第12話・自殺志願者男とセーラー服の男
洞窟みたいな入口に入ると、洞窟の内部そのものだ。
あの入口だけの洞窟からは想像できない空間だな。
冒険者パーティーが何組かいる。
そのパーティー達は低LVっぽい人と高LVっぽい人の組み合わせばかりに見える。
初心者の森でほとんど人を見かけなかったのは、このダンジョンに低LVを連れてきて高LVがパワーレベリングをするのが定番ということか?
MMOではギルド員のレベル底上げイベントってことで、低LVのLV上げを率先して高LVが助けたものだ。
洞窟を入ってすぐは広場的な場所だが、枝別れした道が見える。
ゲームではマップが見えるからどう移動しようとか考えられるけど、マップがないから分からん!
「おーい!ゼロー!」
また叫んでるぞ、あいつ。
「レン、なんでここにいるんだ。お前、この町で注文した杖を受け取ってすぐ帰るって言ってたじゃないか」
「ゼロ、俺の新しい杖だ!で受け取った後さー、ゼロにエンリルへの帰り方を念入りに教えてもらったのにさー、なぜか洞窟にいるんだよ?おかしくない?」
「お前がおかしい」
「俺!?」
「レン、ここはダンジョンだ。ここの中を彷徨っても、エンリルには着かないぞ」
「やっぱりかー。こうなったらゼロ、心して聞いてくれ。俺を助けてよー」
「なにがこうなったらかは分からないが、とりあえずエンリルに連れてってはやれる。ただし、明日になってしまうがいいか?」
「おう!」
とりあえず、この極度の方向音痴を放置できないし俺の言う通りにしてもらう。
まずは、ゴブリンの巣窟でペア狩りして、エアの町で1泊して、明日の朝にエンリルに向けて出発すると伝えた。
おう!とレンは意気込む。返事はいいがどうなることやら。
普通のゴブリン2体と、鎧を着てボロボロの剣を持った2体のゴブリンが襲ってくる。
テロップにはゴブリンナイトとでている。
「ゼロー!俺の魔法を見せてやるぜー!ウォーターキャノン!」
レンの杖からすごいスピードで水が放たれる。
「ギャギャ!!」
ゴブリンナイト1体に当たるが、怯む程度で倒せてない。
「おい、レン!1確で倒さないと4体相手はきついぞ。
ダブルサドゥンウインド!」
一旦仕切りなおさないと危ない。
2箇所に突風を出して、ゴブリン2体とゴブリンナイト2体を吹き飛ばす。ウォーターキャノンをくらっていたゴブリンナイトは光の泡になった。
「つえー!ゼロ、マジでつえー!ウォーターマシンガン!」
杖から拳程度の大きさの水が弾丸のように数発が放たれて、ゴブリン2体を倒す。
生き残ったゴブリンナイトが走ってくる。
「ダブルウインドカッター!」
「ギャ・・・」
ゴブリンナイトは風の刃に切られ、倒れた。
「ふー、レンとのペア狩りはマジで危ないな」
「4体は厳しいよな!」
モンスターの問題じゃないと心の中で言う。
そうだった。
この世界で魔法使いはパーティーで狩るのが当たり前だから、前衛がいない状況では戦う方法さえ分からないのか。
その後は過酷だった。
レンは頼りにならないため、俺がひとりでゴブリンとゴブリンナイトを倒しまくっていると、レンが「俺も俺も」とでしゃばってくる。
そして、レンが死にそうになるから必死で助けた。
レンは常に自殺志願者状態、それを防ぎながら狩りをする難易度は異常だ!
こいつには、いつか絶対にMMOの狩りがなんたるかを叩きこんでやる!
ゴブリンの巣窟を出ると夕暮れだった。
今日の成果は、リンゴ20個、スライムの液体5、銅貨15枚、ボロの剣は捨てた。MPポーションまで使用するはめに。
洞窟内で狩りしたドロップはレンと折半した、理不尽すぎる。
エアの町にある酒場で、夕食を食べるが疲労しすぎて楽しめない。
レンは超ハイテンションだし、困ったものだ。救いなのはレンがおごってくれると言ってくれた事だ。宿代は朝食込みで銀貨3枚。
宿の保管箱へドロップ品を入れる。エアにある宿の保管箱なのに、協会宿舎の保管箱と通じているらしい。なんか、パソコンの前でプレイしてたMMO時代は、アイテムを保管すると色々な場所で共有できて当たり前だったけども、自分で狩りをするVMMOだと保管箱が通じてること自体が感動するな。
疲れた、寝よ。
----9日目裏世界----
チュンチュン。
はあ~、朝か。
さてエンリルに帰るとするか。
宿の泊まっていた2階の部屋からフロントに降りてくるが、誰もいない。
ハッ!?
裏世界か!裏世界は寝た場所から始まるのか、これパーティーでダンジョンに挑んだ時にダンジョンで泊まったら、ダンジョン内1人で1日過ごすのか?地獄のような時間になりそうだ。
そんな未来を考えても仕方ない、とりあえずゴブリンの巣窟でLV上げするか。
冒険者が話していたのを聞いたが、俺とレンが狩りをしていた場所が地上1階。
ゴブリンの巣窟は地下3階までの構成とのこと。
地上1階はレンを守りながらでもなんとかなったから、地下1階に行ってみよう。
ゴブリンの巣窟に入り地上1階を歩いていると、ゴブリンとゴブリンナイトが幾度となく襲ってくる。
俺の魔法は風の杖で火力UPし、ダブルマジックで火力大幅UPか攻撃範囲拡大があるため余裕も余裕だ。
ゴブリンナイトの考察としては、ワイルドドッグと比べるとHPや攻撃力が高そうだが、足はそこまで早くないので1確で倒せればソロでも余裕。
地下1階への階段が見えたため降りてみる。
地下1階にきたが、地上1階と景色は変わらない。ただの洞窟だ。
歩いていると、ゴブリンナイト2体、ゴブリン1体と、杖を持ったゴブリン1体を見つける。
ッ!杖を持っているだと!まずい!
杖を持っているってことは魔法を使うゴブリンだろ。名前はゴブリンメイジと出ている。
遠距離職のソロは近づかれる前に倒す。が前提になるが相手が遠距離職だと攻撃の打ち合いになる。
俺みたいな紙装甲の魔法使いは弱ダメージでも強ダメージになりうる。
「ダブルサドゥンウインド!」
「「ギャギィィィ~」」
2つの突風でゴブリン共4体は吹き飛び転げている。
「お前だけは確実に倒す。ダブルウインドブレイド!」
ダブルウインドブレイドで一番危ないゴブリンメイジとゴブリンナイトに叩き込み光の泡にする。
転げていたゴブリンとゴブリンナイトはこちらへ向かってくる。
「ダブルウインドランス!」
二つの風の槍は、ゴブリンとゴブリンナイトを簡単に光の泡にする。
「ふー」
焦ったー!ゴブリンメイジなんてでてくるのか。
序盤のモンスターだろうし、ダメージは少ないんだろうけどHPの少ない俺が魔法の打ち合いを長時間すれば、ジリ貧間違いなしだ。
ここでの狩りは断念だな。
遠距離攻撃から身を守る用意をするか、パーティーで攻略する方法を用意しないと地下1階では狩れない。
狩れる火力はあるが、相性が悪いというジレンマ!こういう事あるんだよなー。
ボスとかまで行きたかったなー!
地上1階へ戻り、憂さ晴らしするようにゴブリンとゴブリンナイトを倒しまくった。
「雑魚が!」「もっとこいやああ!」「そんなんで、冒険者倒せると思ってんのかー!」
ゼロは昨日からの鬱憤を爆発させた。
MPポーションを8本消費した。
敵の数が多いため2LVも上がって18LVになった。2LV上がったけど新しい魔法は当然のようにでない。
ゴブリンの巣窟地上1階は確かにLV上げには最適だ。
狩場について冒険者協会で聞いてみて、いい場所がなかったら新しい狩り場にしてもいいかもな。
本日の成果、リンゴ80個、銅貨20枚。
宿に行って保管箱にドロップ品を預けて寝る。
----10日目表世界----
チュンチュン。
朝かー、今日がエンリルに帰る日か。
裏世界があるせいで表か裏か一瞬分からなくなる。
俺は裏世界で断念したゴブリンの巣窟にリベンジすると誓いながら朝食をとる。
朝食はパンとスープだ。この世界はパンとスープが基本の食事なのかな。
もちろん、イーナさんの作る食事のほうがうまい。
宿を出るとレンがいた。
「おはー!ゼロ、帰ろうぜ!」
「テンション高いなー、じゃあ帰ろうか」
エンリルに向けて帰るわけだが、当然のように一本道を帰るだけだ。
朝から帰ろうと思ったのは、トラブルが発生して今日中に帰れずクエスト達成できない可能性を考慮したわけだが、絶賛トラブル中だ。無駄にならずありがたい。
「レン!私というものがありながら、なんで他の男と一緒に帰ろうとしてるのよ!」
色々と突っ込みたいとこはあるが、説明するなら美少女に見える人がいる。
黒髪ロングの綺麗系の顔立ちでセーラー服を着て杖を背負っている。
なぜにセーラー服を着ているのかは分からないが、レンは俺と酒場で別れた後に出会って、付きまとわれていると。名前はアヤトというらしい。
そして会話の流れがおかしいように、セーラー服を着た男らしい。
レンと出会ってから俺のMMO生活はおかしな路線に行ってしまったと思えてしょうがない。レイナとの狩りが懐かしいよ。俺は疲れたよ。
「ねえ!あなたレンのなんなの?」
「うーん、知り合い?」
「知り合いならいいけど、レンは私のものよ!」
レンは戦友として勧誘しようと思っているが、決していらない。
「ゼロ!俺とは友達だろー?」
「友達なのね!狙ってるのね?」
もう無視して帰ろう、レンもおいて帰ってもいいや。
アヤトに呼び止められて、1時間ぐらい話しをしている気がする。
「レン、俺は帰るわ。アヤトとお幸せに」
「ゼロー!待ってくれー!」
アヤトに抱き着かれながら、叫ぶレンを無視して帰る。
時間を無駄にしたな。
レンの勧誘はやめたほうがいいかもな、あれは疫病神かもしれん。
エンリルに帰ってきた。
だいぶ時間がかかった気がする。ひとまず、宿舎へ行って薬を届けて8日目の裏世界のドロップ品を取りにいって冒険者協会に精算に行くか。
宿舎へ行き、イーナさんへ薬を渡す。
「ゼロ、ありがとうね。助かったよ」
「いえいえ、初めての遠征で楽しめましたので」
「それはよかったよ。報酬は冒険者協会で受け取ってね」
「行ってきます」
8日目裏世界ドロップ品を持って協会の受付嬢マリさんへ精算しに行く。
「ゼロさん、お疲れ様でした」
「マリさん、俺は疲れましたよ」
「珍しいですね、ゼロさんがそこまで疲れるなんて」
「クエストやモンスターでは疲れてないという意味の分からない状況ですが、精算お願いします」
何を言っているか分からないという顔をしているところへ、精算する品を提出する。
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