第38話再会

「うがァァァッ! クソがァァァ痛ェよォォォォォ!」


右脚から噴き出す血を抑えながら、ギュスターヴは吠える。

今の部位破壊でレベルは35に上がった。

ダメージは12000ちょいか。かなり出るようになったが、それでも倒し切れるかは微妙なところだな。

とはいえ右脚を破壊したことで相手の動きも鈍っているだろうし、頑張れば何とかなるか……? そんなことを考えていた時である。

奴はとーん、と飛び上がり、岩壁の上に乗った。


「絶対に……絶対に許さんぞ貴様ァァァ! ユート! その名はしかと覚えた! この屈辱、いつか絶ッッッ対に晴らしてやるから覚えてやがれェェェ!」


そんな負け惜しみ同然の咆哮を上げながら、ギュスターヴは跳躍する。

あまりの事態にレイモンドと二人でポカンと空を見上げていると、奴はいつの間にか姿を消してしまった。


「逃げた……のか……?」

「みたい、だな……」


どうやら逃げてくれたようだ。

あのまま戦えばキツかったのは事実だし……命拾いしたのはこっちだったかもな。

安堵の息を吐いて、俺は腰を下ろすのだった。



――まさかボス戦中にレベルを上げて、ソロでは討伐困難な敵を追い返してしまうとは……無茶苦茶ここに極まれりだな。

――てかギュスきゅん三下すぎて逆に萌えるんだが。

――いやそれはない。ケモナー乙。

――なにー! ゆるるさーん!

――ていうかどんどん色んな奴とフラグが立っている気がする。ユートさん。

――それはそうとレイモンドたんのお母様は無事かねぇ。



井戸の入り口付近に戻ってくると、怪我人の救助活動が行われていた。

そうは言っても傷は浅く、歩ける者が大半のようである。


「どうやら命に関わる程の怪我をした人はいないようだな」

「うむ、本当によかった」

「おお! ユート殿! ご無事でしたか!」


俺に気づいたマゴットさんが手を振ってくる。

涙ながらに駆け寄ると、俺の手を取り強く握り締めてきた。


「ありがとうございます! あなたのおかげで我々は無事生き延びることができました……!」

「いえ。当然のことをしたまでですから」

「そのようなことはありません。流石はあの魔血皇女に牙を突き立てた方でございます。……おおそうだ、これはほんの気持ちですがどうかお受け取りくださいませ!」


懐から取り出したのは、先端に宝石の付いた筒――マジックロッドだ。

魔術師用の武器で、INTと共にMATKが大幅に上昇するものだ。

それも店売り最高の杖がMATK100に対し、マジックロッドのMATKは130。しかもMDEFを20%無効化する効果まで付いている。これはかなり強いぞ。


「これは我ら神官が持ち出せたうちの一本でございます。売るなり使うなり、ユート殿の旅に役立てば幸いです」

「貴重なものを……ありがとうございます」


多少遠慮しながらもありがたく受け取っておく。

魔術師もやってみたかったんだが、杖はかなり高いので買う余裕がなかったんだよなぁ。かなり嬉しい。



――なにあれ? MDEF貫通とかそんな武器あり? これ使えば魔術師の天敵見たいな奴らも魔法で倒せるじゃん。

――たった20%ではあるが魔法は威力がキモいからなぁ。弓スキルも強いが、詠唱時間のある魔法は範囲攻撃も出来るしやっぱ魔術師が最強よ。

――矢とかもいらないし、盾も持てるしね。まぁ近接では最弱なんだが。パーティの後衛としては強いよね。

――それにしてもあれってイベントバトルだったの? じゃあ負けても進むことはできたのかもな。

――今のお前は弱すぎる。鍛え直して出直してきやがれ。的な? 確かにソロで挑むには強すぎると思ったわ。

――まぁ普通に勝っちゃうあたりユートさんなわけですが。



これで魔法職が出来るぞ。INTを上げていたのはこれも見越してのことだったのだ。

……まぁフラットステータスだから本職ほどの威力は出ないだろうし、趣味の域は出ないだろうがそれはそれ。

魔法が嫌いな男子がいるか? いやいない。


「大事に使わせて貰いますね」

「うむうむ。そうして下さると幸いですじゃ。そしてあの憎き魔女めに鉄槌を! ユート殿はそれが出来る方です!」

「は、ははは……がんばります」


なんかとてつもない期待を込められはしたがともあれである。

硬く握手を交わし、礼を言う。


「……あれ? レイモンドは?」


いつの間にかレイモンドが俺のそばから離れていることに気づく。

探してみると……いた。倒れ伏す母親を物陰に隠れて心配そうに見つめている。

うーむ、決心はついたと思ったのだが、どうやらまだ話しかける度胸がないようだ。

まぁ母親だからなぁ。他人よりも勇気が必要か。


それでもようやく決心がついたようで、レイモンドは恐る恐る母親の元へ歩み寄ろうとする。

が――ぼてっ、と躓いてコケてしまう。

やはり元の身体とは勝手が違うのだろう。

慣れない身体とのギャップにレイモンドは泣きそうになっている。

こんな身体で会ってもわかってくれるはずがないと思い知らされるように。

それでも這いずるように近づき、母親に声をかけようとした。その時である。


「……レイ……モンド……?」


母親の口から出たのは彼の名前だった。


「どうして……わかるのですか……?」


戸惑いながらもどうにか絞り出した言葉に、母親は両の手を広げ応えた。

手は震え、目には涙を浮かべているが、その顔は慈愛に満ちて見えた。


「わかるわよ……母親だもの……!」

「母上ぇぇっ! うわぁぁぁぁぁん!」


泣き声を上げるレイモンド。それを抱く母親。

あそこまで姿が変わっているのに見抜くなんて……すごいな。

母の愛というものを間近に見て、俺は思わず涙していた。


「よかったな……本当に……!」


俺の時は見れなかった光景に思わず呟く。

羨ましい気持ちもあるが純粋に祝福する気持ちが込み上げてくる。

俺はそんな二人をいつまでも、いつまでも眺めていた。

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