第52話VSミュラー、前編(やっぱそれズルじゃね?)

「魔術大会に参加します。受付お願いします」

「了承致しました。ではこちらからどうぞ」


受付嬢に案内され、今度は中へと通される。

通路を進めば控え室があり、中には魔術師風の男女が数人いた。

俺を見つめたあと、各々口を開く。


「おやおや、新入りかい。可愛らしい顔をしているじゃあないか。しかしこの風のフェリジアの前に手加減は求めないようにねぇ」

「俺は雷神バーバリオ。クククッ、言っておくが俺は新人だからといって容赦はしねぇ! 獅子は兎を狩るにも全力を尽くす!」

「炎皇ヴェリグス也。我が至高の炎魔術が糧にしてくれようぞ。ふふふふ、ふはーっはっはっは!」


口調、格好からして恐ろしく強そうに見える。

彼らの威圧感に俺たちはタジタジだ。


「む、むぅ……こやつらやたらと強そうだぞ……ユート、勝てるのか?」

「な、なんにせよやってみるしかないな……」


でもなんだろう。眼帯とか黒一色の格好とか、手袋にバンダナとか……芝居がかかり過ぎているというか何というか……ともあれ、どんな奴が相手が誰だろうと、勝つしかあるまい。

……しかし決勝で出てきた女魔術師はいないようだな。彼女に会うには勝ち抜く必要があるということか。



――漂 う 残 念 オ ー ラ !

――呪術専科のサーシャといい、魔術師教会は変なのしかいないのか?

――他の大陸でも魔術師AIって変なの多いしなぁ……そもそもプレイヤーも(略。

――とはいえ俺も魔術大会は出たことあるが、敵の強さは本物だぜ。奈落でもそれは変わらない……それどころかむしろより強いかもな。

――そうは言っても『魔人たちの狂騒』が決まればどんな相手だろうと瞬殺でしょ。多少のステ差なんて簡単にひっくり返るぜ。

――でもさでもさ。どうやって発動させるつもり? 敵を相手に歌って踊る暇なんてあるのか?

――あ……



「く……くそっ! バカな……」


信じられないと言った顔で俺を追う敵魔術師。

俺はというと敵と距離を取りながら歌い、踊り、演奏ゲージを増やしていた。

このゲージ、ミスが続くと減ってしまうがそれを上回る速度で成功させ続ければじわじわと増えていく。

そしてゲージが溜まると同時に、演奏フィールドを解放する。

半径一メートル、持続時間三秒という小さな空間だが、それで十分。


「よし、今だレイモンド!」

「うむ!」


淡い光と共に魔術師に転職。そして反転する。


「ふん、ようやく戦う気になったか! ならば応じよう! そして我が魔術の深淵に溺れるがいい!」


身構える敵と同時に詠唱開始。

お互いほぼ同時に発動するのはグレイスブリザードだ。

当たれば即死か凍結、つまり敗北が決定するわけだが演奏による詠唱カットがある分、俺の方が一瞬早い。


「グレイスブリザードっ!」


猛吹雪が敵を巻き込み、一瞬にして凍結させる。

吹雪が止んだ後には一体の氷像のみが残されていた。


「カウント! 3、2、1……ゼロ! 勝者! ユート選手ゥゥゥ! 見事に第一回戦を勝ち抜きましたァァァ!」


解説の受付嬢が俺の勝利を高らかに宣言する。

……ほっ、反則宣言されたらどうしようかとヒヤヒヤしてたけど、それはないようで安心した。

ルールはちゃんと確認済みとはいえ、こういう戦い方はイレギュラーだからなぁ。後で文句を言われないか心配だったのである。



――見たことなかったけど、大会ルールなんてあったのね。ただ魔法ぶっ放すだけだと思ってたから知らなかったわ。下の方にこっそり書いてあるね。

――なになに……?『攻撃は魔法によるスキルのみカウントされる。それ以外のスキルはダメージを与えることはできない』……か。

――要は装備などで得られるスキルも使えるようにして自由度を持たせようということでしょ。まさか演奏スキルを使われるとは思わなかったんだろうけど。

――ま、敵から逃げながら演奏なんて普通はできないから。相当訓練された動きだよ。もしかしてそれを想定して練習したとか?

――やっぱユートさんってプロのダンサー? ていうかあの動きの感じ、どこかで見た気がするんだよなぁ……アイドルグループだっけ?

――ネトゲやってるアイドルとか好感度高いかも。まぁ今もネットのアイドルみたいなもんですが。



そんな感じで二回戦、三回戦と勝ち上がっていく。

魔法スキルは詠唱中に射程外に逃げれば発動しない。

広範囲を巻き込む大魔法はその限りではないがリングは意外と広いからどちらにしろ逃げ切れるのだ。

まぁメチャクチャ忙しいけれども! 権田さんにはランニングとダンスを交互にやらされるという中々ハードなレッスンを受けたが、まさかこんな風に役立つとは思わなかったな。


「またまたユート選手の勝ちだァァァ! 破竹の快進撃が止まりません! 彼に勝てる者はいるのかァァァ!」


解説は煽りまくっているが俺としてはヒヤヒヤものだ。

いつズルだの何だの言われ、この戦法を封じられるかわかったものではない。

俺のステータスでは普通にやったらまず勝てないからな。


「……なぁ、アレって卑怯じゃね?」

「俺もそう思ってた。なんか魔術師関係ないっていうか」

「そうそう、演奏が強いだけじゃね?」


あーホラやっぱり。客席から疑問の声が上がるのが聞こえてくる。

このままでは不戦敗にされてしまうかもしれない。……ど、どうしよう。


「鎮まれ!」


そんな中、会場に大きな声が響き渡る。

門が開き、現れたのは不敵に微笑む銀髪の女性。

決勝戦で見た女性だ。名は確か――


「ふっ、狼狽えるな皆の者。この魔術協会の守護神と謳われたこの白銀のミュラーがそのような小者に負けると思ってか?」


おおおおおおおおお! と地鳴りのような歓声が響く。

長い銀髪をふわっと靡かせながら、客席を見渡し言葉を続ける。


「神聖なる戦いの最中に他の職業に転じ、小踊りをしながら戦う滑稽な術師……そうまでしても勝ちたいという心意気『だけ』は認めるが、所詮は王道で勝ち得ぬからこその邪道! この私に通じるはずもない。さぁ審判、もはや私も滾りを抑えられぬ! 今すぐ戦いを始めてくれ!」

「わ、わかりました! では連戦ではございますが……ユート選手VSミュラー選手、決勝戦を行いまーーーす!」


会場の熱は最高潮だ。

俺への文句なんてあっという間に消え去ってしまったようである。

ほっ、助かった。安堵しているとミュラーがパチンとウインクをしてきた。


「……悪かったね。悪者のように扱って。だがこうでもせんと客席が収まらなかったのだよ。許せ」

「俺への文句を抑える為にあんな弁舌を……?」


なんていい人なのだろうか。

流石魔術協会の守護神を自称するだけはある。

感激しているとミュラーさんは俺に小声で話しかけてくる。


「ふっ、それもあるが……君の戦いぶりはとても興味深いものがある。戦えば何か新しいものを得られるかもしれないのでね」


女豹を思わせる妖しい瞳が俺を捉える。

なるほど、あくまでも俺の戦い方に対する興味というわけか。

当然、望むところである。俺としてはその方が戦いやすい。


「……さぁ来たまえユートくん! 存分に魔術ことばを交わし合おうではないか!」

「はいっ! 胸を貸して貰います!」

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