第9話・ボスのコボルトリーダーに女剣士と挑む

----7日目裏世界----


チュンチュン。



朝か~と起き上がり、あ、裏世界かと思い出す。

レイナとペアでボス狩りに行く気満々だったよ。ボス討伐をやる気になって寝たから変な気分だ。


今のうちに、明日のコボルトリーダー戦に備えて検証しておこう。

初心者の森へ行き、コボルトをウインドカッター1発で倒せるか検証してみたが倒せず、2発は必要という事が分かった。結構HPが高いよな。


後、魔法は魔法名を言わないと放てないのかという疑問を持ったので、ウインドカッターと心の中で思って手をかざしてみると放てた。が、カッコイイので当然魔法名は今後も言おう。


そして、同時に二つの魔法が放てるようになっているからダブルウインドカッターのように、ダブルを前につけることとしよう。魔法名が長くなって噛むことだけは避けねば。

その後も初心者の森で狩りを続けて、日没だ。


LV14になったけど、また新魔法がでてこず。コボルトリーダー戦前に、新魔法がでたらよかったのにと思いながら宿舎の保管箱にドロップ品を保管して寝る。

本日の成果、ワイルドドッグの牙31本、ボロ切れ15枚、銅貨12枚。





----8日目表世界----


チュンチュン。



朝か~っじゃない!

パッと目を見開き、周りを見回すとレイナさんが武器の手入れをしている。


「おはようございます」


「おはよう」


「ご飯を食べてきますので、待っていただけますか?」


「ええ、でも一点だけお願いしたいことがあるの」


このタイミングでお願いってなんだろう?


「今回、ペアでボス狩りをするのだから、私のことは呼び捨てにしてほしいの。何日間か同じ部屋を共にして、ボスまで一緒に狩りにいきましょうって言ってるのに他人行儀ではダメ。呼び捨ては絶対条件にするわ。敬語もなくていいんだけど、話しにくかったらいいわ」


うわー。

あんまり女性を呼び捨てにしたことないから恥ずかしいけど、ボス狩りの時は一瞬の判断で声を掛けなくてはいけないだろうし確かに重要かもしれない。


「面と向かって女性を呼び捨てにするのは恥ずかしいものがありますが、分かりました。よろしくお願いします」


「そういやって言われたほうが、なんか恥ずかしいわね」


とレイナと変なやりとりをしつつ、初心者の森最奥にいるコボルトリーダーの広場手前まで来た。


「コボルトリーダー、でかいですね」


「そうね。あれと今から戦うと思うと、少し怖いわ」


コボルトリーダーは身長2m以上ありそうで、コボルトと同じ2足歩行をしそうだ。出会ったモンスターの中では一番でかい。


コボルトリーダーの武器はコボルトと同じ槍だが、コボルトの槍とは比べものにならないくらいにでかい。

あの槍で攻撃されたら、防御スキルを使用してもダメージをもらいそうだな。レイナは防御スキルがないし、無理やりに大剣で受ければ致命傷だろう。予定通り回避スキルでの立ち回りでお願いしなくては。


そして、コボルトリーダーの前に取り巻きのコボルト3体が前衛として布陣している。

ゼロはレイナに向かって声を掛ける。


「では、昨日話した作戦どおりに行動しましょう。万が一、撤退が必要だと判断した場合は声をかけてください。全力で撤退に力を注ぎますので」


「ええ、無理せずにいきましょう」


広場に入った瞬間にコボルト3体が走ってくる。


「ダブルウインドランス!」


風の槍2本が2体のコボルトへ向かっていき、2体とも瞬殺する。

最後のコボルトが走ってくるところをレイナが迎撃する。

レイナに向かってコボルトは槍を何度も突き出すが、大剣で防御や回避をし続ける。

俺の指示通りに、レイナはコボルトに攻撃をしないでいてくれてるな。


というのも、ウインドランスにはクールタイムがあるためコボルトにウインドランスを使った場合、コボルトリーダーに開幕の一撃でウインドランスというムーブができなくなってしまう。そのため、レイナにはコボルトと対峙したら防御に徹してくれと伝えていた。俺は、ウインドランスのクールタイムが終わるまで待つ。

ウインドランスのクールタイムが終わったという感じがした。


「ダブルウインドカッター!」


ウインドカッター2発を叩きこんでコボルトを倒す。


「ガァガァガァヴァァァウ!!!!!」


コボルトリーダーが取り巻きを倒れた事への怒りか、全力で吠えて突進してくる。

さあ、楽しいボス戦だ!手始めに一番高火力魔法からいくぜ!


「ダブルウインドランス!」


「ガ、バァウァ!!!」


コボルトリーダーにウインドランス2発が刺さり、怯んで立ち止まる。


「ダブルウインドカッター!」


ダブルウインドカッターをすぐさま当ててダメージを稼ぐ。

怯んでいる間にレイナがコボルトリーダーへ接近し、スキルを放つ。


「ミラージュスイング!」


レイナから繰り出されるスキルは剣を頭上に高く振り、真っすぐに振り下ろす動作と右から左へ剣を水平に振り抜く動作が同時に行われたように見えた。これが剣士のスキルか、ダメージが見込めそうなスキルだ。


コボルトリーダーは、立て続けに攻撃された事に苛立った事を見せつけるかのように吠え、レイナに向かって槍を水平に振り抜こうとした。

レイナの回避スキルは、体ごと転がって回避するスキルと聞いていた。もし水平に槍を振り抜かれたら回避できないかもしれないとも言っていた。俺が守るしかない!


「ダブルウインドシールド!」


レイナの横に2つのウインドシールドを張ることで槍を防ぐ。

コボルトリーダーは、ウインドシールドに槍を当てた瞬間に槍が弾かれたせいで体制が崩れる。


ここだ!


「ダブルサドゥンウインド!」


サドゥンウインドを重ねて放つ事で、木々が倒れそうな勢いの突風が吹き荒れ、コボルトリーダーは体勢を崩している状態だったため踏ん張り切れずに後ろへ倒れた。

レイナに作戦として伝えてあった事がもう一つ、ダウンが取れたら全力でスキルを放てと。

一気に畳みかけるぜ。


「レイナ!今だ!ダブルウインドカッター!」


「ミラージュスイング!」


「ミラージュスイング!」


「ミラージュスイング!」


ミラージュスイングは、クールタイムがほぼないスキルのため連続で放てるらしい。カッコイイ!

魔法使いと違って剣士のスキルはクールタイムのないスキルがあるらしい。ただし、気力というMP的なものがあるらしく最大で打てる回数は限られる。MPと一緒でスタミナポーションなるものを使用すれば、気力も回復できるとの事。


レイナは気力が少なくなったのか息遣いも荒くなり、少し下がってスタミナポーションを飲む。

コボルトリーダーは、ダメージをもらっているため起き上がるのもやっとのようだ。


「ダブルウインドカッター!」


当然ここは、HPを削るためにクールタイムの少ないウインドカッター攻めだ。


「ガアァウ!!!!!」


コボルトリーダーは最後の力を振り絞り吠え、レイナに向かって槍を突き出す。


「緊急回避!」


レイナは回避スキルでコボルトリーダーの槍を転がりながら避ける。これはスキルで回避しているため、普通に転がるよりも回避スピードと回避距離が増している。


初見のボス戦とは思えない立ち回りでびっくりするな。

レイナとはこれからも協力したいものだ。


ファイナルアタックは俺が決めるぜ!


「これで終わりだ、ダブルウインドランス!」


2つの風の槍はコボルトリーダーに刺さり、コボルトリーダーは倒れた。


ふー、なんとかなったぜ。

なんとかなるだろうと思っていても、パソコンの前でマウスとキーボードを操作して戦うのではなく、リアルに戦っているような感覚のために緊張感がすごすぎる。


レイナもへたり込んだ。


「やったわね、ゼロ」


「さすがに緊張しましたね」


「風魔法って強いのね、コボルトリーダーを圧倒するほどなんて」


「レイナがいなきゃ、ここまで強くなれなかったですよ」


実際のところ、武器と防具を分割払いで購入できたのはレイナのおかげだしな。


「私はなにもしていないけどね」


照れたような声に聞こえた。

お待ちかねの戦果を検証するぜ、ボスを倒したおかげでLVは15になった。


新しい魔法は~


・ファイヤーボール


・ウォーターアロー


・ウインドブレイド


・エネミーサーチ


お!新しい魔法が二つもある、風の攻撃魔法と索敵魔法かな。

今後、奇襲してくる敵対策に索敵魔法は必須だろうけど、裏世界でコボルトリーダーをソロで倒すことが、当面の目標になるだろうからウインドブレイドを取得しておくか。


「ゼロ、ゼロってば」


「ん、ああごめん。LVが上がったから魔法を取得してた」


いかんいかん、新しい魔法が手に入ったのが嬉しくて呼ばれてるのも気づかなかったらしい。


「あそこにある宝箱がドロップ品だと思うのだけど。初めて見たわ」


コボルトリーダーを倒した場所に銀の宝箱が出現している。


「俺も初めて見ました。普通のドロップより、いいものが入ってそうですね」


「そう思いたいわね」


宝箱を開けてみると、中には指輪と銀貨5枚が入っていた。指輪をよく見ると、力の指輪とテロップが。


「これ!力の指輪じゃない!物理攻撃力3%UPの優れもので、売れば金貨20枚にはなるわ」


「それはすごい、いきなり当たりだったという事か。その指輪はレイナが使ってください」


「な、なにいってるのよ!売れば金貨20枚になるのよ」


「まあそうだろうけど、物理攻撃力3%UPって優れものですよね。アクセサリー1個3%UPは大きいと思うし、物理職なら全ての指にはめるべきだと思うから」


「・・・ありがとう。あなたっていい人ね」


微笑んでお礼を言ってくれる。レイナは少し大人びてる印象があるけど、笑顔は純粋に可愛い。

色々な意味で最高だ!もっともっと強くなって、この世界を楽しみたいと思った。


「銀貨はもらってね、全く釣り合ってないけど」


「全然気にしなくて大丈夫です、でも銀箱ってことは金箱もあるんですよね?」


「そうね、出そうなものとしてはコボルトリーダーの槍じゃない?金貨40枚はいくわ」


「そんなに高いんですね、ちなみにコボルトリーダーの沸き周期をご存じですか?」


「コボルトリーダーは1日で復活するらしいわ、ただ狙うのはやめたほうがいい。銀箱も運がよくなきゃでないらしいけど、金箱は全く出現しないと言われているの」


王道の設定キター、端的に言って最高!ボスを倒せるようになったら、裏世界でも毎日倒そう、狙いのドロップ品が落ちるまで倒すのもMMOの醍醐味だよな~。


「レイナは、この後どうしますか?」


「まだ昼だし、狩りにいってくるわ。せっかくだから夜は祝勝会ってことで、一緒に飲みにいかない?」


「是非!日没に宿舎待ち合わせでいいですか?」


「ええ、じゃあまた後で」


レイナは初心者の最奥から立ち去る。

しばらくしてレイナがいなくなった後で両腕を上げながら叫ぶ。


「よっしゃあー!」

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