第23話お供ができました(何それかわいい)


――何これ? 特殊イベント? 見入ってコメント忘れてたわ。

――っぽいね。隠し部屋はまぁテンプレだからわかるけどさ。恐らく進行条件はモリガンとの接触……つーか戦闘して生存して呪いを付けられること?

――無茶苦茶にも程があるだろ。そもそもここに来るまでもかなり鬼畜だったんだが。奈落プレイヤーは平穏な転職すら許されんのか。

――とはいえ固有イベントがあるのは俺は評価出来る。レイモンドちゃん可愛い。ショタジジイ推せる。

――ロリババアかもしれないだろいい加減にしろ!

――何はともあれ続き期待あげ。



「お供にって……レイモンドはここの神官なんだろう? 俺についてきていいのか?」

「あぁ、既に神殿は滅びてしまったからな。それにボクはユートについて行きたいんだよ」


まるで物見遊山に行くかのようなノリでうんうん頷くレイモンド。

いやいや、設定上はそうかもしれないけれどここはゲームだぞ。彼を連れて行って他のプレイヤーが来た時に転職できないとかなったらどうすんだよ。


「ええっと、レイモンド? ついてくるのは構わないけどさ、他の人が転職を求めてきたら困っちゃうんじゃないのか?」

「見知らぬ他人にそこまで気を使うとは優しいのだな。だが心配はいらないよ。転職神ガネーシア様は祭壇に供物を捧げれば、試練と共に望みの力を与えてくれる。ボクがいる必要はないのさ」

「そ、そうなのか……」


ということはそもそもここを見つけなくても転職自体はできたらしい。

ま、確かに隠し通路を見つけなければ転職不可能とか問題だよな。

今のご時世ネットがあるからある程度はどうにかなるだろうが、先行プレイヤーのせいで後続が転職すらできなくなるというのは、よく考えたらあり得ないか。


「でも俺について来たからってモリガンと戦うかはわからないぞ? というか根城に行く予定もないしさ」

「構わない。……と言えば嘘になるが、現状ではユートについていくことがボクの呪いを解除できる唯一かもしれない可能性だ。それに君なら奴を倒せるかもしれない、とボクは考えているのだがね」

「それはちょっと買い被りすぎだと思うけどなぁ……」


あんな化け物みたいなレイドボスには、はっきり言って勝てる気がしない。

とはいえ俺の呪いもそのうち解いておきたいのは事実。

レイモンドからすれば、俺に同行することが自らの目的を果たすのに最も可能性が高い方法なのだろう。

元々俺はソロで気晴らしにプレイするつもりではある、が……

考え込む俺にレイモンドは顔をずいっと近づけてくる。


「ははぁん? ボクを連れていくことに何のメリットがあるのか、などと考えているな? 言っておくがボクは使えるぞ? 何せ転職神殿の神官であるボクがいれば、どこへいても転職が可能となるのだからな!」

「! マジ? それはすごいな!」


転職は非常に強力なシステムだ。

多少の例外はあれどスキルというのは殆どが職業固有であり、代えの利かないものも多い。

というかプレイスタイルが丸ごと変わると言っていいくらいだ。

いつでもどこでも転職が出来るとなると、戦い方の幅が大きく変わる。


「ふふーん、すごかろうすごかろう。……だからユートよ。ボクを置いていこうなどと考えるのはやめた方がいいぞ。ほんとに許されんからな……」


どこか不安げなレイモンドの言葉に、俺は苦笑して返す。


「あはは。最初から置いていくつもりなんてなかったよ。一緒に行こうレイモンド」


ソロ志向ではあるが、だからと言って頼られて断る道理はない。

人に頼られる優しい男になれ。そんな父さんの言葉は俺の胸に深く刻み込まれているのだ。

……という綺麗事を抜きにしても、こういうマスコット的なのと冒険出来るなんてワクワクするしな。最初から断るつもりなど微塵もない。

俺の言葉にレイモンドの表情がみるみる明るくなる。


「! おお……連れて行ってくれるか! 信じていたぞユートよっ! 」


ぴょんと飛び上がり、俺の肩に掴まるレイモンド。

なんか鷹匠みたいだな。コウモリだから違うけど。


「さ、行こうか」

「うむ! そうだなそうしよう!」


俺はレイモンドを連れ、神殿を後にするのだった。



――んぎょぉぉぉお! レイモンドたんかわいいいいいいい! コウモリ匠めっちゃ羨ましいいいいいいいい!

――これって過去シリーズにもあった使い魔システムみたいなもんだよな。転職NPC連れ回せるって最強すぎないか?

――しかもユートさんバランス型だから、ステータス的にどの職業のスキルもそこそこ使いこなせるんだよなぁ。

――過去弱すぎたバランス型への救済か。……にしても考えただけでチートだよなぁ。いや、その分取得条件は相当厳しいけどさ。

――最初の一人だけ発生するイベントっぽいね。難易度を考えたら他大陸の廃人でも取れたかどうか。

――なんにせよ、彼ならマジでモリガンも倒す日が来るかもな。



「しかし祭壇にわざわざ書き置きとは、お主も随分と親切だのう」


祭壇に供物を捧げれば転職出来る旨を床に刻んで残しておいた。

そりゃ知らなかったら誰もわからないぞそんなの。


「ところで供物って何を捧げればいいんだ?」

「なんでもよい。果実や菓子、花や米などが一般的かのう」

「お墓参りかな?」


去年、父のお参りに行ったのを思い出す。

一応書いておくか。かきかきかき……と。うん、これでよし。


「それじゃあ早速、転職をお願いしようかな。……あ、お花とか供えるんだっけ? 試練とやらは何をやるんだ?」

「ボクがやる以上、そんなものは不要だ」


そうなのか。得したような損したような……ま、アイテム的には得してるよな。

ラッキーと考えておこう。


「ではユートよ、なんの職業に転ずるを望む?」

「……うん、じゃあ――」


俺はレイモンドに望む職業を告げるのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る