第55話GMさんに色々もらいました(見れねEEEEE!)


――アレ? なんかいきなり見れなくなったぞ?

――ログアウトしたんじゃね? キリがいいしさ。

――それにしても今日はちと早い気がするんだが。それに終わる直前に変なNPCが映ってたような……

――つかほんのりプレイ音が聞こえるね。てことは機器の故障?

――だろうね。今はもう聞こえなくなったけれども。

――むぅ、トラブルかなぁ。明日には直ってるといいが……こういう時、向こうが気づいてないのは不便だよな。

――とりあえず乙。

――乙ー。



「悪いがこれからはオフレコで頼むよ。使い魔は消させて貰うからよろしく」


ぼん! と白い煙に包まれレイモンドが姿を消す。

使い魔は俺が命じなければ自分からは消えないはず。どうやらGMというのは本当らしい。


「えーあと、配信映らないようにするには、と。……これでいいんだっけ? 音声は……まぁ音量をゼロにしとけば問題ないだろ。ったく大袈裟だよなぁ。たかだかプレイヤーに話を聞くだけだってのによ」


GMを名乗るおじさんは何やらブツブツ呟きながら俺に近づいてくる。


「俺の名はコジロウ。あ、もちろん本名じゃねぇよ? 由来は好きな演歌歌手な。まーなんでもいいが……ユートくん。君のプレイは大変興味深く観察させて貰っているよ。実は俺、ここ奈落の担当でね。ちぃっとばかし難易度を高めに設定しただけだってのに、プレイヤーからはヤケクソだの鬼畜だのとと叩かれ、上からは調整ミスだのバランス感覚の欠如だの言われて危うくクビにされる寸前だったのさ。しかし君の影響か、少しずつだがプレイヤーも増え始めているんだよ……まぁ結局皆、序盤で脱落しているんだけど、それが逆にいいと評判になり、俺もどうにか許されたってわけだ。いやー君のおかげだよ。足を向けて寝れないな。だっはっは!」


快活そうに笑うコジロウさんだが、俺は大量の情報に殆どついて行けてない。

奈落の調整をした人、しかもGMが俺に一体何の用だろうか。

そもそも俺の影響って何だろ。他のプレイヤーと会ってないはずなんだけどなぁ。

首を傾げる俺にコジロウさんは話を続ける。


「今日来たのはそのお礼と、多少のアンケートを取りに来たのさ。……この奈落で最もプレイ時間が長いのは君だからね。色々意見を聞きたいが構わないだろうか」

「はぁ……それはもちろん構いませんが」

「本当かい? じゃあまず、序盤で躓いた場所を――」


こうしてインタビュー形式のアンケートが始まった。

矢継ぎ早に浴びせられる質問に、俺はポンポンと答えていく。そして三十分後、


「――なるほど。ありがとう。参考になったよ」


パタンとメモ帳を閉じるコジロウさんだが、俺としてはその効果に疑問である。


「でも大多数の人がクリアできてないのなら、俺の意見なんか参考にしない方がいいんじゃないでしょうか?」

「違うな。今あえて奈落を選ぶようなプレイヤーが求めているのは君のようなプレイなのだよ。故に単純に難易度を下げるのではなく、多少の救済措置を作る程度に止めるつもりだ。具体的にはガチャ装備でどうにかしたり、とかな。まーバランス調整が難しいんだが、今回のアンケートから鑑みて……」

「あ! そういえばガチャチケットって何に使うんですか?」


思わず割り込む。

以前、緊急メンテの補填やら何やらで貰ったチケットが何枚かプレゼントボックスに入っているのが、今だに使い方がわからず放置しているのだ。

色々質問に答えたんだし、少しくらい聞き返してもいいだろう。


「ん? おお、そういえば君は全然使ってないみたいだな。逆になんでだ?」

「いや……なんか使い方わからなくて……普通にアイテム欄から使おうとしても使えないし、ウィキにも載ってなかったし……ガチャを引いている動画なら幾らでも見つかったんですけど」

「あー、君はアレか。説明書とか読まないタイプか。こいつは掘り出し屋で使うのさ。この街にもあるから利用してみるといい」

「なるほど。ありがとうございます!」


掘り出し屋か。最初の街にはなかったし、ここはあまりに広すぎてまだ回れてないのだ。

レベル上げも忙しかったし、そして説明書も当然読んでない。本当にごめんなさい。


「ふっ、ガチャ装備を使ってないのも配信人気の秘密なのかもな。……おっと、こいつはアンケートに答えてくれた礼だ。貰ってくれ」


コジロウさんから渡されたのはまさに件のチケット。しかも五枚もだ。


「おお、ありがとうございます。こんなに!」

「礼を言うのはこちらの方だ。君のおかげで俺は首が繋がっているんだからね。これからも是非、皆の目標となれるよう頑張ってくれたまえ」

「ご期待に添えるかどうかはわかりませんが……」

「君ならできるさ!」


一体何の根拠があってそんなことが言えるのだろうと思いつつも、満面の笑顔を浮かべるコジロウさんと握手を交わす。


「それと悪いが俺に関しての情報はあまり喋らないでくれると有難い。ガチャチケットとか、一応これ、俺の自腹だからな? 変な噂が立つと君も不自由を被るだろうしね」

「はい。肝に銘じておきます」

「多少なら良いんだが……うん。それくらいの気持ちでいてくれたまえ」


そもそも言う相手もいないしな。

学校で言っても信じて貰えなさそうだし、言うメリットもあまりないし。黙っておいた方が身の為だろう。

NPCに積まれたAIが不意に口を滑らす可能性を考えたら、レイモンドとかにも言わない方が良さそうだ。

だからコジロウさんは最初にレイモンドを消したんだろう。気をつけねば。


「……ところでこれは個人的な質問なんだが、どうだい奈落は? ちゃんと楽しんでくれてるかい?」

「多少鬼畜だな、とは何度か思いましたが……はい、とても!」

「はっはっは! 最高の褒め言葉をありがとう! では」


そう言って、コジロウさんはログアウトする。

釘を刺したつもりだったんだけど、なぜか褒め言葉と取られてしまった。

うーむ、GMって噂には聞いてたけど、意外とフランクなんだなぁ。


「ぷはっ! い、一体なんだったのだユートよ?」


ぼん! とコジロウさんに消されていたレイモンドが現れる。

そういえば自分と接触したことは秘密にしとおいてくれと言ってたっけ。NPCであるレイモンドにもそうした方がいいんだろうな。


「いいや、なんでもないよ。今日のところは帰るから、適当に待っててくれ」

「うむ……なんだかわからないが了解だ!」


色々あって疲れたからな。明日から中間テスト、勉強もしないといけないし。

今日のところは終わりにしておきますか。

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