第22話そして神殿に辿り着く
そうして俺はなんとか川を渡り切った。
基本は状態異常で動きを止めて進んでいたのだが、多少倒していたようでレベルも多少上がっている。
倒すほどダメージを与えた感はなかったし、どうやらすごく低い確率だが、バーゼラルエッジには即死効果もあるようだ。
現在のレベルは81、相変わらずのフラットステータス。
過去シリーズではレベル50から転職可能となり、転職後にはレベルが1に戻る。
もちろんその職業で上げたレベルは転職してもそのままだ。例えば剣士レベル50まで上げて弓手になったらレベルは1になるが、その後剣士に転職しても50から、となる。
そしてステータスの上がり方は転職しても引き継がれる。バランス型で育てた場合、どの職業になってもバランス型になるのだ。
そこを変えると最初のキャラメイクで設定した顔や体型が変わってしまうからかな。
極振りが強いこのゲームでは、転職によって互換できる職業はかなり少ない。
魔術師のステータスで剣士なんかやってもまともにプレイできないもんな。
色々なプレイができるよう、バランス型にしたのである。
……とまぁ話が逸れたが、育てやすいように転職神殿の周りには弱いモンスターが配置されることが多いのだ。
「ギャアギャア」
「ジジジジ……!」
しかしまもなく転職神殿に辿り着くであろうに、目の前に立ちはだかる二体の巨鳥のステータスはこんな感じだ。
グラスバード
LV56
HP7821
SP321
弱点属性 無
弱点部位 足、くちばし
……いや、今の俺なら難なく倒せるよ?
通常攻撃で一発千近いダメージが出るんで、接近して切り刻めばあっという間だ。
しかしレベル1になった後とか、どうするんだろうか。……ま、きっと何か救済措置が用意されていることを祈ろう。
最悪死に戻りしてもいいわけだし、もう少し進めば弱い敵も容易されているかもしれない。
とにかくあまり考えずに進むとしよう。
そろそろ夕方、夜になると危険度は大幅に増す。
腕に刻まれた呪いの紋様を見て、ため息を吐く。
やれやれ、とんでもない置き土産を残していってくれたものだ。
◆
――とか仰ってますが、どう見ますか視聴者の皆様方。
――いや、明らかに敵強くなってね? グラスバードとか最終狩場候補に出てくる敵じゃん。もはやそれをあっさり倒すのは驚かないけどさ。
――転職神殿の周りって、大体はスライムとかゴブリンとか雑魚モンスターばっかりでしょ。どうなってんのよ。
――奈落なら何が起きてもおかしくない。それが奈落クオリティ。
――他のプレイヤーに敵を抱えて貰えばレベル1でもパワーレベリングできるけどなぁ。奈落には今、他のプレイヤーいないし。
――転職してレベル1になったら詰む予感しかしないんだが……流石にそれはないと信じたい。
――信じるものは掬われる……足を。
◆
結局モンスターは弱くなることはなく、むしろ強く厄介になっていった。
着く頃には流石に……なんて甘いことを考えている間に、俺は転職神殿に辿り着いたのである。
「しかし……ここが転職神殿か……」
石造りの柱は崩れ、石畳もボロボロだ。
何かに切り裂かれたような跡にも見えるな。
天井も所々に穴が空き、人の気配も全くしない。
神殿というよりは神殿跡、という感じである。
こんなところでどうやって転職をしろというのだろうか。そういえばNPCおじさんが何か言葉を濁していたのを思い出す。
「街の南に転職の神殿があるが、今はどうなっているかはわからんな……なんて言ってたっけ」
あの時は場所がわかったことであまり気にしなかったが、おじさんは存在しているかどうかわからないという意味で言っていたのだ。
どちらにしろ来ないという選択肢はなかったわけだが……参ったな。
「とはいえこれはゲームなわけだし、本当に何もないとかありえないだろう。きっとどこかでイベントが起きる流れだと思いたいけど……とりあえず進んでみるか」
幸い神殿内には敵は出ないようで特に引っかかることもなく進んでいく。
辿り着いたのは礼拝堂のように椅子が並んでおり、奥には祭壇が祀られていた。
うーむ、最後まで誰にも出会わなかったな。
「ここが最奥……転職はどこでやればいいんだろ?」
過去シリーズでは神殿には神官がいて、何らかの試練を越えれば転職出来るのだが……そんなことを考えながら祭壇周辺を調べていると、
がこん、と音がして祭壇の下に階段が現れた。
「おお……こんなところに隠し通路が」
意外と王道な隠し場所だったな。やはり開発者はちゃんとプレイさせるつもりで開発しているようである。
ワクワクしながら階段を降りていく。
辺りは暗闇で前が見えないはずだが、モリガンの呪いに付いている暗闇耐性のおかげでよく見える。
なんか癪ではあるが、便利なものは認めざるを得ない。
階段を降りた俺は足を止める。
「何かの気配……?」
辺りを見渡してみるが、何もないように見えるが……
「いや違う。上だ!」
耳を澄ませば天井からわずかな呼吸音が聞こえてくる。
見上げた俺と、呼吸音の主の、目が合った。
天井に逆さ吊りにぶら下がっていたのはボール大くらいのコウモリ型モンスターだった。
丸い身体にコウモリの翼と足が生え、クリっとした丸い目がどこか愛嬌を感じられる。
武器を構えようとするが――攻撃対象ではない?
困惑しているとコウモリは一方的に語り始める。
「やぁ旅の人、ごきげんよう!」
「モンスターが……喋った?」
「失礼な。モンスターではない。ボクの名はレイモンド。こんな姿をしているが元はここの神官だ」
しゅたっ、と近くにあった石塊の上に降りて、コウモリは自らをレイモンド、そして神官と名乗った。
「! 神官さん……なんですか?」
「いやいや、そうかしこまらないで普通に話して欲しい。こう見えてまだ十歳なのでな」
「そ、そうか……?」
言われてみれば確かに、喋り方がちょっと幼いような気もする。
多少格式張った話し方をしているのは教育によるものか。
そう言うなら……と俺はコホンと咳払いをし、普通に話すことにする。
「俺はユートだ。よろしくレイモンド」
「うむうむ、それくらいが喋りやすいの」
「えーと……じゃあ話を聞かせて貰っても?」
「もちろん。……と言ってもどこから話したものか。少し長くなるが聞いてくれるとありがたい」
そう前置きを言って、レイモンドは語り始める。
「この転職神殿は少し前に滅びた。滅ぼされたのだ。魔血皇女モリガンに……!」
ブッフォ! と思わず吹き出す。
まさかその名が出るとは思わなかった。
「……大丈夫かの?」
「は、話を続けてくれ……」
ゲホゲホとむせながら、話を続けて貰う。
「魔血皇女は恐ろしい強さでこの神殿をあっという間に滅ぼしてしまった。彼女が根城を出て夜に出歩くことは数十年に一度あるらしく、皆に注意喚起があった数分後の出来事だったよ。ボクはこの転職神殿で修行を積んだ最も若い神官だった故、その血を絶えさせてはならぬとここに隠されたのだ。しかし奴の呪いは強力で、隠れていたボクにまで影響が及びこんな姿にされてしまったのだ」
悲しそうな顔のレイモンド。これがイベントだということを忘れそうになってしまうな。
……それにしても数十年に一度の外出に出会うとか、我ながら運がいいのか悪いのか。
ともあれ彼が転職NPCで間違いなさそうだ。
「ま、我らの不幸はともあれだ。ちゃんと技術は継承しているから安心したまえ。君もここへ来たということは転職を望んでいるのだろう。ボクがその役目を……む?」
訝しむような顔をして、レイモンドは俺の腕辺りをじっと見つめる。
そこは黒縄――モリガンの呪いが刻まれている場所だ。
「そ、それは魔血皇女の呪紋様! もしや君は彼女と接触をしたのか!?」
「あーまぁ一応……ちょっと戦って逃げただけだけどね」
「なんと! あの魔血皇女と戦闘して生き残ったとは……素晴らしい! よかったらボクを君のお供にしてくれないだろうかっ!?」
「って、ええええええっ!?」
突然のレイモンドの言葉に、俺は驚き声をあげるのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――
作者からの大事なお願いです!
より多くの方に読まれたいので、ページ↓にある『☆で称える』の+ボタンを3回押して応援して上に押し上げていただけると嬉しいです!
フォローボタンも押していただけると助かります!
出来るだけ長く毎日更新を続けられるよう頑張りますので、ぜひよろしくお願いいたします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます