第57話打ち上げで会ったのは
◇
「魔術師の魔法スキルで記憶力が上がった……ですか」
帰りがけ、俺は誤解を解くべく、己のした事を細かく説明した。
しかし皆の反応はやはりイマイチである。
「あー、オルオンのね。俺もやってるよ。当然テスト中も。でも何も起きなかったぜ? むしろ成績下がったし!」
「確かに詠唱中は何か頭に文字が浮かんできたことあるけど、それで記憶できるものなのか? 俺は特に何も浮かんでこなかったけどなぁ」
「私、ゲームは難しいからやらなーい。志保はやってるんだっけ?」
「えぇ……私も多少魔術師はプレイしていますが、神谷くんのやり方で勉強が捗るのかというと、正直言って疑問というか……」
経験者も含め、皆は首を傾げるのみだ。
「……あぁでも私もすごく集中してる時はそういう無意識の文字列が頭に浮かんでくる気がします。と言っても稀にですが」
「そういえば。でも勉強とは関係ないワードばっかりだなー」
「うんうん、洋楽の歌詞とか。一度聞いただけのJPOPとか」
「てか結局勉強自体はしてたんでしょ? なら別にズルじゃないんじゃない?」
言われてみれば、勉強範囲を調整しながらゲームをプレイして復習するのはそれなりに面倒ではあった。
それを最適化する為にかつてないほど集中できていた気もする。
そういえば父さんに「お前はゲームが絡むとすごい集中力を発揮するよな」とよく呆れられていたが、これもその一端なのかもしれない。
うーん、でもなぁ……いつまでも思い悩む俺に詩川さんが一言。
「神谷くんの実力ですよ。自信を持ってください」
……そう、かもしれない。
それにこれ以上ウジウジするのはフォローしてくれている皆に悪いか。
「ごめん。そしてありがとうみんな」
反省し、礼を言う。
俺の言葉に皆は満面の笑みを返してくる。
「よし、テストも終わったし皆で打ち上げ行こうぜ!」
「そーそー、今から駅前のジョリーズでレッツパーリィ!」
「いいねー、さんせーい!」
「神谷くんも行きますよね?」
「もちろんっ!」
大きく頷いて、俺は皆と打ち上げへと向かうのだった。
◇
「おい、見ろよ。これぞジンジャーコーラカクテルだぜ!」
「へへっ、甘いぜ。こちはメロンホワイトスプラッシュよ」
浩太と慎也がドリンクバーでオリジナルドリンクを調合して遊んでいる。
エグい色してるな。正直マズそうである。
「ちょっと男子ー。マナー悪いわよ」
「問題ないですよ。ちゃんと飲み切るなら。……飲むんですよね?」
「も、もちろん……」
詩川さんに睨まれ、はしゃいでいた二人は縮こまる。
美人に面と向かうと迫力が凄いからな。俺も彼女に正面から見つめられたらたじろいでしまう程だ。
そうこうしているうちに注文が来た。
「お待たせしました。デラックスパフェ大盛りとスペシャルパンケーキでございます」
「わー、来た来た。これを待ってたんだよねぇー」
ちなみにいずれも日向さんが注文したものだ。
連日のテストで頭を使ったからか甘いものを食べたい気分だったのでありがたい。
「えーコホン。それでは料理も来たことですし、打ち上げ会を始めようと思います。皆様本当にお疲れ様でした。それでは中間テストの終了を祝しまして、カンパー……」
言いかけた、その時である。
ガシャアアン! と、ガラスの割れるような音が辺りに響く。
視線を向けると離れた席にて、店員が強面の男たちに平謝りしているのが見えた。
「も、申し訳ございません!」
「おいおいねーちゃん。困るなぁ、これじゃ風邪引いちまうよ」
「クリーニング代出して貰わねーとさぁ」
どうやら水を溢して服に水をかけたとかどうとか、男たちにイチャモンを付けられているようだ。
「あちゃあ、可哀想に……」
「よりにもよって面倒そうな輩に絡まれたもんだな……」
浩太たちは面倒に巻き込まれないよう彼らから目を逸らすが……違う。
あいつら、わざと足を引っ掛けていた。
それを証拠に男たちは困っている様子などなく、むしろ店員さんを嘲笑っているように見える。
何度も謝る店員さんにかつての自分の姿がダブる。気づけば俺は席を立っていた。
「ちょ……神谷くん!?」
皆が止めるのも聞かず、俺は店員さんの前に立ち塞がった。
「あァん? なんだお前?」
「い、いやー……彼女謝ってるじゃないですか。そろそろ勘弁してあげて下さいよ……」
精一杯の笑みを浮かべながら代わりに謝る。
前は似たような感じで謝って怒らせてしまったが、かといって他に手があるわけでもない。
元いじめられっ子としては下手に出るのが限界なのである。
「うるせェ! 関係ねぇやつはすっこんでろ!」
「ぶち殺されてぇのかコラァ!」
しかしやはりというか、そんな俺の謝罪も男たちを怒らせるばかりだ。
男たちは立ち上がり、今にも殴りかからんばかりの勢いで俺を睨みつけてくる。
うーむ、結局こうなるわけか。
喧嘩なんかしたくはないんだけど、自分で降りかけた火の粉の責任は取らなきゃダメだよな。
そんなことを考えていた時である。
「……ん、お前どっかで……ああっ!」
突如、男の一人が俺を指差し声を上げた。
「て、テメェはあの時のクソイケメン! なんでこんなところに!?」
「あ……もしかしてあの時の……」
彼らは以前、コンビニの裏で唯架さんに絡んでいた不良たちだ。
正直顔までは覚えてないが、なんとなくのシルエットは一致するようなしないような……彼らが言うならそうなんだろう。多分。
「く、くそっ! なんでお前がこんなとこにいるんだよ!」
「馬鹿! 早く逃げるぞ!」
「くそったれが! 次こそ覚えてやがれよっ!」
呆気に取られている間に男たちはファミレスから逃げ出す。
なんだかよくわからないが、殴られずに済んで良かったと安堵の息を吐く。
そういえば前も覚えてろとか言われてた気がしなくもないが、嫌なことは早く忘れるべきだよな。……うん、よし忘れた。
「ありがとうございました……なんと礼を言っていいか」
「いえ、全然気にしないで下さい。俺は特に何もしてないので」
「しかしあなたがいてくれたから……って、んん? その声はもしかして……」
顔を上げる店員さん。その顔は俺のよく知った人のものだった。
「小鳥遊、先輩……?」
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