第5話 上杉攻め2 春日山城の戦い

空想時代小説

 前回までのあらすじ

 小田原・石垣山にて政宗の影武者が秀吉を殺める。その後、秀吉軍は崩壊し、北条勢が巻き返す。政宗は佐竹を攻めると見せかけ、反転して宿敵相馬を攻め落とす。翌年、北の南部を攻め、これを降伏させる。今年は、越後攻めで春に中越の新発田城を奪った。取り返しにきた上杉勢と野戦を行い、引き分けに終わるが、中越は政宗のものとなった。


 梅雨の中、政宗は小十郎と談合していた。

「小十郎、春日山攻めは梅雨明けか?」

「すぐには無理です。草木が乾かねば、火攻めはできませぬ。梅雨が明けて、5日晴れたら出陣いたします。そして春日山につくまでに、雨が降らなければ手筈どおり。雨が降ったら、別の城を攻めまする」

「別の城とは?」

「与板城・坂戸城あたりをねらっております。また、上杉家臣の切り崩しも行います」

「降りそうなのはだれじゃ?」

「最右翼は荻田長繁(30才)でござる。御館(みたち)の乱では景虎側につき、後に許されて景勝についておりますが、冷遇されており、不満がたまっております。他にも似たような武将が何人かおりまする。上杉勢は謙信公以来、一枚岩でないのが明白でござる」

「長尾政景・北条高広・柿崎景家それに本庄繁長もそうであった。どうして、こんなに裏切り者が多いのだ?」

「それは謙信公が純粋すぎたからでしょう。上にたつ者は清濁あわせた者でなければうまく統治できませぬ。それに領地拡大の意志がありませぬ。それでは家臣がついてきません」

「わしは純粋ではないのか?」

「お屋形さまは、ほどほどの良さでござる。謙信公はおなごを近づけさせませんでしたが、お屋形さまは愛姫(めごひめ)さまや猫御前さまたちと仲むつまじくされているではありませんか」

「おなごの話は別だろ。そういえば、家中にもおなごを近づけぬ純粋な者がいるぞ」

「そういえばおりました」

と二人は、顔を見合わせて笑った。新発田城では成実がくしゃみをしていた。


 梅雨明けから5日が過ぎ、政宗は会津を出陣した。総勢2万5000。目指すは直江兼続の与板城。と思わせるように進んだ。一日でも雨が降れば、そのまま与板城攻めを行うことになっていたが、幸いにも雨は降らなかった。そこで、屋代景頼(29才)ら5000を与板城外に残し、政宗ら2万は春日山に向かった。騎馬隊が中心なので、その動きは速かった。

 春日山の上杉景勝は出陣の用意はしていたが、あまりにも政宗勢が早く来たので、籠城せざるを得なかった。軍師の直江兼続が与板城に閉じ込められたのは、景勝にとっては痛かった。今まで兼続なしで戦ったことがなかったのである。

 夕刻になり、山のあちこちから火が上がった。風が吹いており、火はどんどん上がっていく。景勝は、東の山沿いに逃げ、前田との国ざかいにある勝山城に入った。ついてきたのは、半分の5000に減っている。すぐに政宗勢が追いついてきた。海岸沿いにある急峻な崖の上にある勝山城は鉄壁の堅城と思われたが、雨がない日が続いていたので、ここも火攻めとなった。

 上杉景勝は家臣のことを思い、開城を決めた。自分の首を差し出すつもりだったが、政宗は生かした。景勝は並の大名だが、その家臣団には優秀な者が多かったからだ。景勝は、生まれ故郷の坂戸城の城主となり、10万石の領地を与えられた。他の家臣団もほぼ本領安堵となった。政宗は、本庄繁長・直江兼続・色部顕長(23才)といった優秀な家臣を得ることができたのである。ただ、占領した中越地方だけは政宗の家臣に与えた。新発田城には黒川晴氏を置いた。津川城には、屋代景頼(29才)を置いた。どちらも10万石ほどの領地を得たわけである。


 秋になり、政宗に朗報が届いた。真田昌幸(45才)が本領安堵を約束してくれるなら降伏するという文をよこしたのである。盟主の上杉が政宗に降った今、真田だけでは存続できないので、政宗を頼ろうという考えなのだろう。しかし、名うての策士である。すぐには信用できない。だが、先の戦いでのつややかな赤備えの戦いぶりを見せつけられては、真田が家臣に入るというのは魅力のある話である、とりあえず、小十郎(35才)に様子を見に行かせ、真田昌幸を会津に呼び出した。昌幸は二男信繁(25才)を帯同してきた。先の戦で、見事な戦いぶりを見せた武将である。

「昌幸殿、よくぞまいった。この度は、この政宗に助勢していただけるとのこと。ありがたく存じる」

「ご尊顔を拝し、恐悦至極に存じます。政宗公の名声は奥州のみならず、全国にひびきわたっております。その方にお仕えできるのは、光栄でございます」

昌幸の言い方はとても丁寧だったが、目には鋭いものがあった。政宗を値踏みしている様子がありありだった。

「ところで、そこに控えているのは?」

政宗は信繁を見て問うた。

「二男の信繁でございます」

「先の戦で、赤備えの部隊を率いていたのはそなたか?」

その政宗の問いに、昌幸は信繁が返答するように目配せをした。

「はっ、恐れ入ります。私めでございます。見苦しいお姿をお見せいたし、申しわけありませぬ」

「あやまることではない。戦では当たり前のこと。むしろ、見事な戦い方じゃった。ところで、昌幸殿、そちにはもう一人息子がいるはずじゃが、今日は連れてきておらんのか?」

「はっ、長男の信幸(26才)がおります。今は、沼田城をまかせております。実は、上州のわが方の城が北条勢に脅かされております。隣の城の北条勢が出張ってきて小競り合いが続いています。それで長男をおいてきた次第です。本日は、政宗公に本領安堵と北条殿への口添えをお願いいたしたく、参上した次第です」

「北条か・・・?」

政宗は、しばらく思案した。というか思案のふりをした。昌幸の申し出の件は、すでに小十郎から聞いていたからである。そして、小十郎とは談合済みであった。居並ぶ家臣団は政宗の判断を固唾をのんで待った。断れば、信州攻め。同意すれば北条との戦い。北条との戦いは大きな障害だが、いずれは雌雄を決する相手だ。ましてや当主の北条氏直(30才)では頼りにならん。と、皆が思っていた。

「よし、決めた」

その政宗の言葉に、一同に緊張がはしった。

「昌幸殿、信繁殿をくれぬか?」

皆、意外な言葉に唖然とした。

「はっ、本領安堵を約していただければ、そのつもりで連れてまいりました」

「よし。信繁殿は、太閤秀吉公、上杉景勝殿の元におられたと聞く。そういう見聞の広い武将を召し抱えるのは、大きな財産じゃ。信繁殿、そこの小十郎の長男の守り役にならぬか? まだ7才のこわっぱだが、お主の力でたくましい武将に育ててほしいのだ」

真田父子は、政宗の傘下に入ったことを知り、喜んだ。これで上州は守られる。信繁は、

「ありがたき幸せ。今までは無役でありましたが、精いっぱい役目を果たさせていただきます」

ここに、2代目小十郎と信繁の関係が始まったのである。後に2代目小十郎は信繁の娘を妻とすることになる。

 それから数日たって、北条氏直から書状が届いた。上州の全ての城を北条にくれ。という内容であった。

「小十郎、図々しい申し出だの。自分たちは、何もせずに領土だけはほしいと言う。こういう輩と付き合うと、だらだらと食い尽くされる。今のうちに断たねばならぬな」

「いずれはと思っておりましたが、思ったより早くなりましたな。しかし、北条は強敵でござる。我らは太閤のような兵糧攻めはできませぬ。お屋形さま、どうされますか?」

「そんなことを聞くか? もうお主の腹はわかっておる。わしと同じ考えじゃろ」

と言いながら、人差し指で×を作り、それを引き離した。離反策のことである。

「やはり、そうでしたか。私の得た情報では、太田城の佐竹義宣(22才)・烏山城の成田氏長(50才)あたりが不満をもっております。佐竹はお屋形さまに好意をもっておりませんが、条件次第ではこちらにつくと思われます。常陸と安房あたりを与えればいいのでは? 氏長は、保身に走ると思いますので、本領安堵と言えば、こちらにつくと思います。むしろ、小田原城内にいれてから内応させれば、内から崩れるものと思われます」

「小十郎の情報網はさすがじゃの」

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