第47話これが演奏と魔法のコンボだよ(一人で何やってんですかアンタは!)
ダブルバックアタック……というかこの手の攻撃スキルを移動でキャンセルして硬直を消す技は僅かだが火力を上げられる。
これで秒間火力が結構変わったりするんだよな。
バックアタックは位置取りを気にする必要があるので幾らか面倒ではあるが、この威力が出せるなら十分に使う価値はあるし、瞬殺すればノンアクティブには気づかれない。
こうして狩りは順調に進み、ようやくレベルも21。
ここまでくればわざわざ手間のかかる事をせずとも、一撃で倒せるようになっていた。
「よし、そろそろかな。……レイモンド、転職してくれ」
「わかった……っておい! ユート!?」
淡い光が足元に発し始めた瞬間、俺は駆け出す。
そしてオットーの背後から『バックアタック』を叩き込んだ。
瞬間、鳴るはずのないレベルアップのファンファーレが鳴る。
「……成功だ」
俺のレベルは8まで上がっていた。
そう、先刻までの吟遊詩人レベル21ではなく、魔術師レベル8に。
「な、何が起きたのだ!?」
「転職したのさ。ダメージを与えた瞬間に」
レイモンドの持つどこでも転職は高い汎用性を秘めた力だ。
それを知った俺は幾つかの有効利用法を考えていたわけだが、これがその一つ。
敵を倒すと攻撃と同時に転職することで経験値を転職先に移動させよう――ということだ。
レベル1の魔術師とかスキルが使えないからポコポコ杖で殴らないといけないから、超しんどいのである。
上手くいく保証はなかったが、何とかなって良かったな。
◆
――そ、そんなんアリかぁぁぁっ!?
――まぁ……パーティ組んだら倒してないプレイヤーにも取得経験値が入るわけだし? 一人パーティと考えればなんとか……
――このゲーム、割と色んな部分がそういう仕様だからなぁ。どこでも転職ができるなら十分にあり得ることか。
――しかしあれ、タイミング相当シビアでしょ。レイモンドちゃんの発動タイミングもわかりにくいし、ミスったらやり直しに時間がかかる。狙ってやるのはあまりに非効率的だ。
――低レベルでしか恩恵ないしね。まぁそれでもキツい序盤をぶっ飛ばせるのでかなりのチートですが。
◆
「できればこれを連打したいところだけど……すぐには無理だよな。レイモンド」
「うむ、回復にはしばし時間がかかるな」
転職一回でレイモンドのSPはほぼゼロになる。
吟遊詩人から魔術師になるには更にSPを回復させる必要があるし、そう何度も使える技ではないか。
とはいえレベル8まで上がったし、多少の無理は効くだろう。
狙うは海岸マップにいるオットー以外のモンスター。こいつを狙う。
ストーンスライム
LV22
属性土
HP2305
弱点 火
スキルを取って……と。よし、早速『ファイアアロー』の詠唱を始める。
が……おっそ。レベルが低すぎて詠唱にめちゃくちゃ時間がかかるのだ。
ノンアクティブのストーンスライムだが、ターゲッティングした時点でこちらを敵と認識、近づいてくる。
マズいマズい。殴られたら一発で殺される。接触3秒前、2、1……よし! ギリギリのタイミングで詠唱が終わる。
どどど! と炎の矢が降り注ぎ、ストーンスライムに1400近いダメージを与えた。
レベル差を考えれば十分なダメージではあるが、まだ半分近く残っているな。
以前貰ったこのマジックロッドを装備しているとはいえ、一撃で倒せる程甘くはないらしい。
移動速度は俺の方が早いので急いで離れる。
「追ってくるぞ!」
「わかってる」
少しだけ場所を離し、発動させるのはファイアアローの前提スキル、『ファイアウォール』。
三本の火柱がストーンスライムを囲うように発現、その移動を阻む。
こいつは5回攻撃を受けたら消えるというノックバック付き攻撃オブジェクトだ。
敵の接近を阻む効果があるが、頭の良い相手は迂回して避けてくるので万能というわけではない。というか強い敵は無理やり破ってくるしな。
バシバシと弾かれながら向かってくるストーンスライムだが、そのHPは地味に削れていっている。
奴は土属性、弱点である火属性のファイアーウォールは二倍のダメージを受けるのだ。
火柱を使い切らないよう周りをぐるぐる回っていると、ストーンスライムはやがて力尽き消滅する。
ほっ、やっと倒せたか。しかしこいつはそこまでの高レベルモンスターではないので、一発でレベルが上がる程ではないようだ。ぐぬぬ。
◆
――おっ、ファイアウォールハメ上手いね。三つの火柱の中心にモンスターを挟んで相手を閉じ込めるんだが、地味に難しいんだよな。
――魔術師ウィキに載ってるやつね。まずはこれを覚えろってやつ。あれ俺練習したけど無理だったー。咄嗟に出せんのよコレが。
――つかVRで更に難しくなったよね。地面指定スキルって従来の見下ろし型ならともかく、VRだと中々なぁ。
――ユートさん、魔術師初めてだよね? 俺自身無くしていいかな?
――何を今更。ユートさんは全てを可能にする。
◆
ともあれ、そうこうしているうちに吟遊詩人レベル34、魔術師レベル25まで上がった。
それにより吟遊詩人は演奏スキル、魔術師は大魔法スキルを習得したのである。
「よし、これで当初の目的を実行できるぞ」
「当初の? 何をするつもりなのだユートよ?」
「魔術師のレベル上げだよ」
そう、今までのはただの目標スキルを手に入れる為の準備段階でしかない。
本格的なレベル上げはこれからなのだ。
ぽちぽちぽち、とスキルを取得していき……よし、準備オーケー。
取り出したるは街で購入しておいた熱狂のバイオリン。
これはダークマントなどと同様、先行者用特殊武器。
ATKは60しかないが例によって特殊効果があるのだ。
発動させるのは『魔人たちの狂騒』。
――♪
演奏スキルの仕様は、音ゲーのように光の通りに手足を動かすことで演奏ゲージが溜まり、失敗すれば減ってしまう。
一定以上溜まったゲージを消費することで演奏フィールドが出現、この中でのみ効果が発現するというものだ。
過去シリーズでは突っ立っているだけで発動する楽ちんなものだったが、退屈すぎるとクレームが入ったからか今作の演奏スキルはやたら忙しくなっている。
だが悪いことばかりではなく、長時間演奏することにより持続時間も長くなる。
ちなみにこの『魔人たちの狂騒』の効果はスキル詠唱速度とディレイを大幅にカット可能。
過去シリーズでは猛威を振るった吟遊詩人最強のスキルで、長い詠唱とディレイを持つ魔法職ととにかく相性がいいのだ。
更にこの熱狂のバイオリン、演奏効果20%アップに加え持続時間も20%アップするという効果を持っている。
「そろそろいいか」
ゲージも三本溜まったところで魔術師に転職。
演奏フィールドの中で先ほど取得したばかりの大魔法『サンダーストーム』を詠唱開始する。
お、お? おおおっ!
頭上に浮かぶ詠唱バーがすごい勢いで減っていく。
本当なら五秒近くかかるはずだが、二秒もかからない勢いだぞ。素晴らしい効果だ。……よし、詠唱完了。
ズドォン! バリバリ! とオットーの群れに凄まじい電撃の嵐が降り注ぐ。
とはいえまだ俺自身のレベルも低く、ダメージは2800前後しか与えられない。生き延びたオットーの群れが襲いかかってくる。
「だが、甘いっ!」
即座にファイアウォールを連続で三つ発動。
本来ならサンダーストームのディレイは五秒だが、これまた演奏の効果で二秒ほどになっているのですぐにファイアウォールが撃てるのだ。
無数の火柱がオットーの群れを抑えている間に――更にサンダーストームを発動させた。
今度こそオットーの群れは完全に消滅する。よしよし、これだけまとめて倒したからかレベルも上がったな。
「な、なんとも豪快な戦いぶりだな……」
「これが魔術大会で勝つ秘策ってやつさ」
演奏スキルによる詠唱、ディレイカットにより大魔法すらも短い詠唱で撃てるようにすれば、多少のステータス差などひっくり返せるというわけだ。
うーん、我ながらナイスアイデア。これなら魔術大会優勝も不可能ではあるまい。
◆
――うおおおおい! やりやがったあの野郎! 演奏で一人バフとかあまりにもチートすぎるでしょう!?
――大魔法は威力と範囲が凄まじい代わりに長い詠唱とディレイがあるから連発できないというデメリットがある。それをカバーする為のパーティなのに……一人演奏でそれをチャラにするとかヤバいよな。
――まぁその分めちゃくちゃ忙しいんだけどな。演奏中無防備なのは変わらんしさ。あとユートさん、初回で難易度の高い『魔人たちの狂想』をミスなくこなすとか地味にすげぇ。あれだけ敵がいる中で踊るのは集中力いるぜ。
――開発が変に音ゲーかしたおかげで演奏スキル使える奴、ほとんどいないんだよね。やっぱ本職?
◆
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