第56話テスト期間、突入
◇
明けて翌日、本日は中間テストである。
皆、朝からピリピリしており、教室の空気は張り詰めている。
そんな中、教室に入ってきた山田先生が手を叩いて皆の注目を集めた。
「はい注目! 知っての通り今日は中間テストの日だ。各自、この日に備えてしっかり勉強してきたと思う。悪あがきはこの辺にして、頭をスッキリさせて挑むのが得策だぞ」
最後の詰め込みをしている生徒たちを見て意地悪そうに笑うと、
「では頑張りたまえ。健闘を祈る」
そう言い残して去っていった。
途端、隣で最後の詰め込みをしていた浩太が机に突っ伏す。
「うああああーーーっ! もうダメだぁ。おしまいだぁ……!」
「我、座して死を待つのみなり……」
頭を抱える浩太の隣では、慎也が悟り切った顔で窓の外を見つめている。
どうやら二人はまさにその悪あがきをしていたらしく、思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「あらら、自信なさげねぇ男子たち」
そんな俺たちに声をかけてきたのは日向さんだ。
「……そ、そういうオマエはどうなんだよ!」
「ふふーん、私は昨日泊まり込みで勉強したからバッチリよ。ねー志保」
「う、うーん……そう、ねぇ……そうだといいけど」
同意を求められるも詩川さんは苦笑いしている。
どうやら昨日も付きっきりで教えていたようだが、彼女の反応を見るに微妙そうだ。
「神谷くんは大丈夫そうですね。あまり緊張してないように見えます」
「あはは、ここまで来たらバタバタしても始まらないからね。諦めの境地ってやつだよ。何せ昨日もゲームしてたし」
「ま、いけない人!」
口元に手を当て目を丸くする、その古めかしい所作に思わず笑ってしまう。
「詩川さんは落ち着いてるね?」
「こう見えて内心は結構ドキドキしているのですけれども」
「俺もだよ。お互い頑張ろう」
「えぇ、負けませんよ。勝負です」
好戦的な笑みを浮かべてくるが、普段の成績から言って俺が勝てるわけないんだけどなぁ。
何せ宇多川さんは学年テストでは常に一位という、才色兼備を絵に描いたような人なのだから。
そんな会話をしていると、ガラガラと扉を開けて国語教師が入ってくる。
配られたテスト用紙をひっくり返し、解き始めてしばし、俺は違和感に気づく。
(……え? なんだこれ)
問題を読んでいると何故か、回答が勝手に浮かんでくる。
一体何があったのだろう。不思議な感覚に戸惑いながらも流されるままに問題を解いていく。
(不思議だ。この感覚、どこかで最近同じことがあったような……ハッ、そうだ思い出した! 魔法スキルを詠唱している時と同じなんだ!)
オルオンでは魔法スキルの詠唱時、気分を出す為か脳内でそれっぽい文字列が勝手に引き出され浮かんでくる。
それは本人の理解から遠く、更に何らかの公式的なものが選ばれるようで、それは俺にとって数学の公式や古文、化学式等々だった。
どうやらプレイ前にテスト勉強をしていたからそれはより強化され、自動的に復習をしていた状態になっていたようである。
おかげで覚えたことが出てくる出てくる。自分でも驚く程にスラスラと解けていく。
(おおお、これはすごい! これならレベル上げをしながらも勉強が出来るんじゃないか?)
あっという間に解き終わり、提出する。
おかげでテストの出来は完璧だった。
だが再現性など、色々試さないとだよな。早速家に帰って検証を開始する。
翌日のテスト範囲をざーっと浅く勉強し、即座にログイン。
出来るだけ詠唱時間の長いスキルを使いまくる。
「何をしているのだ? ユート」
「ちょっとね」
……なるほど。どうやら苦手部分が特に出てくるようだな。
あまり馴染みのある単語だと詠唱感が出ないからだろうか。
中々凄まじい裏ワザではあるが、コントロールはし難いようだ。
しかし脳内に直接浮かぶことで記憶中枢が刺激されるからか、暗記は非常にしやすいな。
ただ、小刻みにログアウトしてインプットし直さないといけないのが玉に瑕だな。
とはいえ普通に勉強するよりは効率的かもしれない。テスト範囲で苦手な部分を重点的に覚えながら、ついでにレベルも上げていく。
そして――四日間にかけて行われた中間テストがようやく終わったのである。
「お、おいマジかよ神谷……」
驚愕する浩太と慎也、だが俺の驚きはそれ以上だ。
何せ張り出された成績表、その学年一位に輝くのは神谷優斗。なんと俺の名だったからである。
「すっげーじゃねーか! デキる奴だとは思っていたけど、まさか学年一位を取っちまうなんてびっくりしたぜ!」
「くっ、ゲームしているなんて嘯いておきながら、なんという裏切り行為! 許せんっ!」
「ぐはっ! ギ、ギブギブ……」
二人がかりでアームロックをかけられ、バシバシとタップをする。
そんな馬鹿騒ぎに乗っかってきたのは、横で見ていた日向さんと詩川さんだ。
「おー、マジで一位だよ神谷くん! いやーやっぱりデキる人は勉強してないなんて言いながらも、ちゃーんとやってるものなのねぇ。てか志保に勝つなんてスゴいじゃん!」
「……えぇ、本当に驚きました。神谷くんの頭ならもっと上を狙えるとは思っていましたが、ここまでとは……」
一位常連の詩川さんが信じられないと言った顔で目を丸くしている。
よくよく考えたらゲームをしながら記憶するなんて、ズルなのではなかろうか。
そう思うと申し訳なく思えてきた。
「ごめんっ! 俺ズルしてたかもっ!」
自責の念に、思わず謝る。
俺の言葉に周りの生徒たちはざわめき立つ。
「え……神谷、まさかカンニングでもしたの……?」
「サイテー! 許せなーい」
「先生に言っちゃおうよ!」
それを聞いた周りの生徒たちが口々に俺へと非難を浴びせてくる。
だが当然だ。言われても仕方ないだろう。俺はただ黙ってそれを受け入れる。
「待って下さい」
そんな中、凛とした声が響く。
詩川さんだ。美人の真剣な瞳というのは迫力があるもので、騒いでいた皆は一斉に口を閉ざした。
それを一瞥し頷くと、今度は俺を真っ直ぐに見つめ、言う。
「まずは話を聞いてみましょう。神谷くん、ズルとは一体何なのですか?」
「えぇっと……実はゲームをプレイしながら勉強してたらすごくいい感じで捗って……これってズルじゃないかと……」
俺の語り口に、皆がどんどん盛り下がっていっているのがわかる。
「……なーんだ、つまんね」
「気のせいだろそれ」
「よく考えたらカンニングで一位が取れるわけないよな」
「単なる注目集めかよ。タチ悪いっての」
「はーあ、解散解散っと」
ゾロゾロと呆れたように去っていく。
あ、あれ? 一体どうして……? 困惑する俺を見て、詩川さんはにっこり笑う。
「というわけです。気のせいですよ。神谷くん」
「え、えぇー……そうなのかなぁ……?」
そう呟く俺に、浩太たちがうんうんと頷くのだった。
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