第42話呪いを解けるって本当ですか?(いやどう見てもダメなオーラ出てるんだが)
サーシャに連れて行かれたのは呪術専科があるという魔術塔四階。
そこには何かの骨や、謎の液体。怪しげな本が所狭しと置かれている。
怪しい。そして呪術っぽい。
「いやー運が良かったわねキミたち。呪術専科室長であるこのアタシにわからない呪いはないわ! この街で最も呪いに長けし者。呪いの第一人者といえばこのアタシよ! まぁ大船に乗ったつもりでいなさいな!」
キラーン、とモノクルを輝かせながら自信満々と言った顔で胸を張るサーシャ。
あまりに自信満々な物言いに、俺たちは思わず顔を見合わせる。
「ユートよ。これはもしや意外とすんなりいくのではないか?」
「……どうかな。こういう自信満々な人に限って意外と頼りにならなかったりするんだよねぇ」
コソコソ話す俺たちに気づく様子はなく、言葉を続ける。
「このモノクルは魔眼と同じ効果があるものでね。あらゆる呪いを明らかにする力があるのよ。まぁ見せてみなさい? キミたちの呪い、丸裸にしてアゲル♪」
そう言ってサーシャは俺に顔を近づける。
モノクルが怪しく輝き、そして――パキーン、と砕けた。
「きゃあっ!? な、なんて呪いなの……」
「大丈夫ですか?」
「アタシはね。でも……んー……ごめん! これちょっと無理だわ!」
ぱちんと両手を合わせ、謝ってくる。
……ま、予想はしていたけどさ。イベントで付与されるような呪いがそう簡単に解けるはずがないよな。
俺が嘆息を吐いていると、サーシャは不満げに頬を膨らませる。
「あーあー『やっぱりな』みたいな顔してくれちゃってー。そんなにアタシってデキない女感出てたかしら?」
「い、いやそういうわけでは……」
「別にいいわよ。気を使わなくても。……でもすごい呪いの深度だわ。一体どこで貰ってきたのよこんなの」
「その、魔血皇女って知ってます?」
「ぶーーーーっ!?」
飲んでたコーヒーを吹き出すサーシャ。ゲホゲホとむせながら呼吸を整える。
「マジなの!? ……いや、でもそれくらい大物の呪いなら見えなくても仕方ないか……うん、納得いったわ。すっごく驚いたけどね」
「無理なら仕方ないです。ご迷惑おかけしました。そのモノクルもすみません」
「あー、申し訳ないのはこっちよ。まぁそうしょげないで! 何か手掛かりを見つけたら教えてあげるから。それに……コレ、悪いだけじゃないよ」
「どういうことです?」
俺の問いにサーシャはにんまりとしながら答える。
「この黒縄の紋様には特有の闇属性魔力が込められている。本来持っている属性を上書きする程強力なものがね。でも上手く利用すれば呪いの力を利用した固有スキルを得ることも可能だわ」
「本当? どうすればいいんですか?」
「体内の魔力線と呪いを強制接続するのよ。そうすれば変化した身体が新たなスキルを発現させるはず……ちなみに特にデメリットとかはないと思うわ。むしろ呪いを解いた後も構わず使えるくらいかもね。でもなんにせよ、それを為すには高い魔力制御技術が必要よ。一流の魔術師に匹敵する程の技術がね。もしキミがそうなれたらいつでも言いなさい。アタシが使えるようにしてアゲル♪」
パチン、とウインクをする。
なるほど。これはお使いクエストの一環なんだな。
クリアすれば固有スキルを得られるという。……しかし報酬がスキルとは中々唆られるじゃないか。
俺は自身の腕に付けられた黒縄をじっと見つめるのだった。
◆
――ま、ポンコツだとは思っていたがやはりだったか。
――あまりに死亡フラグが立ちすぎていた。呪いの第一人者(笑)
――それはともかく固有スキルか。また奈落ウィキに書き込むことが増えるな……てか一流の魔術師ってどういう条件?
――どっかのNPCが魔術大会に優勝してようやく一流と言える、とか言ってた気がする。
――てことは魔術大会に優勝しないといけないの? あれってちゃんとした型の魔術師でないと無理だった気がするんだが……
――ユートさんバランス型だからなぁ……
◆
「一流の魔術師の条件? そりゃあもちろん、魔術大会で優勝することさ」
塔の外に出た俺がレイモンドと話していると、酔っぱらいのおじさんが突如絡んでくる。
び、びっくりしたなぁ……酒瓶を呷りながら言葉を続ける。
「祭りの時期には常に大会が行われている。観戦は当然、飛び入りだって上等よ。受付嬢に言えばいつでも出られるぜ」
思った以上に話が早かった。
このゲーム、意外と独り言が重要なんではあるまいか。
前もそこでヒント貰ったし。NPCが親切なのはいいことだ。……でも心臓に悪いから個人的には少し控えてほしい。
「ありがとうございます」
「いいってことさ。お前さんからは優秀な魔術師の匂いがするからな。せいぜい勉強してくるといい。……ヒック」
優秀な魔術師って……まだ何もしてないんだけどなぁ。
ともかくおじさんにお礼を言って受付へ。
「魔術大会に出場するのですか?」
「えぇと、そのうちしようと思って……見るだけでもいいですか?」
「もちろんですとも」
観戦費を払って会場へ。
そこで俺は恐らくNPCである魔術師たちの試合を見る。
結果――
「うーん……これはキツいかもな……」
「何がだ? 簡単そうに見えるではないか」
「あぁ、うん。だろうね。というか実際簡単だとは思うよ」
試合内容は魔術の早撃ちに近いものだった。
それも必然、魔術師の戦力というのは詠唱速度と威力が全てと言っていい。
何故なら魔法スキルには必中属性が付与されており、しかも魔術師にはそれを回避するスキルが殆ど存在しない。
つまりどちらが相手を先に射程に入れてスキルを発動するかという単純極まりない勝負となるのだ。
なのだが……バランス型である俺はどうしても魔法威力を決めるINTと詠唱速度を決めるDEXが低くなってしまう。
他のステータスは魔術師にとって無意味ではないが重要度は低いのだ。
「しかも、大会の最終戦に出てきた女魔術師はかなり高レベルだったよなぁ……」
あのNPC、恐らくレベルは95は超えてるんじゃなかろうか。普通にやれば勝つのは難しいだろう。
魔法スキルは威力が高く、VITにかなり振っているとはいえ容易くは耐えられないだろう。
更に言えば強制イベントでない以上、救済措置を期待するのはやめた方がいいだろうな。とにかく勝つ手段を考える必要があるか。
「お疲れ様でした。参加したい場合はおっしゃって下さいね。魔術師レベル50から参加可能となっております」
観戦を終えた俺は、受付嬢に見送られながら塔を出る。
少なくとも50程度で勝てる相手じゃないことだけは確かだな。
「むぅ、どうするつもりなのだ? ユート」
「ま、とりあえず魔術師のレベル上げだな。やってるうちにいいアイデアが浮かぶかもしれないしね」
ゲームは楽しむものだ。俺の父さんが言ってた通り、こういう苦境もまた楽しむべきだろう。
よーし、やるぞー。
とりあえず装備を買いに店へ赴くのだった。
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