第8話 領地経営

空想時代小説

 前回までのあらすじ

 小田原・石垣山にて政宗の影武者が秀吉を殺めた。その後、北条勢が巻き返す。政宗は、佐竹を攻めると見せかけて反転し、宿敵相馬を倒す。翌年、北の南部家を降伏させ、昨年には越後の上杉を攻め、これも傘下にいれる。上杉に従属していた真田も降伏してくる。そして、真田領を欲した北条家と戦い、勝利をおさめ、政宗は東国支配を確固たるものにする。


 小田原城攻めが終わり、評定の前に小十郎(36才)と成実(25才)を呼んだ。

「今日呼んだのは他でもない。今後の我らの行方のことじゃ。そなたたちの考えを知りたい。まずは成実どうじゃ?」

「わしの考えなど、通ったためしがない。聞くだけ無駄だろ」

「そう言わずに、話してみろ。もしかしたらわしと同じかもしれんぞ」

「では申す。わしは少し疲れた。領地にもどり、領民とともに田畑を耕したくなった。嫁ももらうつもりじゃ。だれぞは、わしをいくさばかと呼んでいるらしいからの」

「これはすごい。小十郎、成実はおなごに目覚めたぞ。喜ばしいことだ」

「そうでございますな。お相手は、もう決まっているのですか?」

「石川昭光殿(43才)の娘御じゃ」

成実は、はにかみながら答えた。

「それは良縁じゃ。石川昭光殿の娘御と言えば、まだ15ではないか? 全くすみにおけん奴じゃ」

政宗は笑いながら、赤くなっている成実の縁談を喜んだ。

「それよりも、小十郎の考えはどうじゃ?」

成実は、話を変えようとした。小十郎は、シラッとして、笑い続ける政宗に話を始めた。

「拙者も成実殿の考えに賛成でござる」

その声に成実は驚いた。今まで考えが一致したことがなかったからである。あっけにとられている成実を横目に小十郎は話をすすめた。

「この先、我らの領土と接するのは、徳川家と前田家でござる。どちらも大藩で、当方とは友好関係にあります。万が一、戦となっても、双方、相当の犠牲が出まする。ここで負けると、佐竹が動きだすやもしれませぬ。幸いにも佐竹は、下総・安房に手をだし、領地経営に苦労すると思われます。かの地は、里見の領地だったゆえ、一揆が絶えませぬ。ましてや、風雨による天災の地でもあります。我らがスキを見せねば、おびやかす心配はないと思います。こわいのは最上殿です、お屋形さまのおじとはいえ、油断ならぬ方です。ここは、最上殿に羽後の国も支配していただき、領地経営にあたっていただくことが肝要と思います。でなければ、米沢の地をねらってくると思います」

「わしもそう思う」

成実は、小十郎が同意見だったのに気をよくし、鼻高々に話した。

「それでは、徳川家と前田家とどうするのじゃ?」

政宗が核心をついた。

「お二人とは、友好同盟を結びます。戦をいっしょにする同盟ではなく、戦をしない同盟いわゆる不可侵同盟です。この同盟を結べば、徳川殿は西進することができます。我らは領地経営に専念できます」

「言葉や書面だけの約束では反故にされるぞ」

「たしかに、成実殿の言われるとおりです。そこで、婚姻か捕虜の交換をいたします」

「そんな適任の者がいたか?」

成実はいぶかしがった。

「徳川家には、兵五郎殿(2才)をさしだし、徳川家からは秀康殿(19才)をいただきます。捕虜というよりも、双方とも10万石ほどの大名にするということにすれば、捕虜の意味は少なくなり、領地を各々の中央にもっていけば、がんじがらめにできます」

「兵五郎殿は後継ぎぞ。徳川家にさしだすわけにはいかん」

成実が声を荒げて言った。

「おそれいりますが、兵五郎殿は、側室猫御前様のお子です。正室の愛姫(めごひめ)さまに男子が誕生すれば、そちらが後継ぎになります。万が一、愛姫さまに男子ができない場合は、秀康殿をお返しすれば、兵五郎殿を取り戻すことができます」

「それはそうだが・・?」

成実は政宗のことを思うと、なかなか納得できない。

「秀康殿も庶子です。当方も、それに合う者を出さなければ、徳川家は納得しないでしょう」

「確かにそうだが・・前田家とはどうする? わしには兵五郎以外、子はおらんぞ」

「留守政景殿の姫がおります。お屋形さまの養女にして、前田利長殿の弟利政殿(15才)に嫁がせます。前田家からは豪姫(18才)を小次郎様(24才)に嫁がせます」

「小次郎はだめじゃ。今度、仏門に入る」

「還俗させればいいではないか?」

成実が政宗にぶっきらぼうに言った。政宗に対等に話ができるのは、遠戚であり、幼き時から虎乙(こさい)和尚のもとで、いっしょに学んできた成実だけである。他の家臣がいる時は、そうでもないが、3人だけの時はぶっきらぼうになる時があった。政宗も、そのことは仕方ないと思っていた。心許せる友なのである。

「だめだ。母義姫が小次郎を溺愛し、何かと干渉したがる。武士のままでは、だれかに利用されるのがおちだ。そう言えば、留守政景殿(44才)のところに幼子がいたな。そこに嫁がせてはどうだ?」

「18の豪姫をですか?」

成実があきれて聞いた。

「それはできぬゆえ、前田家に任せればいいでないか。遠戚の者を養女にすればすむことだ」

政宗は、なかばやけ気味に答えた。

「このことは、また話そう。ところで、小十郎、お主に頼みがある」

「はっ、何でしょうか?」

「お主に、小田原を治めてほしい」

「小田原をですか!」

両名とも、驚きを隠せなかった。北条色の濃い小田原の地を治めることはたやすいことではない。だれもが、名の知れた大名格の武将がつくと思っていた。小十郎は、名の知れた政宗の軍師だが、領地は3000石程度。大名格にはほど遠い。それが100倍の領地を得るのだ。これだけの領地が増えれば、周りからの軋轢もあるはず。

「わが家中がここまで来れたのは、小十郎の力が大きい。それはだれもが知ることじゃ。ましてや小田原は徳川と国ざかいを接している。統治するだけでなく、徳川との交渉ができる者でなければならぬ。わが家中には小十郎しかおらぬではないか。どうだ成実?」

「確かにそうだが・・・小十郎はどうなのだ?」

「拙者はお屋形さまの命とあれば、それを全うするのみ」

小十郎は覚悟を決めていた。

「よし、決まった。それでわしも会津を出る」

「会津を出て、どこへ行かれる?」

成実がいぶかしがって聞いた。政宗は地図を広げ、

「ここじゃ」

と武蔵の国の東側をさした。

「江戸でござるか。ここには小さき城がありますが、周りは湿地帯でござるが」

と小十郎は疑問をもった。

「湿地帯は埋めれば平野となる。会津のような周りが山の土地では、広がりはない。江戸は大きくなるぞ。海もある。わしは大きな船を作り、異国へ行ってみたい。どうだ?」

「お屋形さまがそうおっしゃるならば、拙者はついていくまで」

小十郎はいつも同じ姿勢だ。

「わしは、びっくりさせられることばかりじゃ」

「成実には、陸前の50万石を任せる。千代(仙台)に城を建てよ。あそこには、広瀬川の上に丘があり見晴らしがいいぞ、わしは、そこに城を建てようと思っていた」

「50万石! 今の10倍でござるか! 政宗殿の器量には恐れ入る」

 

 数日後、会津で戦勝祝いと諸将への恩賞が発表された。各々の武将が加増され、皆、上機嫌となっていた。その中でも、皆が声をあげて驚いたのは次の面々である。

「留守政景殿(44才)、米沢・信夫50万石」

家格最上位の政景は当然という顔であった。

「成実殿(25才)、陸前50万石」

家格第2位の成実が、最上位の政景と並んだのだ。

「石川昭光殿(43才)、会津30万石」

今回の戦では留守部隊だった。他の諸将は、政宗が他へ移ることをここで知った。

「黒川晴氏殿(72才)、中越30万石」

猛将晴氏は涙を浮かべている。

「片倉小十郎殿(36才)、小田原30万石」

今までにない反応の声があがった。政宗側近として妥当という反応だった。

「真田信繁殿(26才)、松代10万石。ただし、その内1万石は前田利益分とする。前田利益殿(52才)は客将として真田信繁付きとする」

信繁は信州に領地を得たのである。これで、信州全体が真田家のものとなった。利益も大名格として、政宗家にはいったわけである。(家来はいないが・・)

 そしてに後半に言われたのが

「結城秀康殿(19才)、白河10万石」

この場にいない武将の名がでたので、皆がびっくりした。加えて、

「兵五郎殿(2才)、岐阜10万石」

ここで、皆は捕虜交換があったことを知った。

 最後に政宗から話があった。

「わしは、武蔵の国、江戸に移る。これからは戦の時代ではない。領地を固めよ」

一同から歓声があがった。

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