第51話いざ、魔術大会へ(そのステでどうやって勝つつもりなんだ……)

「ふぅ、かなりレベルが上がったな」


あれからレベルを上げ続けること約一週間、魔術師のレベルは92まで上がっていた。

え? そう簡単に上がるものかって? ……上がるんだよなぁこれが。


「ゆ、ユート! 敵を集めすぎではないのか!?」


フィールドを駆け回り数十を超えるモンスターに追われる俺をレイモンドが嗜める。

が、それも毎度のことだ。


「ちがーう! どんどん増えていってるではないかっ!」


……ま、少しずつは増やしていたかもしれない。

何故なら一度に大量に倒した方が圧倒的に効率が良いからな。


「大丈夫大丈夫。それより転職頼むぞ」

「ええい! 知らんぞ!」


淡い光が俺を包み、吟遊詩人から魔術師に転職する。

既に設置していた『魔人たちの狂騒』の演奏フィールドに辿り着いた俺は、即座にファイアウォールを連打。

立ち昇る火柱が敵を防いでいるうちに詠唱開始。


数秒のち、発動するのは大魔法スキル『グレイスブリザード』

吹き荒れる猛吹雪が発生し、襲い来る敵は悉く氷漬けになっていく。


魔術師のレベル上げは他の職業とはある種、次元が異なる。

高い威力と広い範囲、そして長い持続時間を持つ大魔法スキルは長い詠唱時間という弱点を持つものの、発動さえしてしまえば無類の強さを発揮するのだ。

その中でも最強と言われるこの『グレイスブリザード』は氷属性ダメージ1000%、凍結率は50%が15HITもする壊れスキルだ。当たりさえすればまず凍るのである。


「ふぅ、なんとか間に合ったか……肝が冷えたぞ」

「何言ってんだ。まだ終わってないだろ」


と、言って氷像目掛け発動させるのは『ヒートウェイブ』。

威力は低いがほぼ無詠唱、ノーディレイで広範囲を攻撃するこのスキルは本来タゲ取りなどに使用されるが、もう一つ裏の使い方がある。

それが氷割りだ。

凍った相手は氷属性となり氷属性のダメージは受けなくなるが、ヒートウェイブで割ることで再度グレイスブリザードに晒すことが可能。

凍っては割れてを繰り返しながら敵はみるみるうちにその数を減らしていく。

高い防御性能を誇るこのスキルだが、その真に恐ろしいところは凍らない相手には無類の威力を発揮するということなのだ。

数十、集まったモンスターたちはあっという間に全滅。俺の経験値の糧となったのである。


うーむ、これが魔術師か。

シリーズでも常に火力最強と謳われているだけのことはあるな。

まさに異次元のレベル上げである。



――ヤバすぎワロタ。……ってまじにヤバいでしょこれ。

――一人演奏で詠唱とディレイを大幅カットしてるから、グレイスブリザード発動中でも構わずヒートウェイブ連打できるとか無敵じゃん。

――本来魔術師はパーティ火力だからなぁ。回復とタンクで時間を稼ぎ、大魔法をぶっ放して三人分の経験値を稼ぎ出す。それを一人でやってるんだから、そりゃあっという間にレベル90も越えるよ。

――とはいえこれだけ一度に敵を集められてるのもすごいって。人がいない奈落とはいえ、碌な防御スキルのない吟遊詩人と魔術師でこんな大規模殺戮がよくできるもんだよ

――グレイスブリザードも発動すれば無敵ってわけでもないからなぁ。敵は凍りながらも向かってくるし、その間に触れたら攻撃も喰らう。位置取りミスったら即死でしょ。デスペナ10%もあるから下手したら増えるどころか減りかねないよ。

――ほぼ安定して十以上の敵を連れ回すのは相当ヘイトコントロールができないと無理な芸当だ。これだけの腕を持つプレイヤーなら、タンク役としてスカウトしたいな。



「よし、これでレベル93になったな」


その後、数回同じことを繰り返し、レベルをキリのいいところまで上げておく。

低レベルのデスペナは大したことないが、90を超えてくると10%はかなり痛い。今の俺だと30分くらいのやり直しになるからなぁ。

大会なんて確実に死にそうな場合は上げ切っておいた方がいい。

ちなみに吟遊詩人のレベルは66。今のところ『魔人たちの狂騒』以外のスキルは使わないので、ポイントは貯蓄中である。


「ついに大会に出る気なったのか?」

「うん。あとは金を使ってからだな」


所持金も10%削らせるし、参加費を残して使い切っておいた方がいいだろう。

ポーション系など、消耗品を中心に購入していく。


ちなみに、以前の街で売っていた先行者用の武器防具は既に購入済みである。

これだけレベル上げれば、そりゃあ金も稼げるというものだ。


まず一番最初に購入した熱狂のバイオリン。これについては割愛。


次に心眼の盾。こいつは回避率が上がる軽盾で、魔術師や吟遊詩人も装備可能な便利アイテムだ。

バランス型である俺はAGIもかなり振っている為、回避率アップは大量の敵を引き連れ回すのに便利なのである。

それに、今まではフライパンだったからなぁ。

見た目はそんなに気にするタチではないが、流石にアレはちょっと。


そして最後に練達の腕輪。

こいつはHPが1000減少する代わりにスキルレベルが1のものをレベル5で発動させることが可能なのだ。

全部装備して……と。よし、準備OK。


「よーし、行くぞ魔術大会!」

「うむっ!」



――おいおいユートさん練達の腕輪なんか使うつもりか? アレはっきり言ってゴミでしょ。

――一応ボスレアではあるけど、普通は取得したスキルはレベルマックスまで上げるしなぁ。しかも強スキルは大体レベル10だし、5じゃ半端なんだよね。

――1とかで止めている前提スキルを5で使えるというメリットはあるけど、使わないから1で止めてるわけで。

――まぁオモチャとしてはありかもしれないけど、対魔術師戦にとって最大HPはかなり重要だろ。使う理由がわからない。

――魔法スキルは威力が高く、魔術師はHPが低いからねぇ……ま、お手並み拝見といきましょうか。



「おっと坊主、久しぶりだなぁ。……ヒック」


準備万端で受付へ向かおうとした俺に声をかけてきたのはいつぞやの酔っ払いのおじさんだ。


「今日も見学かい?」

「いいえ、今度は俺も出場するつもりです」

「やはりな。そんなこったろうと思ったぜ。そういう匂いをプンプン振り撒いてやがったからな。……へぇ、なるほどなるほど。いいねぇ。中々鍛えられとる。よし坊主、頑張って勝ち抜いて来るといい! だが決勝の相手は強えぞぉ?」

「わかってます」


以前見た決勝戦の魔術師の女性……確かに相当の強さだった。

でも今の俺なら勝てる可能性はある。……多分。


「ふっ、いい目だ。せいぜい気張れよ」

「はいっ!」


おじさんに手を振って俺は、塔の中へと入るのだった。

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