第112話 栄光なき天才の真意
このシリーズには、夏目漱石は出ないのですか?
一般教養の文学の教授に尋ねられた。
参考文献持込可能の後期試験。
栄光なき天才 と銘打たれた漫画のシリーズもの。
大正時代の文学者・島田清次郎と、映画の川島雄三。
その二人を描いた作品が、掲載されていた。
その教授は当然、川島雄三も御存じだったろう。
島田清次郎の話を持出すと、無論、御存じだった。
その島田清次郎を、私は試験の題材に使った。
参考文献として、その漫画をもちこんだのです。
漫画が活字の本より一段低く見られていた時代。
まして、天下の国立大学生が読むようなものかいな。
そんな空気がまだ残っていた、平成初期。
夏目漱石は、栄光の天才ではないですか。
そう言いたかったが、言えなかった。
その文学の単位は、「優」でした。
なんせ、単位の取りやすい口座との定評もあったくらいで。
大学を出て、そんな話はもう終わったことかと思っていた。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
やがて、小説を書きだした。
ようやく、今のペンネームが決められて間もない頃。
ふと、あの時の教授のお言葉を、思い出した。
夏目漱石は、栄光なき天才? あり得ない?
いや、違うぞ!
そうか! あの先生の真意は、そういうことだったのか!
実は同じ本の後半、川島雄三のところで、幕末太陽伝のラスト。
最初の川島案のすごさを、後の映画監督・今村昌平が気付いた。
そのシーンと同じような現象が、自分にも起こったのです!!!
あの先生のお言葉は、確かに正しかった!
実はまだ、あの先生から「優」をもらえていない!
これから「優」をもらえるには、まだまだ修行が足りない!
これで気づいて、せいぜい、「可」がもらえる段階に入ったってことか!
そうか、自分のレベルはまだ、カフカ全集あたりってこと。
あの先生の文学講義は、まだおわっていなかった。
それどころか、死ぬまで続くってわけだ。
小坂先生という文学教授から、あの世で「優」をもらえるだろうか。
今のままでは、覚束ないだろうな。
とにかく、必死で物事を、見て、感じて、書いていくしかない!
しかし、恐ろしいなぁ。
栄光なき天才の真の意味に気付けず、よく小説家なんか目指せたものだ。
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