第41話第二章 魔術都市サンディア

――前回までのオルティヴ・オンラインッ!!!!


デブで不細工と言われた俺、神谷優斗は酷いイジメを受け人生に絶望していた。

そこで出会ったのがかつて好きだったゲームのVR版、オルティヴ・オンライン。

一週間、ほぼ絶食しながらプレイしたことで細身のイケメンになっていたのである。

久しぶりに登校した俺は周囲の注目を集め、ゲームの動きも身体が覚えていたことで虐めてきた海堂を返り討ちにする。

クラスメイトも海堂には迷惑していたようで、一躍俺はクラスでも一目置かれる存在になったのだ。


もちろんそれだけハマったゲームだ。多少リアルが充実したからといって止めるわけもなく、廃人プレイは続行中。

上級者向けスタート地点の奈落で気の向くままに楽しんでいる。

……どうでもいいけど最近やたらメールが来てるんだよなぁ。

配信がどうとか企業がどうとか……おそらく詐欺メールだろう。怖いから見てはいない。

元いじめられっ子で繊細な俺としては変なストレスを受けたくないのである。


ゲーム内ではレイドボス、魔血皇女モリガンに遭遇。

どうやっても勝てない相手に俺は一矢報いる為にスティールでアイテムを盗んで離脱するも、その際に呪いをつけられてしまう。

旅の道中で同じく呪いを受けコウモリの姿となった転職神殿の幼き神官レイモンドが加わり、解呪の協力をすることになったのだが……ま、あくまでそれはゲームの目的。基本は自由気ままな旅である。

そんな俺の次の目的地は魔術都市サンディア。ここなら呪いを解く鍵がある……かもしれない。



「おおー、ここが魔術都市サンディアか」


砂漠の暑さを耐えること約一日、俺たちは目的地へと辿り着く。

ちなみに一日というのはゲーム換算である。ゲーム内は十倍くらいの時間で経過するため、実際には2.4時間だ。

それでもまぁまぁだよな。日中の砂漠はあまりにしんどいので日陰で料理したり休んだりして時間を潰し、夜に一気に行動したのが功を奏したか。

モリガンの呪いを受けた俺たちは若干ではあるが陽の光に弱いのだ。


高く聳える城門をくぐると中に広がっているのは沢山のNPCと文化を感じる様々な様相の建築群。

そのバリエーションは最初に訪れた街とは比べ物にならない程だ。

特に目立つのは中央に聳え立つ塔である。なんというか文化の匂いを感じるぞ。


「うむ、懐かしいな。小さい頃に家族で遊びに来た以来だが、ちっとも変わっておらぬ」


俺の肩に停まるレイモンドがうんうんと頷く。


「神殿からここまではかなり距離があっただろ。大変だったんじゃないか?」

「うむ、馬車を借りて護衛を雇って、一週間近くかけて旅をしたものだ。――ここはかつて存在した巨大遺跡に集まった魔術師たちが少しずつ作り上げた街でな、中央にある塔は魔術師協会が技術の粋を結集して建てた街のシンボルなのだよ。観光名所でもあるこの塔を一目見ようと人が集まり、それを目当てに商人が集まり……今ではこの辺りで一番の街となったわけだ。ボクも初めてここを訪れた時はとんでもない数の人がいると驚いたものだよ。特に今の時期は祭りが行われているし、かつての比ではないな」


誇らしげに語るレイモンド。

なんか昔、初めて東京旅行に行った時に『めちゃくちゃ人が多かった』って興奮気味に言って友達に苦笑いされたのを思い出す。


「塔には魔術協会があり、そこでは日夜魔術の研究が行われている。まずはそこを目指そうではないか」

「呪いの手がかりが掴めるかもしれないしな」


俺とレイモンドにかけられた呪い。

正直言って困るという程でもないのだが、解いておくに越したことはないからな。



――うぽつ。はい、というわけで始まりましたユートさんの奈落チャンネルー。

――いや、勝手に始めるな。つか本人未だに気づいてないからなコレ。

――ともあれ無事、魔術都市に着いたわけですが……なんかさっきから同じとこウロウロしてない?

――まさか迷った? いやいやユートさんともあろう方がそんなそんな……え? マジ?

――塔に行くんでしょ? 目印があるのに迷う方がおかしくね?



「……うーむ、見事に迷ったな」


なんて恐ろしい街だろうか。

塔なんか見えてるんだからすぐ行けそうなものなのに、微妙に入り組んでいるので真っ直ぐ進めないのだ。

うーん、俺って地味に方向音痴だからなぁ。

昔、父さんに東京へ連れて行ってもらった時、駅で二人して迷ったものだ。

どこへ行っても似たような景色だし、駅員さんも中々見つからないしで半日くらい迷い、なんとか脱出したものである。……またも悲しい記憶が蘇ってしまった。


「VRって視界が制限されるからなぁ。見下ろし型ならそうはならないんだが……」

「見下ろし……そうだ! ボクに任せろ!」


そう言って飛び立つレイモンド。一体何をするつもりかと考えていると、視界の端に彼の見ている景色が映る。

おおっ、すごい。そして上から見ると意外と単純だ。

とはいえ回り込む道も多く、俺が迷ったのも頷ける。……言い訳じゃないぞ。


「助かったよレイモンド。これで迷わないで済む!」

「ふっ、ボクがいてよかったな!」


得意げに鼻を鳴らすレイモンドに親指を立てて返し、俺は塔へと駆けるのだった。



――おお、グダるかと思ったけど持ち直したね。

――迷子動画とか最悪だからなぁ。マジ編集しろって思うよ。これはライブだから無理だけどさ。俺も以前やらかしてチャンネル登録が激減したわ……

――経験者は語る。……ま、普通に厳しいよね。それはそれとしてレイモンドたん転職以外にも役立つな。

――俺の使い魔もそれくらいできるもんね!

――まぁ鳥系使い魔は索敵や探索がメインなところはある。

――レイモンドたんは転職がメインだからなぁ……流石レア使い魔、他にも能力ありそう。



そして塔に辿り着く。

魔術師風の男女が出入りしており、なんとなくオフィスビル的なものを連想させる。

中に入ると受付嬢が出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか」

「ええっと、実は俺たち呪われてまして……それを解く手がかりを調べに来たんです。詳しい方とかいらっしゃいませんか?」

「呪い、でございますか。でしたら四階の呪術専科とアポを取ることが可能です。連絡致しますので少々お待ちを下さいませ」


多少荒唐無稽かとも思ったが、すんなり話が通じてよかったな。

受付嬢が何やら電話のようなもので連絡を取ろうとした、その時である。


「おやキミたち、呪われてんの?」


俺の背後に立っていたのは学者帽子を被った一人の女性。

猫目石を思わせる不思議な瞳にモノクル《片眼鏡》を掛け、赤褐色の長い髪は先端でくるくる巻いている。

胸元は大きく開き、脚には深くスリットの入った露出度の高い服を纏いながらも、それを隠す様子はない。


「アタシはサーシャ。魔術塔呪術専科の室長をしている者よ。それにしても変わった呪いね。興味があるわ。アタシが見てアゲル♪」


サーシャと名乗った女性は有無を言わせぬ目で俺を見つめる。

なんというか……圧が強い。

そのあまりの迫力に俺は思わず後ずさりするのだった。

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