第39話エピローグ〜新しい友人たちと
◇
「え? まだついて来るつもりなのか?」
あの後、こっそり旅立とうとした俺はレイモンドに捕まった。
何故置いて行こうとするのだ! 薄情もの! ……と罵られてしまった。
俺としては折角の母子の絆に水を差したくなかっただけなのだが。
「うむ、やはり元の姿には戻りたいしな」
「まぁ、それもそうか。ごめんごめん」
レイモンドは呪いでコウモリの姿にされている。
色々不都合は多いだろうからな。母親に会えたからってそれで万事解決、とはいかないだろう。
「でもいいのか? 折角お母さんに会えたのに。心配させることになるんじゃあ……」
「母上なら安心だと言っていたよ。むしろ魔女殺しの英雄殿に学んで来なさいと言われた」
振り返ると、母親は頑張るのよ! と言わんばかりにガッツポーズを送ってくる。
母は強し、と言うところだろうか。思わず乾いた笑いが漏れてしまう。
……てか魔女殺しって。殺してない殺してない。逃げただけ逃げただけ!
「ここから北西、砂漠を抜けた先には魔術都市サンディアがございます。丁度今頃は祭りの季節ですし、ユート殿の旅に彩が得られることでしょう。それに呪いを解く方法があるかもしれません」
モリガンが俺たちにかけた呪い。
魔術都市というくらいなら、それを解く鍵がある可能性は十分にある。
「ありがとうございます。行ってみようと思います」
「とはいえ……ほっほっ、あまり無茶をなさらぬよう。ユート殿が力を見せれば街が大混乱に陥るかもしれませんからな」
いや、無理だから。俺のステータスはフラットなんで、魔術師は遊び程度にしかならないって。
なんだか過大評価されている気もするが……恩人だし、リップサービスだろうな。うん。
「では行ってらっしゃいませ!」
「はい!」
手を振って別れる。
見えなくなった後も、しばらくレイモンドは母親の方を向いていた。
◆
――魔術都市? それって他の大陸にもなかったっけ?
――あるねー。共通なんでしょ。なんか大会とか、コンテストとかあったよね。
――ユートさん無双の予感!
――いや、流石にフラットステでは魔術師の本領は発揮できんだろ……まぁユートさんならやりかねんけどさ。
――ていうか気づけば同接やばい事になってない? 一千万超えてるんですけど。
――ぶっは! てか収益化しないのかね? そういえば最初の方に気付いてないっぽいコメントあったけど……
――未だに気付いてないのかもね。でもこれだけ行ってたら企業もそろそろ放っておかなそうだけど。
――案件とか来てるだろうなー。気付いてないってことは見てないのかもね。いやはや羨ましいですわ。
――まぁこっちは楽しませて貰ってるわけで。とりあえずいいねポチ。
――ポチポチポチ。
――今日はこの辺りで終わりかな。また明日も楽しませてくれよー。
――うぽつ。
――つー。
◆
「よかったなぁ……レイモンド」
スイッチを切ってゴロンと横たわり、小さな相棒を想う。
いや、ただのゲームのイベントなんだけどさ。
先日自分に起きたことと重ねてしまい、胸がいっぱいになってしまうのだ。
「それにしてもあまりに広すぎる部屋だ」
荷物やらベッドやらを置いて使っている部屋だけでも、以前俺が住んでいたプレハブ小屋くらいのサイズがある。
今いる大部屋には何も置いてないから、特に広く感じてしまうのだ。
広さと同時に、寂しさと、心細さも。
「まだ夜の十時か……」
いつもならもっとゆっくりゲームをしているが、なんとなく落ち着かない。
そういえば親元を離れて暮らすのって初めてだっけ。あんな親でも離れるとなるとなんとなく不安なものである。
「母さんたち、どうしてるかな……」
きっと俺を追い出したことに清々しているだろうが、今の俺の待遇を知ったらどうするだろうか。
連れ戻しに来る? いや、むしろこのマンションを自分たちに寄越せと言ってくるかもしれない。
子供の物は親の物、というのが我が家のルールだからなぁ。
そんなことを考えていると――ピンポーン、と呼び鈴が鳴る。
「ま、まさかね……」
恐る恐る通話を押す。
画面に現れたのは一人の女性――詩川さんだった。
「こ、こんばんはー……」
「う、詩川さんっ!? どうしたのこんな時間に……」
「おおっと、俺たちもいるぜっ!」
「私たちもねー」
「……何故、私が連れて来られたんだ……」
「浩太! 慎也! 日向さんに小鳥遊先輩まで!? 一体どうして……」
「引越し祝いだよ。明日は土曜で休みだろ? 本当はもっと早く来たかったんだけどな」
「うん、親の許可貰ってきたら時間掛かったんだよ。流石に迷惑かと思ったけど……もう集めちまったしな。悪ぃ!」
そういえば先日、皆に引っ越しの話をしたっけ。
住所とか聞いてきて、遊びに行くとか言ってたけど……まさか本当に来るとは思わなかった。
「すみません! いきなり神谷さんの家に遊びに行こうと誘われまして……あの、ご迷惑ではなかったですか?」
「全然! そんなことないよ!」
ぶんぶんと首を横に振って返す。
むしろ人恋しかったし、歓迎なくらいである。
「そうそう。美少女が三人も来てあげたのに、迷惑なはずがないって! あ、手土産くらいは持ってきたよ。皆で買ったケーキ!」
「甘いものばかりじゃなんだと思って、ピザもなっ!」
しかも各々が手土産を持参している。突然だった俺は歓迎する用意など何もできていない。
「ごめん。俺の方は何もないけど……」
「何言ってんだ神谷。祝われる側は場所だけ提供すればヨシ! てか早く入れてくれよー!」
「あぁ。うん。わかったよ」
――こうして、宴が始まった。
飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。
もちろん飲み物はジュース。部屋を探したらカラオケセットが出てきたのでそれで歌っている。
ちなみに壁は防音なので問題ないらしい。このマンション怖っ。
「うおおお! 最新曲まで入ってるぜ! 歌おう歌おう!」
「小鳥遊先輩! デュエットして下さいっ!」
「……断る」
「あっははー! 振られてやんのー!」
今まで静かすぎた部屋はあっという間に喧騒に飲まれる。
いつの間にか広すぎた部屋はそう感じなくなり、同時に寂しさも心細さも消えて失せていた。
「すみません神谷くん。いきなり来ちゃって……」
「いいよ。むしろ歓迎。寂しかったくらいだしさ」
「そうですか? ……あの、よかったらまた来てもいいですか?」
「もちろん!」
そう答える俺の心は、気づけば煌々と月の輝く夜空のように晴れていた。
今までの俺では考えられないような充足感。
皆に、そしてオルティヴ・オンラインに感謝だな。
「何やってんだよ二人とも!」
「怪しィー!」
「な、なんでもないってば! もう!」
慌てて二人、皆の輪に戻る。
詩川さんが握った手は少し冷たく、暖かかった。
これにて第一部終了となります。
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