第16話・宿舎から宿へ、そこにいたのはアーチャー

----12日目表世界----

チュンチュン。



あ、レイナさん。

起きるとレイナさんがすぐに謝る。


「ゼロ、ごめんないさい!」


「いえいえ、気になさらないでください。レイナが楽しんでいただけたら、それだけで十分ですから」


「ゼロの祝いだったのに、本当にごめんなさい」



その後は平謝りのレイナをなだめ、狩りへ送り出した。

今回の件は借りにしておいてと言っていたので、なにかあった時はお願いするとしよう。

宿舎の食堂でご飯を食べて、イーナさんに最後の挨拶をする。


「健康に気を付けてがんばるんだよ。応援しているからね」


「はい、ありがとうございます。それでは」


さっそく次の宿を探すか~。

どこの宿がいいなんて全く知らないから、冒険者協会で聞いてみよう。

冒険者協会に入るとマリさんが迎えてくれる。


「あ、ゼロさん今日は早いですね」


「実はご相談したいことがありまして」


「お伺いしますよ」


「冒険者協会宿舎を出ましたので、宿について聞きたいなと」


マリさんが手招きする。

身を乗り出して近づく。


「ゼロさん、もしよければ私の家で泊りますか?」


耳元で囁かれる。

ゾクゾクとし、平静ではいられない。

すごくいい香りするし、マリさんは怖い人だけど美人な人だし。

心臓バクバクだ。赤面しているかも。

ここは冒険者協会だ、冒険者協会だと気持ちを落ち着ける。


「お気持ちだけ頂いておきます。で、宿なんですがエアの町を拠点にしたほうがいいかなと思っておりまして」


「な、なんでですか!」


マリさん、いつからそんなキャラに・・・


「なぜかというと、ゴブリンの巣窟があるじゃないですか。あそこがメイン狩場にするとしたらエアのほうが都合いいかなと」


マリさんは考え込む。


「そうですね~、ゼロさんは下々のダンジョンでLVを上げたんですよね?」


「はい」


「そうなると、もうすぐゴブリンの巣窟地上1階は卒業になると思います」


そうか、確かにそうかも。適正LVを超えかかっているという事だな。


「私が次にオススメするなら、冒険者協会にあるもう一つの転移門からいける悪魔の森という場所があります。

その悪魔の森は物理攻撃がメインになりますし、悪魔の心臓は銀貨1枚でドロップ率もいいほうになります」


おお!それはすごいいい狩場だ。攻撃方法や敵の数など、気を付ける必要があるけど稼げそうだ。


「マリさん、有益な情報ありがとうございます」


「いえいえ、ゼロさんのためですから」


ウインクされる。これは普通に惚れる。

ただここはMMOだ!そういう展開に惑わされてはいけないのだ。


「話は戻りますが、いい宿があります。それも!あるクエストを受けていただいている間、朝食夕食付の宿代無料かつ報酬として毎日金貨1枚が支払われます」


すごい破格なクエストだが、なにか問題があるのか?


「それはありがたいですが、どういうクエストですか?」


「このクエストはEランクの人を対象としており、宿の主人であるギンさんから娘さんを冒険者として育成してほしいとの依頼です。娘さんのLVを毎日1LV上げることが条件です」


おお、そんなクエストはMMO人生でみたことがない。おもしろそうだし受けてみるか。


「そのクエスト受けます。ただ、娘さんのLVが高いとLVを上げられないかもしれませんので、後でクエストを断念することは可能でしょうか?」


「ええ、1LVを上げられている間が報酬対象になりますので」


「じゃあ一度、宿の主人とお話しに行ってきます」


「ゼロさん!くれぐれも、娘さんに手を出すような真似はおやめください!」


気迫あふれる声で、しっかりと注意される。


「マリさん、俺はそんなキャラじゃないんで大丈夫ですよ」


マリさんに宿への道を聞き、さっそく向かう。

3階建ての大きめの宿だ。マリさんがオススメしていただけあるな。


「すみません、ギンさんのクエストを受注した冒険者のゼロと申します」


「おぉ~、ありがとうございます。詳しい話をお話しますのでこちらへどうぞ」


奥へ案内される。


「ゼロさん、もうすぐ娘来ますので説明を先にいたします」


「お願いします」


「まず娘のLVは1です。今回の依頼はパワーレベリングとは違い、一人前の冒険者にしてほしいのです。ただ、娘に万が一のないようにだけお願いしたいです」


「失礼ですが、何故娘さんを一人前の冒険者にしたいのですか?」


「実は、娘は小さい頃から冒険者になりたいと言ってました。

だけど、そんな危ない職業に就かせるわけにはいかない。だから18歳まで待ちなさいと言って聞かせました。そこまで時が経てば冒険者熱も冷めるかなと思ったのですが、楽しみでしょうがないと言い続けましてクエストを依頼したのです」


「いいお父さんですね」


「いえ、本当は無理やりにでも辞めさせるべきかもしれませんが、私も甘いなと思っている次第でして」


「分かりました!この依頼責任もって受けます。娘さんのこともお任せください。私はEランク相当までは教えられますので」


「ありがとうございます、報酬は朝夕食付宿代無料と毎日金貨1枚になります。部屋は個室を用意してありますので、よろしくお願い申し上げます」


ギンさんはとても腰が低く、いい人というのはこういう人を言うのだろうな。

程なくして、娘さんが入ってくる。


「お待たせしました。わたくしはルリと申します」


ルリさんは幼さが残る、清楚系でおしとやかという言葉が似合うピンク色の髪の女性だ。


「初めまして、俺は魔法使いでEランク冒険者のゼロといいます。よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願い申し上げます。では、さっそく行きましょうか」


ギンさんにも挨拶し、ルリさんと宿を出る。

弓と矢筒を装備しているからアーチャーかな?

一応職業を聞いておこう。


「ルリさん、失礼ですがどの職業についてますか?」


「わたくしは、アーチャーです」


「おお、アーチャー!素晴らしい職業ですね、俺もアーチャーをやってた日々があるんですよ」


「え!ゼロさんもアーチャーだったのですか?」


「あ、間違えました。やってないです」


やべ、普通に昔のMMOの時代の話をしてしまった。


「やってないですって、ゼロさんはおかしな事を言いますね」


口に手を当て笑う。

周りにいないタイプの、おしとやか系だ。

これはこれで綺麗かつ可愛い。


「じゃあ、初心者の森へ行きましょうか」


「お願いします」


もうFランク冒険者になっているとの事だったので話も早い。

冒険者協会に着いて薬草採取クエを受けて、マリさんの鋭い視線を掻い潜り、ルリさんと初心者の森へ向かう。


「ゼロさんは、初心者の森でLVを上げたんですか?」


「そうです。私はお金がなくて仮登録を行って、薬草採取クエをやりつつLV上げをしていました」


「ということはソロ狩りを?」


「そうですね」


「すごい!魔法使いのソロ狩りは絶対に不可能とまで言われているのに」


「ルリさんはソロがしたいのですか?」


「はい!私はソロで狩りをするハンターになりたいのです」


ハンターという職業もあるのか、いいね!

じゃあソロに適していそうなスキルをとらないとな。


「ルリさん、最初に持っているスキルはなんですか?」


「ショットという矢の攻撃力を上げて放つスキルです、クールタイムが2秒ほどあります」


それが基本のスキルだな。

MMOの楽しみの一つに、どんどんとスキルが解放されて強くなっていく達成感がある。

アーチャーが成長していく姿を見たくて楽しくなってしまう。どうなるんだろうな~♪


ミニコボルト1体が歩いてくる。


「ルリさん、遠距離職のソロの基本はヒットアンドアウェイです。攻撃されない場所から攻撃、攻撃されそうなら後退して攻撃です」


「分かりました、やってみます!」


「ショット!」


「グゥッ!グゥルルッ!」


矢を射るとミニコボルトに当たるが、すぐに向かってくる。

ルリさんは教えたとおりに下がって矢を射る。


「ググゥ・・・」


5回ほど繰り返したところで、ミニコボルトが倒れる。


「やった!やりましたよゼロさん!」


「見てましたよ、立派なソロ狩りでした」


「ありがとうございます!」


とってもいい笑顔だ。

早く強くなって、可愛いアーチャーが戦ってる姿をみたいものだ。


「これが薬草ですか」


薬草についても教えておく。

この狩場はコボルトが少ないし、薬草採取をしながら狩れば最高効率だ。覚えておいて損はない。

ということで、薬草採取とコボルト狩りをしているとルリさんが2LVになった。

新しいスキルはないとの事。


とりあえず今後も俺は見守るだけに徹しよう。ソロ狩りは経験と狩り方法を確立する練習をしないと重大な事故になる。

日没だ。


冒険者協会へ行き、ルリさんに薬草採取のクエストを完了させた。

俺も精算する。


「本日はリンゴ32個で、銅貨96枚とクエスト報酬が金貨1枚になります。ただ、支払いがダンさん銅貨40枚、サティさん銅貨100枚になりますので銅貨56枚のお渡しです」


「ありがとうございました」


「ゼロさん、ルリさんに何もしませんでした?」


「そんなことしませんよ、マリさんは俺のことをどうおもっているんですか」


「そんなこと言わせないでください」


顔を赤くしながら言う。

本当に変われば変わるものだと感心する。

ルリは、俺とマリさんのやり取りをまじまじと見ていた。


冒険者協会を出て宿に戻る。


「ゼロさんってマリさんとそういう仲なんですか?」


「全く違います」


「全否定ですか」


ルリさんは笑っている。


「でも、とっても仲が良いとは思っています」


「そうなんですね」


宿に着くと、ギンさんが心配そうに迎えてくれた。


「ルリ!ケガはなかったか?」


「ゼロさんに指導いただいているので、全く問題がなかったです」


「ルリ、正直に言いなさい。ゼロさんに指導してもらえば、なりたい自分になれそうか?」


「はい、お父様。ゼロさんは最高の冒険者です。これからもお願いしたいです」


「わかった。ゼロさん、今後もよろしくお願いします」


「任せてください。俺もアーチャーとして成長していくルリさんを見てみたいので」


「ゼロさんは職業のほうに、興味がありそうですね」


お父さんにも面白がられる。


「そうですね、これからどういうスキルが使えるようになるのか楽しみで仕方がありません」

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