第24話新たな職業、その力!(チートなのはやはりユートさんでは…)
――淡い光が俺を包み込む。
転職により俺が就いた新たなる職業は、弓手であった。
レベルは1へと戻り、しかし新たなスキルツリーが開放される。
「うん、ありがとうレイモンド」
「お安いご用だ」
礼を言うとレイモンドは満足そうに頷く。
実を言うと二番目の職業は弓手に決めていたのだ。
かつては弓手でプレイしていたから思い入れもあるし、最初に選ぶ候補でもあったのだが……逆に言えば一度やったことのある職業である。
折角ならやったことがない職業でプレイしたいというのが人情というものだからな。というわけで落ち着いてからのんびりやろうと決めたのだ。
ともあれ転職を終えた俺は、街であらかじめ購入していた弓矢を装備する。
古兵の弓
ATK120
矢
ATK1
驚くなかれ、両手武器である弓は他の武器より格段にATKが高いのだ。
ちなみにキリングナイフのATKは40。バーゼラルエッジのATKが55。
攻撃のたびに矢を消費するという欠点はあるが、これがたったの15,000ギルと考えれば破格の強さである。
なお矢の値段は一本2ギル、転職してすぐ狩ることを想定して1000本購入しておいた。
「準備がいいのう」
「ここに武器が売ってない可能性もあったからね」
まさか街ですらないとは流石に思わなかったが。
ホント、用意しておいてよかったよ。
「言っておくが神殿が無事だった時はある程度の武器防具は売っていたのだからな!」
レイモンドが失敬な、とでも言わんばかりに憤慨している。
悪口を言ったつもりじゃなかったんだけどな。
「よし、早速狩っていくか」
「うむっ!」
神殿を出てモンスターを探し始める。
「って、コソコソと何をしておるのだユート?」
「今の俺はレベル1だからな。慎重に移動しないと即死しかねない」
草むらに身を隠し、あたりを警戒しながらゆっくりと進んでいく。
「何か特定のモンスターを探しておるようだな」
「あぁ、確かこの辺りに……いた!」
俺が狙っているのは道中に見つけていた植物型モンスター、サボテンウォリアだ。
直接攻撃に反射してくる近接職の天敵のようなモンスターだが、こいつは非常に足が遅く、更に柔らかい。
遠距離攻撃を持つ職業にとってはまさにカモなのだ。
こちらに気づいていないサボテンに向け、弓を放つ。
バシン! 25ダメージ!
……はいクソ。柔らかいサボテン相手でも二桁ダメージか。
いい武器を使えばレベル1でもそこそこダメージが出せるかと思ったけど、そう上手くはいかないらしい。
ポリポリと頭を掻いているのがまた腹立たしいな。
「ふむ、どうするのだユートよ」
「……ま、策がなくはないよ」
さっきはミスったが、次は上手くやってみせる。
弓を番え、放つ。――その瞬間。
バタッ、とサボテンは倒れた。
一気に経験値が流れ込み、レベル9まで上がった。
成功……みたいだな。とはいえあまりに上手くいきすぎだ。ちょっとびっくりしてしまった。
「おおっ! 見事だユート! 急所を捉えたのだな!」
「あー……はは、まぁそんなところかな……?」
「む、変なユートだのう」
首を傾げるレイモンド。
NPC相手にあまり変なテクニックを説明してもアレだし、黙っておこうっと。
◆
――ん? 今何やったの? 装備欄がチカチカしてたのは見えたけど。
――あー、武器持ち替え攻撃ってやつだな。攻撃が当たる瞬間に武器を持ち替えたら、持ち替えた方の武器で攻撃したことになるんだよ。
――過去シリーズではよく使われてたテクニックね。例えば魔術師のスキルは詠唱時間が長いから、詠唱速度を上げる武器を装備して、発動の瞬間に威力の高い武器に持ち替えたりするのよ。
――おおう……なんかズルい。知らなかった……
――理論上は全職業で使えるテクニックだけど、普通の職業では面倒だから詠唱時間の長い魔法職で使うのが一般的だ。弓でそれをやるなんて、凄まじい反応速度だな。
――MMO版ならボタンポチで済むけど、VR版だとちゃんと持ち替えないといけないから相当忙しいだろうなぁ。ユート氏は手品師だったりして。
◆
バシッ! バシッ!
心地よい音が鳴り響く中、俺は狩りを続けていた。
即死はあまりにも運が良すぎたが、基本的に俺が狙うのは毒とマヒ。
毒は割合ダメージなので低レベルでも問題なく削れるし、動きを止めれば一方的に攻撃できる。
レベルも30を超え、そこそこダメージも出るようになってきた。
「サボテン以外は狙わぬのか?」
「弓手の欠点は防御スキルが殆どないことだ。二体同時とかに来られたらどうしようもない。まだ安全重視の方がいい」
例えばさっきまでの俺が就いていた職業、剣士では『パリィ』に『ステップ』、『空蝉』などの様々な防御スキルがあった。
しかし弓手の防御スキルは罠のみ。これはあらかじめ購入しておいたトラップを使用し、敵の動きを止めたりするものだ。(なおまだ取得もしていない)
つまり普通に避けるしかないのである。相手が鈍ければまだしも、ちょっと気の利いた攻撃をしてくる敵には打つ手がない。
しかも低レベルだからHPもないしな。
だから弓手はある程度レベルが上がるまで、遠くからバシバシやっているのが一番効率がいいのだ。……多少退屈なのは認めるけれども。
「む! ユートよ! あれに何かあるぞ!」
レイモンドが指差す先、荒野に不釣り合いな焦げた薪と焼けた地面が見える。
「なんだろう。誰かが焚き火した跡みたいだけど」
「行ってみよう。何やら胸騒ぎがする」
近づいてみると、レイモンドは興奮した様子で辺りを探り始める。
近くの石に腰を下ろして辺りを警戒していると、レイモンドが慌てて俺の元に飛んできた。
「た、大変だユート! こ、これを見よ!」
「いたた……お、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか! はようこい!」
引っ張っていかれた先にあったのは、巨大な岩であった。
そこには何やら文字らしきものが刻まれていた。
「んー……なになに? 我ら、先に行くなり。レイモンドよ。これを見ていたならばいつか必ず会おうぞ。……神殿の生き残りが書き残したものか!」
詳しい場所を書いてないのはモリガンに見られて追われない為だろう。
てっきり全員死んだかと思っていたが、無事逃げ延びていたのか。
「皆……生きていたのだな……よかった……!」
ぐすぐすと涙ぐむレイモンド。
俺まで貰い泣きしてしまいそうだ。
「しかし、一度モリガンと戦った身としては本気で狙われたらそこらのNPCが逃げられるもんじゃないと思うんだが……」
奴の火力、攻撃範囲は半端ではない。
仮に殺すつもりなら全員生きてはいないだろう。
俺やレイモンドへの対応を見るかぎり眷属か何かを増やしているのだろうか。……友達募集中的な? いや、まさかな。
「本当によかったなレイモンド。きっとどこかで会えるよ」
「うむ。嬉しい限りだとも! 元気が湧いてくるようだ」
なんだかんだでさっきまでは落ち込んでいたのだろうな。
明るい顔になっている。よかったなぁレイモンド。
「ところでユートよ。そろそろ良い時間なのではないか? セーブをするならボクが承るが」
「おお、そりゃありがたい」
どうやら神官であるレイモンドがいればどこでもセーブ出来るらしい。
いやー中々便利だな。死に戻りを考えたら、これも地味にチートかもね。
レイモンドにセーブを頼み、ログアウトするのだった。
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