第65話ギュスターヴが仲間になった!
「せいっ!」
どどん! と衝撃音が鳴り響き、打ち込んだ拳によりグールの肉体が崩壊する。
拳を使い始めて再確認したが、このゲームはリアルと同じくきちんとした角度、速度、威力で攻撃を入れれば威力は何倍にも上がる。
つまり型が重要なわけだ。コンボに頼らずとも、打撃のみで十分倒せることがわかった。
「ほう、大分サマになってきたじゃねぇかよ」
「あぁ。ギュスターヴのおかげだよ」
「ば、馬鹿言いやがれ! 俺ァ別に何もしてねぇよ!」
礼を言うと何故か真っ赤な顔で否定する。
照れ屋さんなのだろうか。
◆
――おー、あんなへっぴり腰だったのに、すっかりいい感じになったね。一日一万回正拳突きした甲斐があったな。
――いやそこまではしていない……が、それでもログイン中はほぼずっとだったか。大したもんよ。もはや遊びじゃないね。修験者や求道者の類だね。
――集中力が半端ないんだよなぁ。俺も空手経験者だけど、あれだけの突きは中々打てないぜ。館長クラスはあるな。拳で人間を殺せるよ。
――しかしギュスくん、中々面倒見がいいなぁ。いつも乱暴ですぐ姿を消すけど、なんだかんだでユートさんのこと気にかけてるし。なんだかんだでレイモンドも気を許し始めてるぜ。
――ツンデレギュスたんハァハァ……
――ケモナー乙。
◆
「すごいぞユート! まさに完璧ではないか! な、ギュスよ!」
「ふん、まぁ悪くはねェ……全く大した集中力だぜ。それだけ鋭い拳が繰り出せるなら、俺が教えることはもうないだろうよ。じゃあな」
「あ、待ってくれよギュスターヴ!」
行こうとするのを呼び止める。
世話になりっぱなしで行かせるなんて、そんなことは出来ない。
「ここへ来たのは何か目的があったんだろ? 手伝わせてくれないか?」
「あァ……!?」
が、俺の申し出が気に入らなかったのかギュスターヴは振り向きざまに睨みつけてくる。
「ナメんじゃねェ。俺様が見返りを求めてテメェの面倒を見たとでも思ってんじゃねェだろな? いらんお世話だ! 俺様と互角の勝負をした奴がンな体たらくじゃ俺自身がみっともねぇから教えただけよ! それ以上でも以下でもねぇ! テメェに俺様の心配をされる言われはねぇ!」
咆哮を上げるギュスターヴだが、
「いや、それは違うぞ」
俺は手を左右に振って返した。
勘違いだとそう言って。
「お前の力を貸して欲しいんだ。俺たちの目的もこの地下の探索でさ、そのついでに修行をしていたんだよ。だがどうやらお前も下を目指すようだし、出来れば協力を頼みたいと思ったんだ」
「ンな……ッ! お、俺様の力を借りてェだとォ……?」
「あぁ、お前がいれば百人力だ。世話になってばかりで心苦しいけど。頼めないだろうか」
「おお、それはいい! ボクからも頼むぞギュス!」
レイモンドもそれに加わる。
ギュスターヴは舌打ちをしながら顔を背けて……
「ったく仕方がねぇなぁオイ! お前ら俺がいなきゃなーんも出来ねぇんだからよォ!」
なんだかめちゃくちゃ嬉しそうにため息を吐いた。
「おおっ! 引き受けてくれるのか?」
「へっ、乗りかかった船ってやつよ。それに俺に流れる真なる漢の血が助けを求める者の手を振り払うことを許さなくってよ? ったくテメェら運がいいぜ!」
「よっ! ギュスよお主はエラい! 大統領になれるぞ!」
「なーーーっはっはっは! もっと讃えろ俺様を!」
レイモンドが褒めそやすとギュスターヴは更に気分を良くする。
なんかちょっとわざとらしい気がしなくもないけど……ともあれこれで百人力である。
◆
――あまりにも雑なヨイショに困惑を禁じ得ないんだが。
――ユートさんは純粋にお願いしている節はあるけどね。
――レイモンドは明らかにおちょくってるわコレ……気づかないもんかな。
――気づいてるってか、そもそもギュスは自分の気持ちが優先なのかもね。相手の思惑がどうあろうが、自分に誠実であればいい的な。
――つまりギュスたんハァハァってことですね。
――ケモナー乙。
◆
「俺がこの遺跡に潜ってる理由、それは自身にかけられた眷属の呪いを解く為だ」
親指で自身の胸に刻まれた黒縄をトンと叩く。
「え? 呪いを解除って……」
「で、できるのか!? そのようなことが!?」
その言葉に思わず食いつく俺とレイモンド。
呪いの手がかりがあると聞いてここへ来たが、まさか直接解くことができるとは。
「応とも。この遺跡は俺様の主……モリガンのかつてのねぐらだった場所だ。そこには奴の呪いを解く除鍵があるって話でよ」
「き、聞いたことがあるぞ! 呪いの要である術式の一部を固めて作ったもの、鍵の形をしていることから名を除鍵と呼ばれるとか……!」
「ほう、物知りじゃねェの。そうとも。除鍵を使えば俺様に掛けられた忌まわしい眷属の呪いも消せる……!」
自らの胸を掻きむしるように抱き、歯を軋ませるギュスターヴ。
「……む? だがギュスよ。お主は以前、ユートを自分と共に眷属にならんかと誘ってなかったか?」
「確かにそういえば」
以前戦った時、彼は自分を俺と同類だと言い、主の為に戦っていると言っていた。
つまり眷属であることに誇りと信念を持っていたということになる。
そんな彼が今更呪いを解こうとなど、するものだろうか。
「ギクゥッ!? ……そ、それはだな……」
「それは?」
レイモンドと二人でじっと見つめると、ギュスターヴは観念したかのように舌打ちをする。
「……テメェに影響されたんだよ。チッ」
「お、俺に……」
「あァそうだよ! ……恥ずかしい話だが、俺様はあの悪魔みてぇな女に初めて遭った時、小便ちびるかと思うような衝撃を受けた。こんな化け物がこの世にいるのかってな。とてもじゃねェが逆らおうだなんて思いもしなかったぜ。眷属として生かしてくれたってだけで、嬉しくてたまらなかったよ。『あぁ、まだ生きてていいんだ。こんな強者に俺様は認められたんだ』ってな。……それからの俺様はあの女の為にそりゃもう犬のように走り回ったよ。あの村を襲ったのだってそうだ。しかしそこでお前たちに出会った。身体に刻まれた黒縄を見てお仲間だと思い声をかけたが……お前らは俺とは違った。あれだけの強者を目の当たりにして折れない心! 眷属ではないと言い張るその誇り高きその姿に、俺様は己の立ち位置に疑問を持っちまったのよ。誇り高きワーウルフとして、お前はそれでいいのか? とよ」
握った拳を震わせながら、眉間に深く皺を寄せる。
それを見てうんうんと頷くレイモンド。
「ふっ、流石はユートだ。誇り高きワーウルフが魔血皇女の下僕をやっているなどおかしいと思ったのだ」
「言っとくが俺様の元の姿はめちゃくちゃカッコいいんだからな! ユートテメェ多少イケてるからって舐めるんじゃねぇぞ!」
「別に舐めてはないよ」
ワーウルフか。前作までは出てなかったワードだな。
……直訳すると人狼、そして俺に対抗するってことはかなり人間寄りの姿なのかもしれない。
モンスターというよりはそういう種族なのかも。しかし自分で言う程カッコいいのか……俺様系イケメンってやつかな。
そりゃこんな姿にされたら怒るだろうなぁ。
「――で、以前あの女の命令でここに調査しに来たことを思い出したのよ。どうやらここは奴の思い出の場所みてェでよ。その術式の根源、つまり除鍵が眠ってるらしいんだ。そいつを見つけて俺様も一匹狼として誇りを取り戻ろうと思ったのさ!」
なるほど、呪いの噂は本当だったのか。
それを手に入れれば俺たちの呪いも解けると。奇しくも彼と目的が一致したというわけである。
「ってことで即席パーティ結成だな! 鍵を手に入れるまでの共同戦線、倒した後は早い者勝ちだ。恨み言は言いっこ無しだぜ?」
「もちろんだとも」
「うむ、異論はないぞ」
頷く俺たちを見て、ギュスターヴは太い腕を上げた。
「よっしゃあ! 行くぜ野郎どもォ! 俺様についてこいや!」
「やれやれ、何故お主が仕切っておるのだ」
「ははは……」
大笑いしながら歩き出すギュスターヴに、俺たちは苦笑しながらもついて行くのだった。
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