第8話・ダブルマジック
「もちろん買います。自分の職業、能力、稼ぎを考慮すれば買う以外に選択肢はないです」
「本当にかわいくないわね、じゃあ取引成立ね。今日の支払い金貨1枚を支払ってちょうだい。後は冒険者協会に支払ってくれればいいから」
銅貨100枚を支払ったら、嫌な顔をされた。
そりゃそうか、確かにじゃらじゃら支払うなよってなるよな。ポーチの中から出したいだけ考えると出せるから気にならなかったけど、今後は換金しておこう。
サティさんはその時は嫌な顔をしていたけど、最後は笑って送り出してくれた。
「支払えなかったら奴隷だからねー!楽しみに待ってるよ」
「そこは応援するところでは?」
「ゼロは応援なんてされなくても、余裕でしょ」
ダンさんもサティさんも話しやすくていい人達だ。
でも、あの二人あわよくば俺を奴隷にしたがっているような気がするんだよな。そんなことになってたまるか!ダブルマジックを装備して初心者の森へ行くぞ!稼ぎまくってやる。
冒険者協会へ着くと受付嬢さんに声をかけられる、
「あ、ゼロさん。今日は遅いですね、どこに行って・・・なっ!そのローブは!」
「すみません、とりあえず初心者の森へ行ってきます!」
とすばやく初心者の森へ向かう。日没まで時間がないのだ、お話は日没後で!
そしていつもの狩場へ走っていくと4体のワイルドドッグにエンカウントする。新しく手に入れたダブルマジックの性能はいかに。
「「ガウ!」」
まずは、俺の最高火力魔法!ワイルドドッグに向けて放つ。
「ウインドランス!」
風の槍が2つ展開されて飛んでいき、ワイルドドッグ2体を消し飛ばした。
うわー、これはあかんやつや。強すぎる。銀貨1000枚の価値なだけあるわー。
「「ガア!」」
残った2体が走ってくる。
「ウインドシールド!」
「「ギャ!!」」
2つの盾が並んで俺の前に出現し、2体とも壁に阻まれて弾かれた。最後に試したいことをやってみる。
「サドゥンウインド!」
サドゥンウインドを重ねて放ってみた。
木は思いっきりしなり、草や砂が巻き込まれゴーゴーと音がするほど吹き荒れる。
ダブルマジックを持っていない時でも強烈な突風だったが、これほど変わるのか。
ワイルドドッグがどこか遠くへ飛んでいったら面白いのになと思っていたが、サドゥンウインドを重ねた突風はワイルドドッグを一瞬で光の泡にする。すげえ。
ダブルマジックの効果を検証すると、2つの魔法は2つの標的に向かって発動するか、重ねて発動が可能という事が分かった。
その後も新しい力と敵を倒す爽快感でハイになりながら、ワイルドドッグとコボルトを倒しまくった。
最高の狩りになったが、体がだるくなりMPポーションを飲むはめに。サドゥンウインドを常時使用するのはMP消費が高いんだろうな。ダブルマジックを手に入れた時点で現状の狩場は過剰火力となったから、サドゥンウインドは自重してMPポーションを節約しよう!
LVは13に上がった、順調順調。
今日の成果は、ワイルドドッグの牙27本、ボロ切れ10枚、銅貨10枚。
狩りも終わったので、裏世界のドロップ品を回収するために宿舎にいかねばなるまい。
宿舎には、それはそれは怖いレイナさんがいるけども和解しているので大丈夫・・・なはずだ。その後の受付嬢マリさんのほうが今は怖い・・・
宿舎でレイナさんに軽く挨拶をし、裏世界のドロップ品を回収。レイナさんはドロップ品について、なにも言わなかった。ありがとうございます!
いざ冒険者協会へ!
たのもー!の精神で冒険者協会の扉を開け入っていくと、マリさんが俺を見つけた瞬間に、後ろに鬼が控えているような雰囲気を纏いながら笑顔を向けてくる。
「ゼロさん、お疲れ様でした」
「お、お疲れ様です」
こ、怖えー!
「お話ししてくれるんですか?」
「は、はい。すみません・・・」
謝罪したことで、マリさんの背後の鬼は去った。
「もう、そのローブはどうしたんですか?仮登録の方が装備するようなものではなさそうですが」
「マリさんに教えていただいた雑貨屋でポーションを買って、防具屋に行ったら武器と同じく分割で売ってくれました」
「ええっ!また分割で買ったんですか?お金は大丈夫ですか?ダンさんへの支払いもまだ残っているのに」
目を見開いて、本気で驚いている。
「ええ、きちんと支払っていく算段はたっておりますのでご安心ください」
「前回もですが、そんな高額なものを自信満々にお支払いできるという姿は立派ですが心配です」
「すみません」
謝罪しつつカウンターにワイルドドッグの牙45本を出した。
薬草に関しては数も少ないし自分用にとっておこうと思う。
「なっ、ワイルドドッグの牙45本もあるじゃないですか!どんな狩りをされているんですか!今までに1日で45本も精算した方はいませんよ!」
「いやあ、実はベテランの冒険者の方とペア狩りが日課になってまして、素材は全部いらないというものですから俺の戦利品になってしまうんですよね。あははは」
じー。
な、なに?今日は結構自然に語った気がするが、まさか戦利品というのがおかしかったかのか?素材全部いらないも無理があるか・・・と冷や汗を流しながら頭の中で色々考える。
マリさん見すぎ、見すぎ!そんなに見つめられたら俺の事好きなのかな?とか思っちゃうから。
マリさんは存分に俺を見つめた後で、ため息を一度ついた後で話はじめる。
「ゼロさんがおかしいのは今に始まったことじゃないですが、絶対に話してくださいよ」
なにを?とはいえる状況じゃない。
「わ、わかりました」
「では、ワイルドドッグの牙45本で銅貨225枚となりますが、ダンさんへのお支払いが40枚、仮登録料が3枚となりますので銅貨182枚になります」
「ありがとうございます」
「ゼロさん、仮登録の方で1日金貨2枚以上稼ぐ方はいないです。あなたは、色々な方から注目されはじめていますので気を付けてくださいね」
「はい、ご心配いただきありがとうございます。」
マリさんが唐突に怖い事を言い出したけども、仮登録の人を注目する人なんていないだろと。
注目しているのはマリさんだけでしょとツッコミたい気持ちだ。
-マリside-
「はぁ。ゼロさんは日に日に異常さが増しているから、どうしたものかな」
とゼロが精算後に出て行った後、マリはぼやく。
最初はどこにでもいる右も左も分からない新人だったが、今や誰がどう見ても異常すぎる。
仮登録者は薬草採取などのFランククエストでお金を稼ぎつつ、ミニコボルトでLv上げするというのが定番。
ゼロさんの場合は、ある時から納品する薬草の量がだいぶ増えたなーと思っていたら、アンコモンの杖を分割で買ったと意味の分からないことを言いだした。その後もFランクのクエストそっちのけでワイルドドッグを倒しはじめたと思ったら、今度はレアのローブを分割払いで買ったって。それも、仮登録者なのに1日の稼ぎは金貨2枚以上。ゼロさんは協会へ一人で来る辺り、魔法使いなのにソロ狩り。服が汚れていない状況から推察すれば、HPポーションも利用していない。全てが異常。
あんなに稼いでいるのに、なぜか仮登録の支払い代金を一括で支払ってくれない理由も分からないけど・・・
正式に冒険者になったら、すぐに高ランク冒険者になるほどの逸材だなーと物思いに耽る。
ここまで異常だと協会長に報告しないといけない案件だから、ゼロさんから強引にでも事情を聞き出そうとしてるけども教えてくれないんだよな~。
協会長に仮登録の人がすごすぎるんです!なんて報告はできないし、困ったなー。
マリはゼロの異常性に気づきつつも、どうしたらいいか悶々としていた。
ゼロは宿舎へ帰りながら、最後にやり遂げないといけない事に意気込む。
決して、レイナさんに保管箱のアイテムを弁明することではない。
宿舎でルーティンをこなし、ノックして部屋に入ってレイナさんに声をかける。
「レイナさん、実は折り入ってご相談が」
「なによ、珍しい。保管箱について話す気になったの?」
「あ、いえ、それはまだ」
じー
はい、そりゃあ気になりますよね。でも今日話したいことはそれじゃない。
勇気を振り絞って言おう!
「レイナさん、俺と一緒に明日、コボルトリーダーを倒しに行きませんか!」
「え?ゼロってLV8か9ぐらいでしょ?というか、私がタンクだろうけど、コボルト3体のタゲをとったあとで、コボルトリーダーのタゲを取りながら立ち回るのは無理よ。私のLV12よ、適正Lv帯で倒す場合のパーティーは4、5人が推奨されているんだから。あ、他の人も誘ってパーティ組んで行きましょうということ?」
「いえ、二人で倒しに行きましょう」
すごい変な顔で見られる。
「ゼロ、今の話聞いてた?確かにコボルトリーダーはコボルトが全員倒れるまで襲ってこないらしいわ。だけどコボルト3体はHPも火力もそこそこあるから、囲まれながら戦ったら絶対に体力を消耗する。なんとか3体を倒したとしても消耗した状態でコボルトリーダー戦は生き残れないと思うわ」
「ええ、ですから戦術を変えましょう!まずはコボルトを俺が2体、レイナさんが1体受け持ちます。そして余裕を持ってコボルトリーダーに挑めばいいのですよ。コボルトリーダーの攻撃も魔法で防げると思いますから。あと、万が一危なくなったら、足止めの魔法を使って一緒に逃げましょう。広場外に逃げると、追ってこないと聞いていますし」
何言ってるの?のような顔をされつつ話が進む。
「まずゼロはコボルト2体を引き受けて生きてられるの?」
「多分、レイナさんが1体と戦ってるうちに2体とも倒せちゃいますよ」
「っ!!、魔法使いってそんなに強いの!?」
「魔法使いは固定砲台と言われるだけあって、高火力なんですよ。コボルトは余力を残して倒し、全力でコボルトリーダーを倒しましょう!ただ、コボルトリーダーのタゲをとってほしい関係上、回避や防御スキルをレイナさんが持っていると嬉しいのですが」
「一応の回避スキルはあるから、数回は避けれると思うけど」
よし!回避スキルがあるなら前衛をまかせよう。長期戦で戦う場合、ヒーラーもいない状態で大剣持ちに回避タンクさせるとかありえない戦法だけど、俺とレイナさんの火力なら短期決戦もいけると思っている。
「今回は短期決戦にしましょう、本職タンクのような役割は必要ありません。タゲを少しの間とってもらえるだけでいいです。俺が火力魔法をガンガン当てて倒しますから、ですから安心してください!」
「するすると話を進めてるけど、ゼロもコボルトリーダーと戦ったことないでしょ?それも私と狩りへ行ったこともないのに、全て思い通りにいくと思ってるの?」
ゼロは自信満々にうなずく。
「大丈夫です!もし危なかったら、一緒に逃げましょう。」
「その自信がどこからくるか分からないけど、いいわ。私もコボルトリーダーとは一度戦ってみたかったし、ソロで倒そうと思うとだいぶ先になっちゃうなとは思っていたから、2人で偵察へ行くつもりでいきましょうか」
その後二人で攻撃のタイミングの打ち合わせをして寝る。
明日は初ボス討伐の記念日になるに違いない!
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