快楽の町

快楽の町

１：夜間飛行　ろまんの予感と裏腹に　たとえ墜（お）ちても星屑とならむ

２：野良犬がわたしの影を踏みしめる　視線ひとつで恋におちたの

３：大聖堂（カテドラル）　黄金（きん）の祭壇と浮浪者　ひざまずく背をじっと見つめる

４：妻の香をまとったあなたと手をつなぎ　聖母マリアの前にたたずむ

５：パンドラの箱の最後が孤独でも、頬ずりをして抱きしめてあげる

６：暮れてゆく茜紫（あかねむらさき）夕空に、レゲエが刺さる快楽の町

７：彼と逢う日は翼がはえる日だけれど、わざとどうでもいい古ワンピ

８：キッチンでタンゴを踊るあの人と　安ワインでも夢は果てなく

９：朝露にぬれたつぼみのバラの花　雫ひとすじ啜る野盗よ

１０：ふりこめる雨の夜　きみは妻を抱き　わたしは一人『マッドマックス』

１１：地べた這い　少なく生きる人々を「ハツカネズミ」と小馬鹿にするな

１２：アンドロメダ銀河になりたい夜空見る　三日月ひとつ、分かちあえない

１３：最愛と吾が頬にふれしあの人は　自由のレモンをかぢって消えた

１４：あの人が出ていった夜、午前２時、キャベツをきざみセロリをいため

１５：家族とは、マンゴーよりもはかなくて　熟し腐乱し爛（ただ）れて捨てた

１６：楽園を逐（お）われた先の荒れ地にて消印のない便り受けとる

１７：しらゆりの花持つ天使が舞いおりて　受胎告知は不義の御子（みこ）にも

１８：みどり児（ご）の君は鮮血のなか息絶えて、入道雲がただ一つ墓標

１９：「無花果（いちじく）」という書きとりが哀しくて、虚（うつろ）な胎（はら）にリンゴ詰めこむ

２０：天のおしべ　地のめしべ　日蝕のもとまぐわう蝶々　翳りゆく