第29話料理人になる(やはり色々チートだった!)


「おっ、来たな。待っておったぞユート」


ログインするとコウモリ型転職NPC、レイモンドがパタパタと俺の肩に止まる。


「やぁ、お待たせ……ところでレイモンド、俺がいない間はどうしてたんだ?」

「む? その辺りで隠れて休んでいたぞ。寝たり食事を取ったりしてな」

「食事、か。そういえば使い魔という形になっているんだよな。一応」


過去シリーズには使い魔システムというものがあり、一部のモンスターをテイムして捕まえたり、一部NPCが同行を求められたりして、使い魔として連れ回すことが可能だった。

ならばレイモンドのステータスも見れるはず……メニュー画面を手当たり次第に操作し、ウインドウを開いていく。


「……あった、これだ」


レイモンド

LV12

HP120

SP50

満腹度20%


過去シリーズでは使い魔は連れ歩くことでのメリットは殆どなく、観賞用ペットのような扱いだった。

効率厨だった俺は連れて歩くことはしなかったのである。……餌代高いし。

だがさっきの言葉を信じるなら、一人で食事を手に入れてきたらしいが……もしかしてこの辺りの草を食べたのか。

偶然というか、先日セーブしたこの場所は沢山の草が生い茂っている。


「これらは食べられる野草だからな。とはいえ流石に飽きてしまったが」

「うっ……ご、ごめん……」


俺が美味しい料理を満喫している間にレイモンドはまさか草を食べていただなんて。

申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

というか満腹度ゼロになったらHPがじわじわ減り続け、最後は死ぬんだよな……気をつけないと。



――お、ログインきましたな。そしていきなり衝撃の事実を知った模様。

――うんうん、私も使い魔連れてたけど、インしたらいきなり満腹度0%だったからビックリしたよ。HPも僅かだったし、危なかったぁ。

――いいじゃん……私なんか三日放置してたら死んでたし……

――三日も放置する方が悪い件。

――し、仕方ないでしょ旅行だったんだから! 後から知ったけど、近くに餌場があれば大丈夫みたいね。

――この辺のシステム、意外と知られてないもんなぁ。レイモンドたんは言葉を喋るからその点いいよな。

――このゲーム、NPCは死んだら二度と戻らないからねぇ。レアな使い魔はそれはそれで緊張感あるよ。



「すまない。すぐに何か作るから」

「何を謝る。無理してついてきているのだ。それくらい自分でやるとも……うっ!」


なんて言いながら、レイモンドの腹はきゅるきゅると情けない音を立てている。

空腹度20%だからなぁ。口ではなんだかんだ言ってるが腹が減ってないはずがない。


「まぁまぁ、ついでに料理ってのもやってみたかったしさ。というわけでレイモンド、転職してくれ」

「む……わかった」


淡い光に包まれ、俺の姿が変化する。

転職したのは――料理人。

非戦闘職である料理人の目玉スキルはなんと言っても『料理』だ。

料理人でモンスターを倒すと高確率で食材をドロップし、それをスキルで料理すれば短時間ながらステータスが向上する。

ただまぁ、料理人本体には碌な戦闘スキルがないのでレベル上げは相当苦労するのだが。

習得出来るのは火と水の初級魔法に短剣スキル、盾スキル。どれも初級という微妙具合だ。

料理で多少の経験値は得られるが、雀の涙だしな。

序盤はそこそこ戦えるが、レベルが上がるにつれキツくなるタイプの職業なのである。


「ともあれ、まずは料理スキルを取らなきゃいけないんだよな。多少はレベルを上げないと」


『料理』のスキルは『千斬り』と『フライ返し』、初級魔法『ファイア』と『ウォーター』を取らないと使えない。

それには最低でも5レベルは上げる必要があるのだ。


「本来なら一番しんどいのが転職直後なわけだが……場所がよかったな」


近くに生えている食用の草、これ実はモンスター扱いなのだ。

草はHP自体は低く設定されているが非常に防御力が高く、通常では1ダメージしか与えられない。

反撃こそしてこないものの倒すとなると時間がかかるのだ。


だが料理人は食材を落とすモンスターに対し、防御無視ダメージを与えられるという特性を持っている。

そして草は反撃してこない為、料理人が唯一他の職業にアドバンテージを得られる相手なのである。


「というわけでサクサク刈っていきますか」


ざっくざっくと小気味良い音を立てながら草を薙ぎ倒していく。

草の経験値はそこまで多くないが、料理人なら一瞬で倒せるので低レベル帯なら経験効率は悪くない。食材も落ちるしな。

ま、レベル5までなら十分稼げると思う。



――草狩りキター!

――料理人的には低経験値だが食材も同時に稼げて地味に美味いんだこれが。てか転職場の周辺には大体草刈りポイントがあるんだっけ。

――ただどうしても狩場が固定されるから、いーっぱい人が集まってきちゃうんだよねぇ。

――しかし誰もいない奈落なら幾らでも狩り放題というわけか。ズルいなぁ。……いや、だからって奈落には行かねぇよ?

――これだけ狩りまくれたら爽快だろうな。俺もやりTEEEEE!

――人のいない平日昼間を狙うとか……

――ニート乙。



こうしてレベル5になった俺は改めて『料理』スキルを習得する。


「だがユートよ、食材はあるのか? 草だけではまともな料理はできんぞ」

「道中の戦闘で鳥肉やワニ肉を拾っていたから多少はな。野草と料理してみよう」


これらの食材はゲームだろうと時間が経てば普通に腐るので、さっさと使うか売るかした方がいい。

まぁアイテムボックスのおかげか三日や四日は保つようで、リアルのように半日とかで腐ったりはしないのはありがたいのだが。


「さて、料理開始だ」


ともあれスキルを発動させる。

手にしたナイフを包丁代わりに、盾をフライパン代わりに、そして魔法による火や水を調理器具として使い、料理を進めていく。


「よし、できた!」


ワニ肉のステーキ風、鶏肉の野草炒めの完成である。

食べてみると……うん、素材の味が生きているな。

不味くはないが美味くもない。

料理レベル1だから仕方ないけれども。


「おおっ! これは美味い! 美味いぞユート!」


だがレイモンドは俺の料理がいたく気に入ったらしく、すごい勢いでバクバク食べている。

ま、まぁ俺としてはありがたいけどね?

しばらくはレイモンドの空腹を満たすついでにレベルを上げていくといいかもな。



――まだ『料理』レベル1なのに原型を留めているって地味に凄くね? 俺最初やった時、黒焦げの何かにしかならなかったわ。

――料理に使いにくい食材とかあるよー。あと多少なりとも料理知識がないとそうなりやすい。

――あーだね。料理本とかわざわざ買ったわ。ランカー料理人の中にはプロのシェフもいるって話だぜ。

――高レベル料理は複雑な工程のものが多いもんね。ゲームの中でまで料理するとは思わなかったわー。

――ユートさんは自炊勢か。学生っぽいのによーやるわ。

――俺が学生の頃はかーちゃんに一から十までやって貰ったもんだわ。一人暮らしして染みる母のありがたみかな。ウッ……(´;ω;`)



「ふぅ、食べた食べた」


といっても本当に腹が満ちるわけではない。

なんとなく食べた感はあるのが変な感じではあるけどな。ダイエットにはいいかもしれない。

……いや、このゲームで痩せたのは事実なんだけれども!


「ボクも満足だ。美味かったぞユートよ」


満足そうに息を吐くレイモンドの満腹度は100である。

ちなみに俺を転職させた際にレイモンドのSPが減っていた。

どうやら連続で転職する、なんてことはできないようだな。

まぁ食事中に全快してるし、自然回復で十分だろう。どうしてもという時はSP剤でも飲ませればいいか。

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