込んでくる敵兵もいた。別な浜から20艘ほどの援軍の船もやってくる。ここで、宗顕と長房は亀甲船をすすめた。並列して敵船の間に入っていき、鉄砲を撃ちまくった。ぱたぱたと敵は倒れていく。味方の早舟もやっと態勢を整え、浜に上陸していった。亀甲船は船首を返して、敵の応援部隊をせん滅していった。中には亀甲船に乗り移ろうとした兵もいたが、くさびのある屋根で、のたうち回っていた。
その日は、2つの浜を占領した。が、尾鷲の海は入り組んでいるので、いくつの浜があるかもわからない。その夜、政宗は主だった者を集めた。
「者ども、明日、尾鷲を去ろうと思う」
その言葉に、皆驚いた。今日は勝ち戦だったのである。
「尾鷲にいくつの浜があるかわからん。このまま、いつまでもここにいるわけにはいかん。我らの最終目的は大坂じゃ。幸い、浜松の海戦で敵の鉄甲船をやっつけて、敵には大型の船はない。ここは一気に大坂を攻め落とす!」
一同から声があがった。
その夜のうちに、政宗勢は移動した。九鬼水軍に追われないためである。そして、紀州の串本の港に入った。といっても、ここも浅瀬の浜なので、大型船は沖合に停泊である。ここで早舟の修理や新造船を造った。
夏が過ぎ、上杉景勝と片倉小十郎の連合軍3万が大坂にせまった。政宗はこの時を待っていた。
「いざ、大坂へ!」
大船と双胴船2艘それに早舟は50艘になっていた。
大坂へ着くと、政宗勢は大坂城を包囲していた。といっても敵が逃げられるように南側はあけている。政宗は天王寺の茶臼山に本陣を構えた。大船と双胴船は淀川の河口に停泊させ、敵の水軍の攻撃に備えている。大船から降ろした新式大砲と破裂弾を試す機会がめぐってきたのだ。まずは、あいさつの意味で通常弾で一発見舞った。大砲の弾は、天守閣の中段ほどにぶちあたった。射程距離は充分である。
徳川方は、初めて受けた攻撃が大砲、それも天守閣への命中ということで、あわてふためいた。秀忠(38才)は、うろたえるだけで、何の指示もだすことはできなかった。それ以上に騒いでいたのは、正室のお江(44才)である。わけがわからず、
「大砲を撃ち返せ!」
などと叫んでいる。最新式の大砲は、今までの戦で破壊され、残っているのは射程距離の短い大砲ばかりである。
そこで政宗は、得意の書状攻撃を行った。内容は、
「・我らは幕府を倒すためにきたのではない。
・我らの願いは、日の本の平安である。
・大御所が定めた不可侵同盟の遵守をしていただきたい。
・願いが叶わぬ場合は、大坂城を壊滅させる」
というものであった。
これを見た秀忠は、政宗勢を甘く見た。3万そこそこの兵で囲んだところで、隙間だらけだし、大砲の一発や二発あたったところで、天守閣がつぶれるわけではない。天下の大坂城である。敵が総攻めをしてきたら、多くの鉄砲狭間から銃撃し、敵をやっつける自信があった。
翌日、政宗は敵の使者がこないと判断すると、破裂弾の使用を命じた。破裂弾の威力を見るのは政宗も初めてである。一発目は、天守閣の最上部の望楼の部分にあたった。一瞬にして、一番上の屋根が崩れた。二発目は、やや下げて天守閣の中央部。そして三発目はそれよりも下げて天守閣の下部にあたった。政宗勢は、天守閣がぐらつくのを見た。
「異人はすごいものを作ったな。今日は、これでよい」
と大砲奉行に伝えた。
徳川方は混乱の極みだった。天守閣に穴があくだけでなく、大砲の弾が破裂するのだ。近くにいた者の多くが、死ぬか大きなケガをした。特に、三発目の弾の影響は大きかった。天守閣が大いに揺れ、逃げ出す者が多かった。秀忠も正室のお江も呆気にとられるだけだった。側近の本多正純(51才)が二人に近寄り、
「このままでは、天守閣が崩れまする。政宗勢は新式の大砲を使っているようです」
「うむ、正純、こ・ち・らの勝ち目は?」
秀忠がふるえながら聞いた。
「敵が総攻めをしてこなければ勝ち目はございませぬ。このままでは勝てぬかと」
「講和じゃ。政宗は幕府をつぶす気はないのだろ! 講和をせい!」
と怒鳴ったのはお江であった。秀忠は何も言い返さなかった。
夕刻、本多正純は講和の使者として、政宗の本陣に向かった。
「正純殿、よくぞいらした」
「政宗様、この正純、将軍の名代としてまいりました」
「うむ、大義である。それで将軍はなんと言っておる?」
「はっ、政宗様のだされた条件をのむとのこと」
「うむ、あれは昨日の条件じゃ。一日たったゆえ、もう少し足したいのだが・・」
「なんと、あの書状はまやかしでしたか!」
正純の無礼な態度に、政宗の家臣は刀に手をかけた。
「まあまあ、まやかしではない。細かい条件をつけるだけだ」
「細かい条件とは?」
「まずは、将軍秀忠公には、隠居の上、伏見城に蟄居していただく」
「幕府を残すということではなかったですか!」
「もちろん、三代将軍に竹千代殿(12才)になっていただく。ただし、元服した上でだが」
「竹千代殿は、まだ12才。将軍になる年ではござらん」
「なんのことはない。お主が補佐すればいいことではないか」
正純は言い返せなかった。
「また、日の本の平安のために、京都守護職に秀宗(26才)を任命していただきたい。今回の争乱は、全て秀忠公によるもの。秀忠公を監視する役目として最適と思うが」
これにも正純は反論できなかった。
正純は、政宗の申し出を秀忠とお江に伝えた。秀忠は顔を赤くして怒鳴ろうとしたが、お江の
「いいではないか。竹千代はそろそろ元服の年。上様は、伏見でゆっくりできまする。悪くない話です」
という一言で講和が決まった。お江に頭があがらぬ秀忠であった。
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