第6話 謀反の疑い

空想時代小説

 前回までのあらすじ

 小田原・石垣山で政宗の影武者が秀吉を殺める。その後、秀吉軍は崩壊し、北条勢が巻き返す。政宗は、佐竹を攻めると見せかけて、反転して宿敵相馬を攻め落とす。翌年、南部家を降伏させ、今年の夏には越後の上杉家を屈服させた。秋には上杉家に従属していた真田家が降伏を申し出てきた。となると、北条家との争いが目前にせまってきたのだ。


 11月に入り、めっきり寒くなったころ、とんでもない報が政宗にもたらされた。成実(24才)と小十郎が呼び出された。

「川島と針生の両名から、同じような密書が届いた。どうやら大崎義隆(43才)と葛西晴信(55才)が談合して、謀反を企んでいるようだ。兵糧や武器の確保をふだん以上にしているとのことだ。それに、目付の川島も針生も近くに寄れぬという。こそこそしているのはあやしい。いかがどうする?」

成実は、戦のことではないので、小十郎に目をやった。おまえが話せという合図である。

「お屋形さま、ここはまず真偽を確かめなければなりませぬ。義隆殿・晴信殿だけでなく、重臣も呼んで問い詰めた方がよいと思います」

と小十郎が言うと

「拙者もそう思う」

と成実が頷いた。政宗はあきれたが、智略のことを成実に聞くこと自体、無理があると思った。

「それでは、早速召し出せ」


 数日後、政宗と成実・小十郎の前に、大崎義隆と葛西晴信が召し出された。政宗の脇に座る成実は、刀をいつでももてるように左に置いている。義隆と晴信は当主の前ということで、刀を右に置いている。当主の前で、左におくのは無礼とされている。謀反と疑われても仕方ない行為である。二人は成実が左に刀を置いているので、緊張していた。

「義隆殿・晴信殿、よくぞ参った。本日は、確かめたいことがあり来ていただいた」

「お屋形さま、何なりとお聞きくだされ。なんのやましいことはござらん」

と二人は返した。そこで、小十郎が詰問を始めた。

「では、一つ目、昨今、通常よりも多い兵糧や武器を集めているということだが、これはいかに?」

「それは、北条攻めに備えての蓄えでござる」

二人は同じように答えた。

「まだ、北条を攻めるとは決めてはおらんが」

「小十郎殿、我らにも情報を寄せる者がおります。昨今のお屋形さまの動きを見ればわかること。真田が降った時に、北条攻めは時の問題と政宗家中の者は皆そう思っております」

「では、二つ目。目付の川島宗泰と針生盛信を遠ざけているとのことだが、これはいかに?」

「お二人がそのように申し出たのですか? 特に他意はありませぬ。病で伏せっていましたし、特に川島殿と話をする必要もなかったからです」

とシラッとした顔で義隆は答えた。晴信も

「奥方が病で、奥にいることが多く、私も針生殿と話をする必要がなかったからです」

とこれまた平然とした顔で答えた。二人の言い逃れに、小十郎はじれったく感じた。そこで、奥の手の質問をした。

「お二人に、北条の密偵が訪れたという話があるのだが・・?」

かまをかけた質問をした。義隆と晴信の顔が一瞬変わったのを政宗と小十郎は見逃さなかった。

「そ、そんなことはありませぬ。もし、そんな者がきたらすぐに報告いたしまする」

と声を荒げて答えた。

「それでよい。二人は別室で控えよ。次に重臣たちと目付の二人を呼べ」

 近侍の侍が、二人を離れた別室に連れていき、代わりに重臣の二人と目付二人を呼んできた。四人は隣の部屋に控えており、先ほどのやりとりを聞いていた。大崎家重臣一栗高治(50才)と葛西家重臣富沢幽斎(55才)そして、川島宗泰(35才)と針生盛信(39才)も同席した。小十郎が詰問を始めた。

「重臣のお二人、先ほどの話を聞いてどう思われる?」

「兵糧や武器の購入は、殿より北条攻めのためと聞いております。病の件は、たしかにそうでありましたが、それほど重い病とは思えませんでした」

一栗高治が答えた。

「葛西家も同様であります。ただ、殿の奥方は病ではなかったと思います。奥にこもってはおられましたが、医者を呼んだという話は聞いたことがありませぬ」

富沢幽斎が答えた。二人の目付は、それみたことかという顔をしている。

「北条の密偵のことは?」

「私どもは何も聞いておりませぬ。ただ、ひと月ほど前に、夜中に虚無僧と会っていたという話を聞きました」

という高治の答えに、

「こちらもそういうことがありました。そういえば、兵糧や武器の調達の命は、その後でござった」

幽斎の答えに、小十郎はかまをかけた甲斐があったと内心ほくそ笑んだ。

「うむ。よくぞ話してくれた。そなたたちの忠心は無駄にはせぬ。北条攻めの際には、よろしく頼むぞ」

と言って、四人を帰した。

「小十郎、お主のかまにひっかかったの。さて、どうする?」

「義隆殿と晴信殿には、蟄居で充分だと思いまする。家臣団には謀反の意志がないので、つぶすよりは生かした方がいいと思いまする。ただ、葛西殿には俊信(17才)という嫡子がおりますが、義隆殿には子がおりませぬ。ここはお屋形さまの遠戚の方から養子をだして後を継がせては?」

 年があけて、1993年正月、政宗の遠戚である義宗(15才)が、大崎家の当主となり、大崎義宗を名乗った。葛西家も葛西俊信が当主となった。一栗高治と富沢幽斎はどちらも筆頭家老となり、実質的な当主となった。また、川島宗泰と針生盛信は、役目を免ぜられ、自分の領地へもどった。二人にとっては、重い役目だったので、ほっと一安心というところである。

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