第18話・女三人寄れば姦しい

「ゼロさんとは、一緒の宿で住んでいます」


「ッ!ゼロ!どういうことなの?!」


ルリさん、言い方!

誤解を生みますよ!

ルリさんに手で制止の合図を送る。


「ルリさんちょっと待ってね。レイナ、一緒の宿ってだけで部屋は一緒じゃないから」


「じゃあなに、マンツーマンで指導するから同じ宿で泊ろうなんてことになったの?」


「そうですよ。ゼロさんには寝る間際まで、大変良くしてもらってます」


すぐに、ルリが答える。


「ゼロ!!!」


「ルリさんお願いだからちょっと待ってね。レイナ、クエストで一緒の宿になってマンツマーンで指導しているだけだから!他意はないから!」


「え?クエスト?」


「ふふ、ばれてしまいましたね。私のお父様が、一人前の冒険者として指導してくれる方をクエストとして募集したところを、ゼロさんが受けていただけたのです。もちろん宿代込みで」


「そうだったの、ごめんなさい。誤解してしまって」


レイナから本当に悪いことをした。というのが伝わってくる。

からかわれただけなのに、素直でいい子だから本気で謝ってるな。


「いえいえ。レイナさんが怒るのも、無理のない事になるかもしれませんから」


・・・は?


「え、それってどういう・・・」


「お待たせしました。ルリさんどうぞ」


他の冒険者の精算が終わり、マリさんが声を掛けてきた。


「はい、お願いします」


ルリさんは爆弾魔だな。

それも優雅に投下するから質が悪い。

やっぱり最初に感じた違和感は間違いなかった。


「ゼロ、あの子とは本当になにもないの?」


「はい。全くなにもないです」


「そう、信じるわ。今はどこで狩りをしてるの?」


「今は悪魔の森ですね」


「悪魔の森ってLV的に無理じゃないの?」


「あはは、良装備で能力向上を図っているのでギリギリ狩れると言ったところです。なかったら厳しいと思います」


「そうなの、私も行ってみたほうがいいかしら」


「いや、悪魔の森は奇襲モンスターが多くて3方向からの同時攻撃とかきますから、咄嗟の回避や範囲攻撃がない場合は辞めたほうがいいと思います。行かれるなら、パーティーで行ったほうが無難でしょう」


「そっか、実はソロでのLV上げが厳しくて困っているの」


「そうですよね、良装備が必要になってくるかもしれませんね。また食い逃げ犯でもペア狩りへ行きますか」


「行ってくれるの?!」


レイナはすごい喜んだ顔で話す。


「ゼロさん、終わりました。私をマンツーマンで指導してくださる件はお忘れではないですよね?」


「あー・・・、すみませんレイナさん。どこかで時間を空けますので行きましょう」


「ふふ、ゼロさんはお優しいですね」


レイナがものすごい顔をしている。

ルリさんも丁寧に発言しているように見えて、相手に刺さるように言葉選びをしている気がする。


「ゼロさん、どうぞー」


マリさん精算を促される。助けられた。


「ゼロさん、私はルリさんに手を出さないように口酸っぱく言ったつもりでしたが?」


「いえ、俺は全く手を出していません」


「あんな風にレイナさんへ、牙を剥いておいてですか?」


そうなんだよ!だけど!俺はルリさんの指導役に徹しているだけでなにもしてない!

神に誓って!


「はぁ、手を出すなら私がいるじゃないですか。それとも幼い感じがタイプなんですか?」


「違っーう!俺は普通です!それだけは誓えます!」


「もうゼロさんはしょうがないですね」


呆れられるが、本当にどうしたものやら。

あ、裏世界のドロップ品持ってくるの忘れた。


「すみません、今日は精算アイテムを保管箱に忘れたのでアイテムはなしで」


「分かりました。精算いたします、クエスト報酬が金貨1枚、ダンさんへの支払いが銅貨40枚、サティさんへの支払いが銅貨100枚になりますので銅貨40枚お支払いください」


今どれぐらいお金あるかな?ポーチの中を感じると、銅貨736枚と銀貨12枚だ。

問題なしと。

銅貨40枚をポーチから出して支払う。


支払った手を握られ、引き寄せられて耳元で囁かれる。


「困ったことがあったら、私にご相談ください」


耳元で囁くのやめてもらっていいですか・・・

ゾクゾクするんで・・・


後ろから、真っ暗な視線を感じる。

振り向くことさえ躊躇われるほど、暗く冷たいものだ。

こうなったら勇気を振り絞って開き直ろう!

元気よく振り向いて、元気よく話す。


「じゃあルリさん帰りましょうか!レイナ、また狩りに行ける日を連絡します!」


「ちょっと!ゼロ!」


冒険者協会を急いで出て、ルリさんと宿へ向かいながら注意する。


「ルリさんダメですよ!レイナは純粋で、何でも本気にしちゃいますから」


「ふふ、私は嘘を申しておりませんよ?」


ぐ、ルリさんは幼い風貌なのに妖艶な雰囲気がする。

からかってないと言われてしまうと、言いようがないぞ。

宿に帰ってくると一人の青年がカウンターにいた。


「おかえりなさませ。あ、姉さんもおかえり。ということは、横にいるのがゼロさんですか?」


姉さんということは、ルリさんの弟さんか。

優しそうなイケメンだ、いつの世界もイケメンは正義だもんなー。


「初めまして、Eランク冒険者のゼロと申します」


「ご丁寧に、私はEランク冒険者のカイと申します」


Eランク!ルリさんの弟なのに、もうEランク冒険者かすごいな。

ルリは、すまし顔でほほ笑んでいる。


「失礼ですが、カイさんはなんの職業についているのですか?」


「私は司祭です」


きたー!!!とうとう回復職が降臨なされました!

ルリさんの弟なら即合格!一発採用までありえますよ!フィーバータイムです!


「ゼロさん、ゼロさん!」


「あ、すみませんでした」


また自分の世界に行ってしまった。


「カイ、ゼロさんは職業の事になると自分の世界に行ってしまう方なのです」


「そうなんですね」


カイさんはちょっと引きつったような笑みを浮かべる。

ルリさん言い方よ!


「ゼロさん、私の事は遠慮なくカイとお呼びください。正直に言って姉であるルリは、頭がよく整った顔立ちで淑女と言っても過言ではないくせにッ・・・」


ルリさんがいきなり弓を持ちだして弟をスナイプした。


カイは倒れた。


・・・


なんだ!いきなり殺人事件発生か!


「ゼロさん、大丈夫です。峰打ちです」


いや、矢には鏃があるから峰打ちとは言えないだろ。


「ゼロさん、今日のご飯はなにが出てくると思いますか?楽しみですよね」


すんごい笑顔で言われる。

この人、弟を弓で射ったんだけど。


「そうですね。カイさんは転がしといて大丈夫ですか?」


「もうすぐお父様が来るので大丈夫です」


ルリさんの秘密はどこまで深いのだろうか・・・

食堂のほうへ足を運んでいると後ろから、「カイ!なにがあった!」というギンさんの声が。

俺はとりあえず、黙っておこう。


ご飯はハンバーグ、ライス、コーンスープ。

ナイフで切ればハンバーグから肉汁が溢れてきて、食べれば肉の味がとってもジューシーで最高だ。ライスと合うに決まってるだろ。

コーンスープも、素材の味が完璧に生かされた至福のスープだ。この宿は最高だ!


いつものルーティンをこなし、部屋へ戻る。

うーん、現在の状況は前衛、大剣のレイナ。中衛、アーチャーのルリと司祭のカイ、後衛、魔法使いのレン、不明枠としてアヤトだ。

なかなか充実してきたじゃないか、ワクワクするぜ。

願わくば前衛がもう少し欲しいところだ。



----13日目裏世界-----

チュンチュン。


朝だな~、今日も今日とて狩りに行くかー。

表世界では、ルリさんの成長を見守ってるから狩りに行けてないけど、俺は装備が充実しているから周りよりは効率よく狩れていると思ってるんだよね。

ちょっと硬い敵も増えてきているけども。


ちなみに、なんでルリさんのLV上げして自分のLVを上げないんだだって?

ルリさんの好感度を稼ぐためだろ!アーチャーは絶対にほしい!


悪魔~、悪魔~、悪魔の森にはインプいっぱい、スケルトンウォーリアーも、挨拶にくるよ!

と訳の分からない、恥ずかしい歌を歌いながら悪魔の森へ突撃。


インプやスケルトンウォーリアーが、いっぱい攻め込んでくるがエネミーサーチが強すぎる。そしてキラーウインドで視界にはいっていないモンスターをエネミーサーチに従い、風で斬る。

これはかっこよすぎだ!

LV1上がってLV26になったけど、新しい魔法はなし。

MPポーション10本消費。

日没だ。


一つ不満は、俺自身が宝箱を出したことがない。

そろそろ現れてもいいんじゃないかと思ってるんですが!どうでしょう?運営さん。


今日の成果は骨25本、悪魔の心臓106個。

悪魔の心臓は銀貨1枚だったから・・・めっちゃ稼げるじゃないか!




----14日目表世界----

チュンチュン。


いい狩りだった。

部屋がノックされる。


「おはようございます、ゼロさん起きてますか?」


「今行きます」


ルリと食堂でご飯を食べ終わった時に、手紙を渡される。


「ダンという方からだそうです」


「ああ、ダンさんですか」


この世界は手紙が遠距離連絡の手段なのか、他に方法がないかも要確認だな。

ダンさんの手紙を読む。


ゼロへ

そろそろ適正LVのモンスターを、1確できなくなってきているだろう。

パーティーで狩るのが普通の場所でソロ狩りしているだけでも、お前はすげえけどな!ただ、1確ぐらいの高火力がないと気持ち悪いよな。倒すのに時間かかるし。

なら、そろそろ武器の新調じゃねえか?風の杖はあと銀貨40枚の支払いが残っているが、俺に風の杖を返すなら銀貨40枚はチャラにしてやる。

そして、新しい武器を買え!

ダンより


ダンさん、武器屋が武器を買え!って催促しますか?


「ゼロさん、楽しいことが書いてありましたか?」


「いえ、新手の商売でした」


「商売?」


「武器屋から武器を買え!って手紙が届いたのですよ」


「それは可笑しいですね」


ルリは手を口に当て笑う。


「という事でルリさん、今日は先に武器屋へ行ってもよろしいでしょうか?」


「ええ、かまいませんよ。私も付いていきます」


「そうですね、新しい武器も確認しておくのは重要ですね」


宿を出て、ダンさんの武器屋にルリさんと一緒に入店する。


「げぇ!ル」


ルリさんは弓を構える。

ちょ、ちょっとちょっと!と手で制止しに行く。


「待った待った!ルリ分かったから、弓を収めてくれって!」


ダンさんが、ルリさんを止める。女性の尻に引かれっぱなしだな。

人の事は言えないが・・・

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