第17話・悪魔の森は奇襲の森

「ゼロさんはとてもいい冒険者のようだ。安心してルリを任せられる」


「ええ、本当に」


ルリが同意してくれる際に、蠱惑的な笑みを浮かべる。

違和感を感じる。

なんだ、なにかルリさんの清楚から出てくるような笑みじゃない気がする。


「ゼロさん、お父様のご飯は美味しいですから是非ご賞味ください」


「ありがとうございます。いただきます」


さきほどの違和感は全く感じられなくなった。気のせいか。


食堂は宿舎と同じ1階にある。

食堂に入ると、すでに別の冒険者がご飯を食べている。


お、笛を持った冒険者もいる。どういうスキルがあるのだろう?魔法で攻撃するのかな?

あ!鎌を持った冒険者も、ムキムキの上位職っぽい戦士の人もいる、武道家っぽい服も着てる人もいるなと興味津々で考えているとルリさんの声が聞こえてくる。


「ゼロさん、ゼロさん!聞いてますか?」


「すみません、目移りしてしまって」


「ふふ、冒険者さん達に目移りするなんて、よほど職業に興味がありそうですね」


う、確かにこれじゃ変態か。


「まあ、そうですね。皆さんどんな攻撃や魔法を繰り出すのだろうと考えると楽しくなっちゃいますね」


「本当に、ゼロさんは面白い方ですね」


ルリさんに笑われる。その仕草がまた可愛いんだよな。

ルリと席に着くとご飯が運ばれてくる。


「お待たせしました、今日はビーフシチューになります」


「すごい、豪華だ」


ビーフシチューにパンまでついている。

宿舎ではパンだけの生活だったから、こんなに美味しい食事があるのかと感動してがっつく。


「そんなに美味しいですか?」


「はい、シチューは旨味が凝縮されて味わい深く、肉はトロトロでめちゃくちゃ美味しいです!こんな食事を毎日食べられるなんて本当にいい宿ですね!」


「よかったです、お口にあったようで」


ルリは手を合わせて微笑む。

だが、こんなに豪勢だと一泊で金貨1枚ぐらいするのでは?

食事を終え、水浴び場で体を洗って、ルリさんに3階の部屋へ案内される。


「ゼロさん、また明日もお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


これが今日から住む部屋か。

保管箱はもちろん、ふかふかのベッドがあり机と椅子もある俺だけの部屋。

本当に良い宿だが、一泊どれだけかかるの?とかは聞きにくいよな。

ルリさんの成長は楽しみだ。俺の思い描いてる未来がくるならルリさんも欲しい。

もう寝よう。




----12日目裏世界----

チュンチュン。


あ、今日からルリさんの宿にお世話になってたんだっけ。

部屋がいつもと違うために、一瞬戸惑う。

じゃあ、マリさんの言ってた悪魔の森にいってみようかな。


冒険者協会に入り、悪魔の森への転移陣から転移するとそこは薄暗い感じのする森だ。

初心者の森は自然味あふれる森って感じだったが、悪魔の森は悪いものが住んでいそうな森だな。

悪魔の心臓とか言ってたしなにがでてくるやら。

歩いていると、右方向から葉っぱがこすれる音がした方向を振り向くと蝙蝠のような翼の生えた小型の生物が槍をもって向かってくる。


アニメとかででてくるような知識でいえば、インプか?名前表記はインプだ。

ってそんなことを考えている場合じゃない!

左方向も音がして、別のインプが突っ込んでくる。



「ダブルウインドシールド!」


右と左に盾を展開。


「ギィ!」「ギィア!」


インプは槍を突き出すも風の壁に阻まれてバランスを崩す。


「ダブルウインドランス!」


「「ギィアアア・・・」」


風の槍を各インプに向かって打ち込むとそのまま光の泡になって消える。


はぁぁ。危なかった本当に。

とうとう奇襲してくるモンスターが現れたか。正直、別方向から同時に奇襲してくるとは思わなかった。

これはエネミーサーチの出番だな。

魔法一覧を展開し、エネミーサーチを取得する。


エネミーサーチは魔法を放つというよりは、ONとOFFで切り替えるパッシブらしい。ONにしてみる。

爽やかな風が辺りに吹いた、エネミーサーチは風魔法系統だろう。

これで、常時モンスターが近くにいるか判断できるはずだ。


歩いて行くと、前方からモンスターが来ていることが分かる。

エネミーサーチ、めちゃめちゃ使える!

昔にやってたMMOの時も敵を探知できるスキルもあったが、マップ上の敵配置を

覚えてしまえば必要なくなってしまう。

だが、この世界ではランダム沸きや、隠れて奇襲までしてくるので重宝するに違いない。


ガシャガシャと音を立てて出てきたのは、スケルトンに見えるが鎧と剣と盾を装備している。

名前はスケルトンウォーリアー。

スケルトンの上位版だろう。


「ダブルウインドランス!」


大型の2つの風の槍がスケルトンウォーリアーを貫ぬき、光の泡にする。

ッ!!

左右からの接近!


「ギィ!」「ギギィ!」


さっきと同じように左右の場所からインプが襲撃してくる。

嫌らしい奇襲をかけてくるじゃねえか。


「ダブルウインドブレイド!」


2体とも消し飛ばす。

これは凶悪なフィールドだ、ソロで攻略するなら敵探知がないと厳しすぎる。

魔法使いは無理と言われても納得できるレベル。

ただ、ありがたいのはインプのHPが少ないことだ。

ウインドランス1発で倒れていたからゴブリンより楽かもしれない。

スケルトンウォーリーアーは多分強い、ゴブリンナイトと同じ匂いがする。


さあて、いきなり5体を倒したけど悪魔の心臓はあるかな?


銀貨2枚が落ちてる!(正確には悪魔の心臓が二つ)

これはおいしい。フィールド的には、スケルトンウォーリアーが少なくてインプがメインだろう。

狩るぞー!


LVが上がった、25LVだ。魔法は~、

・ファイヤーボール

・ウォーターアロー

・キラーウインド


新しい風魔法が出現した、キラーウインドを取得しよう。

キラーウインドを試したいなと歩いていると、3方向からモンスターが迫ってきている。

これはソロだときつい。


敵はまだ目視できず、エネミーサーチでしか見えていない状況だが、キラーウインドなら攻撃できるという訳の分からない自信が湧いてくる。


「ダブルキラーウインド!」


「ギィア・・・」「ギィィ・・・」


一体は逃げていった。

草むらに隠れて見えないが悲鳴が上がったほうへ歩いて行くと、悪魔の心臓が落ちていた。

検証した結果、今までの魔法は手か杖から放っていたが、キラーウインドは指定した場所を風で斬ることができるらしい。火力が高く、射程が長い。これは奇襲や牽制、弱点への攻撃など、ありとあらゆる使い方もできる。クールタイムは15秒ぐらいか?

ずっと同じ魔法でモチベが落ちてきていたが、盛り上がってきたー!

インプやスケルトンウォーリアーが結構くるので、キラーウインドも多用しつつ狩りまくった。

MPポーション8本消費!魔法が楽しすぎる!


今日の成果、骨20本、悪魔の心臓90個。

鎧とかインプの槍とか落ちたけどポーチに入らないから持っていけないのよ。

宿に帰り、保管箱に入れて寝る。


----13日目表世界----

チュンチュン。


いい朝だ。ふかふかのベッドの上でしみじみ感じる。

キラーウインドはすごいよかったな。

あの魔法は最高だ、指定した場所を斬るなんてカッコよすぎだろ。


ノックされる。

「ゼロさん、起きてますか?」


「はい、今行きます」


ルリと一緒に食堂へ行く。

朝ご飯は、コーヒーとパンと目玉焼きだ。

味はおいしいとしか、いいようがない。


「ゼロさん、朝食は基本的に同じですので期待はしないでください」


「いえいえ、こんなに豪勢な朝食なら毎日同じでも問題ないです」


「それはよかったです」


ルリは、ホッとしたような顔をする。

うーん、ここのご飯が当たり前になってしまうと、安い食事が食べられないかもしれない。


「ゼロさん、今日も初心者の森ですか?」


「そうです、初心者の森はソロ狩りの練習をするのにうってつけです。ワイルドドッグ4体を狩れるようになれば、コボルトリーダーも夢じゃなくなりますよ」


「コボルトリーダーもですか!」


「そうですよ。私はソロで倒してますから、ルリさんも努力すればできるはずです」


「絶対に倒します!」


さて、いい子なルリさんと一緒に今日も初心者の森へ行くか。


今日も元気にミニコボルト狩りだ。

ルリは俺のアドバイスを忠実に守りガンガン狩る。


ルリはLVが上がり、LV3になった。

ダブルショットというスキルを手に入れた。

ダブルショットは2本の矢を同時に放てるスキル。但し、1体に向けてしか打てない。

ミニコボルトを倒す速度も上がる。


こうなってくると、俺の存在は必要なくなるため釣りをする。

釣りとは、魚を釣るわけではない。

遠くの敵を倒してもパーティーメンバーに経験値が入らないが、遠くにいる敵を引っ張ってきてパーティーメンバーに経験値が入る場所で倒すというのが釣りという技術?役割?だ。


ミニコボルトはどうも数調整されてあまり湧かないから、あえて俺が引っ張ってきてルリさんに倒させよう。


「ルリさん、ミニコボルトは問題なさそうなので今のまま狩りを続けてください。

私は、遠いところにいるミニコボルトを連れてきますので狩ってください」


「分かりました、よろしくお願いします」


ミニコボルトは足が遅く、釣ってくるのがめちゃめちゃ大変だったが、やらないよりは狩る数は増えたと思う。


ルリは日没間際でLV4になった。

スキルはスナイプを取らせた。

スナイプは正確に狙いを絞り矢を放つスキル、足に当てると怯んだりしていたため状況によって使えるスキルだ。

日没だ。


「ゼロさん、今日もありがとうございました」


「いえいえ、ダブルショットもスナイプもめちゃめちゃ使えそうですね。

できれば、範囲攻撃と足止めスキルが欲しいところです」


「ふふ、本当にアーチャーが好きなのですね」


「ですね」


これは照れる、なんで照れるって職業を好きって認めるのが異常者な気がして恥ずかしい。


精算のために冒険者協会に入ると、レイナがいた。


「レイナ、お久しぶりです」


「あ、ゼロ。久しぶ・・・り?その子は」


「ああ、この」


「初めまして、ゼロさんにマンツーマンで指導いただいておりますルリと申します」


?、ルリさんの言葉がなにか物を言わせないような圧力があるような。


「初めまして、ゼロとコボルトリーダーをペアで倒したレイナよ」


いや、まてまて!またこの展開か!

レイナはそんな大人げない子じゃないから!

レイナは前衛の大剣、ルリは後衛の弓という必要な存在だ。仲違いはよしてくれ!

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