第37話砂漠の狼。後編(レベル1で勝てる相手じゃないでしょJK)

「母親って言ったか今!?」

「うむ、あそこで倒れている女性……見間違うはずがない。あれこそボクの母だ」


先刻のギュスターヴの攻撃で吹っ飛ばされたのだろうか。

砂丘の影で倒れ伏す一人の女性が見える。彼女がレイモンドの母親か。


「貴様ァァァ……ブチ殺す!」


だがそのすぐ横で土煙を立ち昇らせるギュスターヴ。


ギュスターヴ

レベル91

HP7500000

SP1200

弱点 光

弱点部位 右脚、牙


鑑定メガネを使って見るが……やはりというかかなり強いな。

HPからしてレイドボスとフィールドボスの丁度中間、といったところか。



――ボス戦? なんかイベントボスっぽいよね。喋ってたし。

――モリガンたんよりも流暢だよな。チンピラっぽいけど。

――最上位クラスのボスは人より上位の存在である為、人語は苦手っぽいとか、考察班が言ってた。

――レイドボスではないにせよ、ソロで勝つにはキツい相手だなぁ。てか普通はフィールドボスにもソロではキツイんだけど。

――しかもこいつ、光弱点てことは闇属性だろ? ユートさんの攻撃は闇属性が付与されてるから、攻撃通らないんじゃね。

――とりあえず逃げてるな。バリバリ追ってきてるけど……あれ? ボスからはアイテム使わないと逃げられなくなかったっけ?



「死にやがれェェェ!」


咆哮と共に繰り出される砂弾を躱す。

以前、デッドベアーと戦いながら検証していたが、ボスから一定距離離れると『DONT ESCAPE!』状態となる。

それは目測でボスを中心に周囲30メートルほどであり、逆に言えばそれ以上離れなければ少しずつ逃げることで誘導することが可能。

現在それを利用し、ギュスターヴを井戸から離していた。幸いヘイトは俺に向かっているからな。

ここで戦うとレイモンドの仲間たちが巻き込まれる可能性がある。


「逃げるんじゃねぇ! ボケがぁ!」


現状、遠距離で使ってくるのは砂弾と咆哮のみ。

一定距離を維持しながら逃げているので神経を使うが、大した攻撃ではない。

……そろそろいいか。俺は踵を返し、ギュスターヴに向かい合う。


「ようやく逃げるのを止めやがったか。いい心がけだ。バラバラに引き裂いてやるよ。さぁ剣を取れよ! 殺し合おうぜぇオイ!」

「悪いけど。剣は使わないんだ」


手にしていたバーゼラルエッジをストレージに仕舞うと、弓を手にしてレイモンドの方を見る。

俺の身体を淡い光が包み込む。転職により変じた姿は――狩人だ。



――狩人ぉ!? 弓手と料理人をレベル50まで上げることで出現する上位職! そういえばもう取得できるんだっけ。

――弓手から更に強化された弓スキルに加え、食材特効を持っているから対獣火力は全職業で一番! ギュスターヴは狼だし、これなら削れる!?

――高レベルならな! 今転職直後だからレベル1だべ? レベル補正でダメージなんか入らねぇよ。

――一体何考えてんだろ……まさか戦いながらレベル上げをするつもり!?

――無理無理。ボスフィールドに入ったら、ボスが召喚するとか一部例外を除いて基本的に雑魚は出ないから。

――じゃあなんで転職なんか……あれなら剣士で戦った方がマシな気がするけど……?



帰還の羽は使えない。剣士では火力が出ない。

奴を倒すことを考えれば上位職の狩人が最適解だ。

だが上手くいくかは俺次第、だな。


弓に矢を番え、放つ。

矢はギュスターヴの顔面目掛け真っ直ぐ飛んでいき、バキン! と鋭い歯で噛み砕かれた。

バキボキと咀嚼し吐き捨てた矢の残骸は、丸めたガムのようになっていた。。


「弱い! ねェ! んなもん何発貰おうが効きゃしねぇよ!」 


余裕をかましている所へ更に一発。

今度は太腿に当たりはしたものの、ダメージは一桁だ。

……ま、予想通りというかこのレベルじゃ碌なダメージは与えられないか。

だがそれでいい。俺は構わず射続ける。


「無駄な足掻きを!」


その度に弾かれる矢、矢、矢。

だがそれでいい。俺の目当てはダメージじゃあない。

逃げながら撃ち続ける俺だが――ドン、と背中に何かが当たる感触がした。

石壁だ。どうやら遺跡か何かに誘い込まれたようである。


「ギヒヒ……チョコマカ逃げ回ってたようだが、もう終わりだぜ。ここなら逃げ場は制限されるだろ」

「……あぁ、そうだな」

「そうともさ! 俺を愚弄したことを後悔しながら死んでいきやがれェ!」


大口を開けて咆哮するギュスターヴに構わず射かける。

矢は先刻と同様、その鋭い牙にて噛み砕かれ――ない。

逆に砕けたのは奴の牙、であった。


「は、はにィ!?」

「ふぅ、ギリギリ間に合ったか」


安堵の息を漏らす俺のレベルは一気に32まで上がっていた。



――えええええっ!? な、何が起きたんだ!? ダメージも与えてないし、倒してもないのに、何故いきなりレベルアップを!?

――そうか。部位破壊だ! 実は弱点部位はダメージだけでなく攻撃回数でも壊せるんだよ。計算式としては確か、ダメージ×命中回数だったかな?

――うむ。時間はかかるが無理ではない。そして部位破壊によりボスの一部を倒したことになり、経験値を取得出来る……!

――あ! だから遠距離から弱点を狙える狩人になってたのか。言われてみれば同じ場所ばかり狙ってたなぁ。

――とはいえ右脚はともかく、牙なんかよく狙えたね。てかなんで素直に狙いやすい脚を狙わなかったんだろ。

――ボスなだけあって弱点部位でも耐久力はかなり高いからね。レベル1のAGEじゃ破壊まで相当時間掛かると思うよ。

――牙は的が小さく狙いにくい分、耐久力も低いってわけか。なるほどなぁ。

――ま、ユートさん以外誰ができるんだって話だけどな。



そしてレベルも32になればそれなりにスキルを取得できる。

取得するのは歴代狩人最強スキル『エイムショット』だ。

こいつは高クリティカル率、高倍率を誇るだけでなく、弱点部位に攻撃した際の破壊率が非常に高い。

スコープで覗くような特殊演出が発生するので連射はできないが、当たった際の威力は折り紙つきである。

弓を番えて構えると、ギュスターヴは顔を青くする。


「ま、待て待て! 俺が悪かった! これ以上無益な戦いはやめようぜ? 同じ眷属にされた仲じゃあねーの! な?」

「その気はないと言っただろう」


構わず、放った俺の矢がギュスターヴの右脚を吹き飛ばす。


「ぎゃあああああああ!」


断末魔が夜の砂漠に響き渡った。

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