第46話レベル上げも1からだから大変です(いやいつもさっくり飛ばしてますけど!)


「レイモンド、転職頼む」

「うむ、了解だ」


淡い光が俺を包む。転職したのは――吟遊詩人だ。


「むぅ、何故吟遊詩人なのだ? 魔術大会に出るのではなかったのか?」

「もちろん出るけど、レッスンの復習をしたくてさ。リアルの方の」


ド素人である俺が権田さんのレッスンについて行くには家でもある程度の練習をしなければならないだろう。

歌と踊りにより様々な効果を付与する吟遊詩人なら、レベル上げをしながらでも復習程度にはなるかもしれない。


「それに吟遊詩人はレベルを上げやすい職業らしいしな」


最近少しずつウィキを読んで勉強し、多職の研究もしているのだ。

どこでも転職を活かすには全職業の知識は得ておいた方がいいからな。


街を出てモンスターを探していると……いた。

草むらをぽよぽよ歩く緑色の粘液体はポイズンスライム。


ポイズンスライム

LV6

属性毒

HP240

SP0

弱点属性なし

弱点部位なし


攻撃しなければ反撃して来ないノンアクティブ。

それにレベルも低いので、転職したてでも倒しやすいモンスターである。

街の近くでは比較的弱いモンスターが配置されているのだ。

……ま、この奈落ではその常識は通じないのだが、今回は多少でもいて助かった。


「だがいくら強い武器があるとはいえレベル1で勝てる相手でもないんだよな……ええい、ままよ!」


手にしたのはバーゼラルエッジで思いっ切り突く。

ざしゅ! と音と共に54の文字がポイズンスライムの頭上に踊る。

HPゲージから見てダメージは二割程度。やはり一発やそこらじゃ死なないか。だが、問題はない。


「よし、ダッシュ!」


反撃を喰らう直前、俺は街に逃げ込む。

ふっ、これぞ逃げ撃ち。弓手や魔術師などの使うテクニックで、攻撃した瞬間街へ戻ることで反撃に転じたモンスターを再びノンアクティブに戻すことが可能である。

近距離用武器だと反撃を喰らう恐れがあるが、相手が遅いスライムなら十分可能。

……ま、セコい技なので他プレイヤーがいたら顰蹙を買うこともあるが、誰も居ないし、勘弁して貰うとしよう。


それを数度繰り返し、吟遊詩人のレベルを7まであげた。

前提スキル『身躱し』と『踊り修練』を取り、お目当てのスキルである『バックアタック』を習得する。

こいつは背後からしか攻撃出来ず、しかも攻撃後は相手が必ず振り向くので連続しては使えないという特性があるが、なんと1500%もの高倍率を持つスキルだ。

吟遊詩人自体はATKの低い短剣と楽器しか装備出来ないが、低レベル帯はこれを使えば一気に駆け抜けることが可能である。



――いや、なんで魔術師じゃなくて吟遊詩人? つかリアルのレッスンがどうとか言ってたけど、なんの話?

――まさかダンサー!? いやアイドル!? ユートさんがゲーム通りのイケメンだったら俺は……俺は……!

――流石にねーよ。……ねーよな? と、ともかくあまりリアルの詮索は良くない。嫉妬で狂う。

――だな。そしてついに最強スキルの一角、『バックアタック』来たか。

――前から強かったが今作では更に威力が上がり、1500%という倍率の狂いっぷりに誰もが設定ミスでは? と言ってたくらいだもんな。おかげで吟遊詩人の人口多いこと。

――ていうかユートさんウィキとか見てんのね。思いっきり自分のことが載ってるんだが気づいてないのかな……



1540! と、ダメージ表示がポイズンスライムの頭上を踊る。

おー、とんでもない威力だな。

レベル7で出していいダメージじゃないぞ。

当然一撃、オーバーキルである。


「この威力なら背伸び狩りもできそうだし、もう少し強い敵を探した方が良さそうだな。レイモンド、ちょっと上から探してくれるか?」

「うむ、わかった!」


空を舞い上がるレイモンド。視界が切り替わり、地上を空から見下ろす。

近くに森、そして海もあるな。……お、アレはオットーじゃないか!


あれはシリーズ共通の人気モンスター。

水属性で高い攻撃力を誇るが、逆に防御は紙という攻撃全振りみたいな敵だ。

経験値が多く、しかもノンアクティブということもあり、魔術師や弓手など遠距離職に人気のモンスターなのである。

そして向こうから攻撃してこないということもあり、『バックアタック』のいいカモでもある。


レイモンドを戻し、海岸へと赴く。

と――いるいる。オットーたちがわんさかと。まさに狩り放題というやつだ。


「と、とんでもない数だなユートよ……こいつらが一斉に襲いかかってきたらマズいのではないか?」


不安そうな声を上げるレイモンド。

ノンアクティブのモンスターは向こうからは攻撃してこないが、仲間が攻撃されるのを見ると襲いかかってくる性質を持っている。

つまり瞬殺し損なうと、これだけのオットーが一斉に襲いかかってくるというわけだ。

もちろん逃げる間もなく即死するだろう。鑑定メガネで相手のHPを確認する。


オットー

レベル28

属性水

HP3400

SP42

弱点属性 雷

弱点部位 鼻、手にした貝殻


手にした貝殻を攻撃するとどうなるのかは置いといて……HP3400か。恐らくギリだな。

俺は貝殻と戯れるオットーに近づいき、丁度斜め後ろに位置取る。


「ふー、よし。いくか!」


呼吸を整え、『バックアタック』を発動させる。

1121! 1198! 1098! バババン! と連続してダメージが表示され、オットーは消滅した。

うおっ、ギリギリじゃないか。危なかったな。保険に料理とか食べてステータス上げておけば良かったかも。

しかし危ない橋を渡ったおかげでレベルは一気に11。次からは確実に仕留められるだろう。

俺がミスさえしなければ。



――えええええええ!? なんで三連発!? バックアタックって連発出来ない仕様でしょ!?

――あーあれ、ダブルバックアタックってテクだね。斜めに位置取って一撃目を移動キャンセルし、振り向く相手の斜め後ろに移動するんだよ。

――待って待って。それダブルどころかトリプルじゃなかった? てか理屈上は連打できるってこと? ヤバくね?

――まぁね。でもそれクソムズイから。移動キャンセルは三回目からすっごくシビアになるから出来るやつは殆どいないの。だからダブル。

――そういえば二連続ですらお目にかかったことないわ。余程リズム感みたいなのがいいのかね?

――リアルダンサー説、一気に真実味を帯びてきたな……


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