第31話隠し通路発見(誰が見つけれるんだそんなの)
「ん、なんだありゃ」
砂漠を歩いていると、奇妙な物体を見つける。
近づいてみるとそこにあったのは……井戸だ。
「なんでこんなところに井戸が……?」
「むぅ、水はないようだな」
井戸を見下ろしてみるが底には砂が溜まっているのみだ。
「恐らく枯れ井戸であろう。かつてこの場所に村か街があったのではないか?」
「……ちょっと降りてみよう」
「お、おいユート?」
ロープを辿って井戸の底へと降りていく。
半ばくらいまで降りた辺りで、壁面に違和感を見つける。
「あそこの壁、妙にへこんでおらぬか?」
「……うん、やっぱりだ」
へこんでいるのではない。井戸の底、壁面に穴が開けられているのだ。
レイモンドの言う通り元々は街か何かがあったのだろう。
しかし他は砂に埋まっていたにもかかわらず井戸だけ無事なのはおかしいと思ったのだが、ビンゴだったな。
壁に開けられた通路は長く続いている。
「行こう。神殿の人たちがいるかもしれない」
「う、うむっ!」
どこか緊張した様子のレイモンドを連れ、俺は通路を進むのだった。
◆
――隠し通路キタコレ! つか本格的に隠れすぎだよ。砂漠に枯れ井戸に隠し通路とかさ。
――普通は見つからんよな。雑魚の強さといい転職の難易度の高さといい、これが奈落クオリティ。
――ユートさんのせいで奈落ウィキが廃人御用達になっている件。
――元々廃人仕様だから問題ないという説もある。
――それよりレイモンドたんは仲間と会えるのか? 白骨化とかは勘弁な。
◆
「何者だ!」
通路を歩いていると、遠くから声がする。
おおっ! 生きている人がいてくれたか。よかったよかった。
「名を名乗れ! 名乗らんと……」
「わ! わーわーすみません! 俺はユートという旅人です。砂漠を越えようとしている途中でここを見つけたんです! 決して怪しいものではありません!」
慌てて声を上げて弁明を述べる。
ふぅ、危うく警戒される所だった。折角見つけたのに襲われるのは勘弁である。
「……どうやら一人のようだな。わかった、ここへ入ることを許可しよう。灯りをつけるからこちらにゆっくり歩いてくるといい」
言葉と共に、松明に火がつけられる。
しばし進んだ先は大きな空間が広がっており、そこでは十数人の男女が生活しているようだった。
流石に不便そう生活ではあるが、地中だからか涼しいし、どこからか水や食料を調達しているようで暮らしにも困ってはいなさそうだ。
辺りを見渡していると、一人の男が俺の前に進み出てくる。
「ワシはこの集落のまとめ役をしている。マゴットと申す。いきなり喧嘩腰で応じてすまなかったなユート殿。だがワシらは追われる身。見知らぬ来訪者にはつい用心してしまうのだ。許されよ」
「いえ、こちらこそ突然押しかけて申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる。
相当警戒しているようだし、ここは下手に出過ぎるくらいで丁度いいだろう。
どうやら俺の対応は悪くなかったらしく、マゴットさんの表情も僅かに緩んだ気がした。
「……中々の好青年だの。我らはとある化け物に住居を襲われ、命からがら逃げ延びてきたのだ。他の仲間たちは散り散りになりここにいるのはほんの一部でな。奴め、なんと憎たらしいものよ……!」
「それってモリガンですか? 魔血皇女の」
「おお、知っておったか!」
「実は俺もかくかくしかじかで……」
「な、なんと! お主、奴と戦い生き延びたと!? 素晴らしい! まさに救世主だ!」
今までのことを語ると、マゴットさんは急に飛び上がらんばかりに喜び始めた。
いやぁ、なんとか逃げ延びただけなんだけどなぁ。救世主って、幾ら何でも持ち上げすぎである。
「そんなことはないですぞユート殿」
「えぇえぇそうです。あなたこそ私たちの希望。胸を張って下さいませ」
「あ、はは……」
それにしてもこの時代がかった喋り方、レイモンドと似ているな。
やはり神殿の人たちなのだろうか。聞いてみよう。
「実は皆さんに紹介したい者がおりまして。ここへも彼の案内で来たんですよ。えーと……ってあれ? どこ行ったんだあいつ?」
さっきまで肩に掴まっていたはずのレイモンドがいない。
一体どこへ……? 探していると、
「わー! でっかいコウモリー!」
「しかもしゃべるぞー!」
「ぬわーっ! や、やめるのだ童どもーっ!」
……何故か子供たちに追い回されている。
おいおい一体何をしているんだ。
ひょいっと捕まえ、子供たちから取り上げた後に小声で問う。
「何してんだよレイモンド。彼ら、君の仲間なんじゃないのか? 挨拶とかしなくていいのか?」
「う、うむ……その通りだ。マゴットは我らの区をまとめる長。他の大人たちもよく知っている者ばかりだし、皆優しい人たちばかりだよ」
「だったら……」
「しかしだぞユート、皆がこの姿を見てどう思うだろう? 呪いによってコウモリとなったボクを仲間外れにしないと言い切れるか? かつての仲間たちが同じように接してくれると言えるだろうか? そう考えたらボクは恐ろしくて仕方ないのだ……!」
「……っ!」
小刻みに震えるレイモンドを見て俺はようやくその気持ちに気づく。
見た目というのは非常に大事だ。それ一つで他人の扱いは大きく変わる程に。
俺が虐められなくなったのも、このゲームを始めて見た目が変わったからというのが大きいだろう。
他人だけじゃなく、自分の気持ちだってそうだ。
背筋が伸びることで自信が付き、会話だってこなせるようになる。
それが突然失われたら……?
浩太や慎也、詩川さんに日向さん、山田先生に小鳥遊先輩……俺が以前と同じ容姿になったら、きっと今のようには接してくれないだろう。
それを考えるとレイモンドの気持ちは痛い程よくわかった。
「ごめん……」
「……いや、ボクの意気地がないのがダメなのだ。なんとか頑張ってみるとも」
「うん、頑張れよ。レイモンド」
だからといって縮こまってばかりもいられないのはレイモンドもわかっているようだ。
偉いな。まだ十歳なのに。
とはいえ俺がいたら話しづらいこともあるだろうし、今日のところはログアウトした方がいいかもしれないな。
こういう場所には大抵……おっ、いたいた。
寝床の辺りにいるNPCに話しかけ、俺はセーブを行うのだった。
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