第15話・受付嬢も女剣士も、どうした

「分かったわ、開くわよ」


レイナは銀箱をゆっくりと開ける。

俺も覗き込む。


「これ、駆け足の靴よ。移動速度が上がる足装備ね。」


「へー初めて知りました。この装備はどれぐらいで売れるんですか?」


「金貨40枚で取引されてるわ」


まじか、結構するんだな。


「ゼロ、今回はあなたが受け取って」


「いや、俺がレイナにあげた指輪は気にしなくていいんですよ」


「いえ、キッチリとしましょう。今回は受け取ってちょうだい、次の宝箱がでたらどのようにするかは一緒に考えましょう」


レイナは俺と今後もデートしてくれるってこと?最高だな!


「じゃあ、今回はいただきます。魔法使いは身体能力に劣るので助かります、本当にありがとうございます」


「うん、魔法使いにはとっても有用よね」


駆け足の靴を装備する。

走ってみると、いつもより1.5倍ぐらい早い。これは狩りにも使えるな。


「ふふ、使えそう?」


「最高です!」


その後は別の部屋が空いていないため、今いる部屋で食い逃げ犯が湧くのを待って

狩るを繰り返す。食い逃げ犯は湧くのに結構時間かかる。

そのおかげとレイナの火力のおかげで、ポーションを節約できた。

ただ、宝箱はその後は見かけなかった。

今日は、2LV上がって24LVになった。新しい魔法の取得は保留。

レイナも1日でこんなにLVが上がったことない!と言って喜んでいた。

MPポーションは8本消費したことで残りは39本。まだ買わなくてもいいかな。


食い逃げ犯からドロップした銀貨は全部で10枚しかなかったため、レイナに全てあげた。靴と比べたら全く釣り合うものではないが、レイナに力の指輪を渡したときに銀貨をもらったから同じようにしておいた。

レイナと一緒にエンリルに帰る。今日はいい1日だったな。


今日の成果は、骨2本、銅貨2枚。



レイナも一緒に精算へ行くことになったので、精算アイテムを取りにいってきますと言い、宿舎の保管箱にある10日目表世界と裏世界のドロップをとってきた。


「本当にあなたの保管箱は、どうなってるのよ」


「あはは」


呆れたような顔で言われるが、誤魔化して冒険者協会に向かう。



-マリside-

ふふふ!

ゼロさん、私はあなたの事が気になって気になって仕方がないわ。

夜も眠れないくらいに。

もう色々とおかしいことが多すぎるわ。

この異常事態を協会長まで容認しだすなんて、もう本当になにがあるの?

ここまできたら、ゼロさんを篭絡してでも聞き出してあげる!

そりゃあゼロさんは良さそうな人だし、稼ぎも異常、狩り状況からみても相当強いはず、将来有望すぎる人でも隠し事は・・・あれ?



レイナと一緒に冒険者協会に入る。


「ゼロさん!お疲れ様でした♪今日も大変で・・・あれ?レイナさん?」


「私も精算しにきました」


「ゼロさん、レイナさんと一緒に入ってこられたようですが、なにか接点がありましたか?」


「レイナとは宿舎仲間でして、今日は下々のダンジョンでペア狩りをしてきたんですよ」


ああーそういえば、ゼロさんとレイナさんは宿舎で生活してましたね・・・レイナ?


「な!レイナって!ゼロさん!レイナさんのことを呼び捨てにする仲なんですか!?」


カウンターから身を乗り出す勢いだ。仲もなにも狩り仲間だからだけど。


「そうですね、狩りをする仲間なので呼び捨てでいこうという話になりまして」


・・・


この雰囲気はなんだ、暗いオーラをマリさんが出している気がする。怖い。


「ゼロさん、私との仲も親密と言っていいほどだと思っています。

ですが、私の事はまだマリさん止まりじゃないですか。

今後も冒険者協会の受付嬢マリとして、一生をサポートしていきますので是非私の事もマ」


「マリさん、精算してもらえませんか?」


レイナが口を挟む。

待て待て。

マリさん、今日はなにがあってどうした!おかしいぞ!

それにレイナはどうした!そんなキャラじゃないだろ、いきなり修羅場か!

昨日はマリさんにそんな雰囲気なかったし、レイナも表立って対立するようなキャラじゃない。

俺が予想もしていない展開があって、話が進んでいるのか?

マリさんの変化は見当もつかないが、レイナは今日狩りで「俺とやらないか?」


今日狩りで俺とやらないか?ってなんだ。俺とやらないか?なにを?どこで?

う、頭が痛い。こっちが真剣に考えてる時に限って、思考を潰すような発言してきやがって。


「ほらほら、俺の魅力にいつもクラクラなゼロだろ?」

協会長が自慢気な顔をする。


もう本当に勘弁してくれ。こいつはなんなんだ!俺の人生で、こんなやつはみたことない!

レイナもマリさんも声がでないようだ。そりゃあそうだろう!


「とりあえず精算してやれ、マリ」


協会長がマリを促す。


「はい、分かりました。レイナさん失礼いたしました、精算させていただきます」


「お願いします」


レイナの精算が終わる。


「マリさん、俺もお願いします。」


「ワイルドドッグの牙15本、骨5本ですね。骨は1本で銅貨2枚になりますので、85枚になります。ただ、ダンさんへの支払いが銅貨40枚、サティさんへの支払いが銅貨100枚になりますので銅貨55枚を支払いください。」


「はい」


銅貨55枚を渡す。

なんか色々な事を考える必要がある気がするが、もうどうでもいいや。


「ゼロさん、今日は色々な人がいるのでまた明日お話ししましょうね」


マリさんがにこやかに手を振ってくる。


「明日もよろしくお願いします。」


マリさん、本当になにがあったんだ。

レイナは普通そうに見えるが機嫌悪そう。

冒険者協会内にいる冒険者達が話しているのが聞こえる。


誰だあいつ。羨ましい。俺のほうがマリさんにふさわしい。なんでマリさんがあんな男に。俺が狙ってた男だ!

いや、最後のはもういいから。そういうキャラは協会長でお腹いっぱいだから。


嵐の冒険者協会をレイナと一緒に出る。

とりあえず、今後のためにもレイナに話を聞いておこう。


「レイナ、マリさんの声を遮るなんてどうしたんですか?」


「なんかムカついたから遮っただけよ」


レイナは、さも当然かのように言う。

ん?レイナ的には、なんかムカついたってのが理由っぽいな。なぜムカついたとかに理由を付けていない感じだ。

ほっとしたような、残念のような複雑な気持ちだ。


「そうだ、レイナさん。俺、今日を最後に宿舎を出ようと思ってるんです」


「え!なんで出ていくの?LV20はまだ先でしょ?」


「いや、大半の冒険者って宿に宿泊してるじゃないですか。俺も、他の冒険者と同じように独り立ちしたいなと思ったので協会宿舎を出ていこうかと」


「そうなの・・・ゼロが決めた事に口を出す事はないわ。宿舎仲間じゃなくっても一緒に狩りにいってくれる?」


少し寂しそうな顔を見せてくれる。なんか10日間ぐらいしか一緒にいなかったけど、とても楽しかった思い出しかないから俺も寂しく感じる。


「はい!是非行きましょう!冒険者協会が手紙を預かってくれるそうなので、お互いに連絡したい時は協会に預けておくのはどうでしょう?」


「約束だからね!じゃあゼロの独り立ちを祝して飲みに行きましょ!」


「行きましょう!」


前回、レイナと一緒に行った酒場に入る。


「ああ~!レイナとゼロさんだ~、いらっしゃ~い」


「ミラさん、お久しぶりです」


「久しぶり~、お二人ともエールとつまめるものから出せばいいかな?」


「それでお願いします」


ミラさんに案内され、レイナさんと席に着く。

前回、レイナの絡み酒のせいで料理の味なんて気にしてる場合じゃなかったんだよな。

エールジョッキ2つとサラダを運んできた。


「お待たせ~。ゼロさん、あの後レイナと色々あった?」


「な!」


レイナは当然のように動揺する。


「あるわけないじゃないですか。レイナはもう寝てましたから」


「寝てるところをってこともあるじゃない?」


「あるわけないでしょ!」


レイナ、そういう可愛い反応するからミラさんに弄ばれるんだぞ。


「ふふ、レイナはそういうところが可愛いよね~」


「そうですね」


レイナは顔を真っ赤にしてうつむく。

うーん、さすがレイナ。いい子すぎるな。


その後は予定通り、レイナは酒乱になった。


「だ~か~ら~、なんで冒険者協会のマリさんと親密になってるの?」


「はい・・・」


「そういうところなの。私以外の女性とは簡単に仲良くなるのに、私とは仲良くしようとしないじゃない!食い逃げ犯も一緒に倒した仲なのに!」


「はい・・・」


「だ~か~ら~、ゼロは~」


って!前回と同じやりとりやん!


レイナは予定通り眠っている。お金の支払いは俺が銀貨6枚の出費。

デジャブだ・・・

ミラさんにニヤニヤされるが、話した通りなんにもないから!


レイナを宿舎まで背負って帰り、布団に寝かせる。

ふー、役得なんだけどな。

今日はマリさんにアプローチされたり、レイナがやきもちなのか?と大変だった。


現実では生きるためだけに仕事をして、趣味もなく無味無臭の日々だった。

それが、この世界では狩りという仕事が楽しくてしょうがない。

LVを上げて強くなる事も、お金を稼ぐ意味も、大切な友達ができる事も全てが楽しい。これが俺の求めていた人生かもな。




----11日目裏世界----

チュンチュン。


はぁー朝か。

この宿舎で起きる裏世界も今日で終わりか、寂しいものがあるな。

宿舎にある保管箱の品は、宿ごとに用意してある保管箱から取り出せるから問題ないし手ぶらで出て行っても問題ない。


ただ、これから宿住まいとなるとお金も稼いでおかないな。

自立するにはお金が必要だ。ということでゴブリンの巣窟だ!


宿舎から飛び出し、西門からゴブリンの巣窟まで一直線に走っていく。

食い逃げ犯からドロップした駆け足の靴がいい仕事をする。

前は太陽の位置的に正午を余裕で超えていたが、正午ぴったしぐらいについている。


「さあ、ゴブリン共帰ってきたぞー!」


ゴブリンの巣窟に入った瞬間に、恥ずかしい言葉を叫ぶ。

気分の問題だ。人がいないから何を言ってもいいのだ。


「「ギャギャギ!」」


ゴブリンナイト3体、普通のゴブリン1体が襲ってくる。


風魔法を駆使しゴブリン共を倒しまくった。

夕方になる前に狩りを切り上げて帰る、今から帰らないと宿舎につく前に夜になってしまう。

今日の反省点としては移動時間が多すぎると狩りの時間が少なくなった事だ。

こんな当たり前の事を気づかずに狩りに行ってしまったのは、自立するプレッシャーか?

MPポーションは3個消費した、残り36本か。

宿に泊まるって事はエアの町を拠点にしてもいいかもな、マリさんに相談してみよう

日没だ。


今日の成果はリンゴ32個、銅貨3枚。

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