第66話ボス出現、そしてリアルでも


「せあっ!」


正拳突き――からの裏拳、鉤突き、肘鉄、手刀、回し蹴り。

これはスキルによるものではなく、手動によるコンボ。

オルオンではあらゆる攻撃に『コンボ猶予時間』というものが設定されており、特定の動きによりコンボが発生する。

被弾中の敵は攻撃モーションを取ることが出来ず、コンボ中は一方的な攻撃が可能なのである。

そしてコンボはリーチの短い武器程、多くのコンビネーションが存在し、その最たるものが拳。

今行っているのはギュスターヴに教えて貰った型の一つ、中々シビアで忙しいが一方的に攻撃出来るのは気分爽快だ。


「グゴォォォ!?」


咆哮を上げながら宙に浮くのはナイトメアドラン。

見た目的には竜の亡霊、つまり霊体型のモンスターである。

この手のモンスターには通常打撃は通らないのだが、正呪印で現在俺の打撃は闇の反対、つまり光属性が付与されているので問題なし。

とはいえ打撃が効きづらいのは確かであり、これだけではまだ半分も減らせていない。

だが、これで終わりではない。


「ギュスターヴ!」

「応よォ! オラオラオラオラァ!」


待機していたギュスターヴが両腕の爪を振り回しながら突進を仕掛ける。

乱れ飛ぶダメージ表示、相手は霊体なので大したダメージは与えられていないが、これもまたコンボ扱いとなりナイトメアドランの拘束は続いている。


そう、ギュスターヴの能力は俺の指示に応じて何パターンかの攻撃を繰り出すことなのだ。

見せてくれたのは突進しながらの連続攻撃『スラッシュ・ラッシュ』、一瞬の為の後、強力な一撃を繰り出す『ハイパワー・クラッシュ』、地面を抉って岩を飛ばす『ストーン・ウェイブ』の三種。

まだまだあるらしいが「切り札を全て見せる程信用していねェ!」と一蹴されてしまった。

特にスラッシュ・ラッシュが強力で、一秒程相手を拘束する為、俺も更にコンボを続けられるのだ。


ギュスターヴの攻撃が終わり浮き上がった相手に繰り出すのはハイキック、ミドルキック、前蹴り、そしてスキルのコンボに繋げる。

『連打撃』『崩拳』『虎砲』『竜撃拳』。

ラスト一撃、大きな手応えの後にナイトメアドランはぐったりと倒れ伏す。


「ガオオオ……」


消滅していく巨体を見下ろしながら、俺は『深呼吸』でSPを回復させていくのだった。


「むぅ……あの強敵をあっさり倒すとは! すごいぞ二人とも! まさに名コンビだな!」

「ハッ! 言っとくが俺が合わせてやってんだからな!」

「うん、ありがとうなギュスターヴ。この調子で頼むよ」

「……チッ、足手纏いになるんじゃねェぞ!」



――ナイトメアドランとか離れたら状態異常ブレス、近づけば高速、高威力、高命中と三拍子揃って、さらに霊体ボディで攻撃まで通りにくいっつー厄介な相手だぜ。それを瞬殺とかヤバすぎん?

――霊体型は魔法も通じにくいからなぁ。聖職系職業的にはそこそこ美味い相手なんだが、聖職スキルは媒体が必要となるから色々効率が悪いんよ。

――使い勝手のいい攻撃は聖水を使いまくるからね。俺もプリーストやってるけど聖水で破産しそう。

――その辺、正呪印があるユートさんは有利よね。常に光属性付与で戦えるから。モンクの対魔の心得と合わさって最強に見える。

――霊体モンスターは光属性の攻撃手段があれば柔らかくて美味しい魔物だからね。とはいえナイトメアドランはこのダンジョンでも最強クラスだし、今のレベルじゃ正面切って殴り合うにはキツい相手だけど……そこでコンボなわけか。

――いやでもコンボの繋ぎに使い魔の攻撃を使うのはすげぇシビアだぞ。普通はギュスくんみたいに長々攻撃してくれないしよ。

――だよな。保険に使うのがせいぜいだわ。あの持続時間とタフさはえぐい。コンボだけじゃなく足止めとか色々悪さができそうで夢が広がりんぐ。

――てかユートさんの手動コンボ上手すぎん?。現役格闘家が色々詰めてるけど実戦では五回が限度と言われてたぞ。それが何でこんな長々続けられるんですかねぇ……

――恐らくゲーム感覚だからだろうね。リアル格闘家たちは物理現象に引きずられるけど、基本的にゲームはゲーム、ヒョロいゲーマーでもコンボ自体は決めれたりするし。二重の意味で鍛えてるユートさんならではでしょ。

――つーかユートさん、剣士やってた頃からプレイングヤバかったしなぁ。今更よ。



いやー中々強いなモンク。正呪印による光付与もさることながら、ギュスターヴとの相性も最高だ。

更に言えば格ゲーとかだとコンボのたびにダメージ補正がかかり、最後の方は碌なダメージが出ないはずなのだがオルオンでは問題なく高威力のままである。

多少の補正はかかるものの目算では10%もいってないし問題なし。ま、基本コンボゲーじゃないもんね。


「それにしてもこれだけコンボが続くなら、『アレ』を決めるチャンスがあるかもなあ」


以前ガチャで手に入れたギャンブラーのスキル、『ワールドダイス』。

これを使った場合七つのダイスが出現し、出目に応じて様々な効果が発現するというものだ。

特に7が揃った際に発動する『レインボースクリーン』は7777777という超高威力の固定ダメージを与えられるのだ。

普通に考えれば揃うはずがないが、それ故その威力は間違いなくオルオン最強。正直言って浪漫を感じる。

実はちまちまレベルを上げていたんだが、そろそろスキルが取れる頃合いなんだよなぁ。

コンボで高くに打ち上げるなどして、無防備になった瞬間とかに転職→ダイスとかで使えるかもしれない……ま、浪漫感は満載だけれども。


「ユートよ、遅れているぞ!」

「そうだぜ。何ボサっとしてやがる!」

「ごめんごめん」


考え事をしていたら遅れていたようで、慌てて駆け寄った。

その時である。


ズズン! と地響きが鳴る。

大きな揺れと共に眩い光が地中から現れた。

それは――暗いダンジョンの中にそぐわぬような光の巨人。

ぬぅっと伸びた頭、両目に当たる部分には赤い光が妖しく灯っている。


「ォォォーーーン……」


初めての敵! つーかこの巨体、ただの敵じゃないな。

不気味に吠える光の巨人に鑑定メガネを使ってみる。


グノーシス

レベル94

属性光 悪魔

HP15000000

SP3300

弱点属性 闇

弱点部位 口、心臓


このHP、やはりボスか。

どうでもいいけど大体の生物は心臓が弱点だと思う……あと口が見えないぞ。

役に立たない情報である。ま、鑑定メガネは基本HP確認用だし別にいいけど。


「あいつはグノーシス、モリガンが初期に作り出した眷属の一体だ。動きは鈍いが異常なタフさと高い火力を持つ。奴がいるってこたァこの辺りに除鍵があるに違いねェ……!」

「むぅ、ギュスターヴより強いのか?」

「馬鹿言いやがれ! ……だがまぁ、積極的にやり合うのは気が進まねェ相手だな」


あのギュスターヴにそこまで言わせるとは、まぁ相当強そうな相手ではあるが。

どうやら俺たちには気付いてないようだが……どうしたものかと考えていた、その時である。


ピンポーン、とインターホンの音が鳴った。

うっ、よりによってこのタイミングでお客さんとは。

宅配便かもしれないし、竜崎さんの可能性もあるし、流石に無視はできないよな。しばし悩んだ後、


「ごめん! ちょっと中断! 待っててくれ」

「こ、こらユート!」

「ふざけんじゃねェぞコラ!」

「悪い悪い、すぐ戻るからさ」


そう言ってログアウトする。

レイモンドのセーブはダンジョン内は出来ないんだよな。

まぁできたら強すぎ……っていうか詰んでしまう可能性もあるのだが。


「ったくもー……この忙しい時に、誰だよ一体」


文句を言いながらインターホンに出ると、そこにいたのは……俺の両親である神谷美恵と茂典、であった。

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