第21話転職神殿へ行こう(何故転職するだけでそんな障害が…)

「ん? 転職神殿ならこの街の南にあるよ」


――と、NPCのおじさんが親切に教えてくれたのが丁度十分ほど前。

一時間近く辺りを探し回った俺が街に戻ってポツリと呟いた一言の答えがそれだった。

俺の今までの苦労は一体……そう思わざるを得ない程あっさり見つかったのである。

優秀なAIを積んだ村人がいるんだから最初から聞いて探せばよかったな。なんか普通のゲームよろしく、NPCに聞くという発想がなかったのだ。

無駄に辺りを右往左往してしまったおかげでこの辺りの地理に詳しくなれたんだけどさ。


「しかし……南か。どうやって渡ったものやら」


当然、先の探索で南の方は探っていたが、その時は大きな川が流れていたので途中で引き返したのである。

再度その場所に辿り着いた俺が得た感想もまた同じで合った。

改めて眺めてみると、やはりデカい。

幅は十数メートルはあるだろうか。何より川の付近は足元がぬかるんでいるし、長い草がそれを覆い隠すように生い茂っている。

ここで敵に襲われたら一溜まりもないだろうな。

しかもご丁寧にワニのようなモンスターもちらほら見えるし……


「よくは知らないが冒険者が転職するにはそれなりの力が必要なんだろう? その為の試練ってやつさ。頑張れよ。少年」


なんてNPCは言っていたが、もしやこれも何かのクエストなのだろうか。

ともあれ、川を越えねば転職は出来ないのは事実。改めて、どうしたものかと考え込むのだった。



――いやー流石は奈落。中々エグいね。転職すら簡単にはさせるつもりはありません、と。

――他の大陸だと行くまでに障害とかないしな、むしろ初心者向けのとこだとスタート地点にレベルアップNPCと一緒にあるくらいなのに。

――ふむ。この状況魔術師試験とそっくりですな。水辺に屯ろするマッドゲーターを弱点の雷で倒して、それを足場に川を超えるというものがあった。

――んじゃこれもその応用? でもその方法、魔術師じゃないと無理なんじゃね?

――マッドゲーターは水中では無類の強さを誇るからなぁ。しかもクソ硬いし、物理で倒すのは容易じゃないぞ。運営は詰ませることしか考えてないのか。――しかもユートさんはモリガンの呪いがついてるっしょ。時間をかけたら夜になっちゃうから、手間度ってる時間はないぞ。



「……よし、決めた」


しばし川を眺めていた俺だったが、ようやく考えがまとまった。

これみよがしに彷徨くあのマッドゲーターどもを足場にして行けと、そう言っているのだ。こういう時は素直にゲームの出しているメッセージに従うものである。

それになんとなくだが、川の越え方はわかったしな。


川に近づくにつれて足場がぬかるんできた。

宵闇のブーツの効果で移動速度が上がっているからそこまで気にならないが、周囲が見えないのは地味にキツいな。


「シャアアアア!」

「おわっ!? 」


金切り声と共にマッドゲーターが突っ込んでくる。

噛みつこうとするのを身体を傾けて躱すと、通り過ぎながら尻尾による追撃を仕掛けてきた。

おおっと二段攻撃か。しかし反応できない速度ではない。

避け様にバーゼラルエッジを振るい、マッドゲーターの尾を切り付ける。


「ゲギャア!?」


千切れた尻尾が遠くに落ちて消滅していく。

部位破壊、弱点部分に攻撃を加えることでモンスターの一部を破壊するシステムだ。

鑑定メガネを使えばその部位がわかるようになっている。マッドゲーターの弱点は尻尾の付け根のようだ。

尻尾を失いバランスを崩したマッドゲーターを、俺はバーゼラルエッジで刻みまくる。


「ガ……ァ……!?」


数回の斬撃により状態異常『麻痺』が付与されたことで、マッドゲーターは動きを止めた。

ぬかるみの上にだらんと横たわり、死んだ魚のようにぷかぷか浮いている。

俺はその上に乗ってふむと頷く。


「……うん、やっぱり! 川に生息するモンスターは倒すとその場に浮かぶんだ!」


――そう、この川を越える方法は魔物を麻痺させ、足場にして進めばいいのだ。

街には麻痺草とかも売ってたし、開発側としてはそれを使って越えてくださいねということだろう。

ゲームというのはプレイして貰ってなんぼ。

多少の引っ掛けはあるかもしれないが、基本的には素直にプレイすれば問題ないはずなのだ。

しかも俺の場合は状態異常を付与させるバーゼラルエッジがある。こいつを使えば――


「ゴシュルルルル……!」

「おっと。集まってきたな――足場たちが」


現れたマッドゲーターの群れを前に、俺は笑う。

構えたバーゼラルエッジを襲いかかってくるモンスターたちに叩き込み、麻痺やスタン、時には鈍足などにさせて足場とし、少しずつ前に進んでいく。

うん、予想以上にいいねこの武器は。

本来ならこれだけ無制限に状態異常をばら撒くなんて不可能なのだろうが、バーゼラルエッジのおかげで遠慮する必要がない。

他のプレイヤーよりちょっとだけ有利ってところかな。ふふふ、先行者有利ってやつだ。ネトゲはこういうのがあるからやめられないんだよなぁ。



――いやいやいやいや、そりゃ麻痺で足場にするのは正解だと思いますよ? でも普通は遠距離攻撃とかでですね……

――救済措置として麻痺草を店売りしてるのは運営のせめてもの温情。あれを投げて食わせるのが本来の攻略法だろうな。それでも鬼畜だけど。

――それを特殊武器とはいえ、通常攻撃で殴ってどうにかするとか、思いついてもやるか普通?

――調べたところバーゼラルエッジの状態異常発動確率は30%らしい。結構高いな。

――だからと言って狙ったものが出るとは限らねぇよ。つか一瞬しか見えなかったけど、一瞬でめちゃめちゃ攻撃してないか?

――あと普通に倒してる時もあるんだが……あのクソ硬いワニをただの殴りで……ヤベェわ。

――落ちそうになってもステップと空蝉で上手く躱しているなぁ。牛若丸の八艘跳びってこんな感じなんだろうな。


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