第16話手にしたものは(奴は大切なものを盗んでいきました)
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――いやーまさかスティール狙いだったとはなぁ。正直その考えには至らんかったわ。やりますなユートさん。
――思いついても普通やるかぁ? てかボスにスティールって効くんだ。初めて知ったわ。
――廃人連中が雑魚ボス隔離してやってるって情報だけは流れてきてたわ。ただゼロ距離じゃないと碌に取れないし、接触状態だと危険だからあまり捗ってはないらしい。
――DEX上げるタイプは大抵後衛だしなぁ。それをゼロスティとなるとフィールドボスですら数発で殴り殺されそう。
――ボスからスティールする特化型とか作るのかもなVITDEX極とかで。
――つか何取ったんだろ。レイドボスドロップとか確実に全世界初でしょ。ワクワクするなー。
◆
「はぁ、はぁ……はぁー……どうだ。ザマァ見ろ!」
達成感に包まれながらベッドに横たわる。
帰還の羽を使ったことでセーブポイントである宿屋に戻ってきたのだ。
HPは残っている。つまり俺の勝ち逃げってことになる。ふふふ、モリガンのやつ怒っているだろうなぁ。最後の方すごいキレてたし。
思わずニヤニヤしてしまう。
「とはいえ俺の方も激しい運動で全身ボロボロだ。このゲーム、考えただけで身体を動かすのに等しい疲れが出るからな」
今まででも疲れていたが、今回はその比ではない。
太っていた時にマラソン大会完走した時くらいの疲労感だ。
あの時は声も出せなかったっけ。しかし今は倒れている場合ではない。
「さて、戦果の確認といきますか」
喜びを噛み締めながらアイテムインベントリを開くと、先刻スティールしたアイテムが表示されていた。
未鑑定ブーツだ。収集品だったらショックを受けていたが、レア装備品だったようで嬉しさは倍増である。
早速鑑定メガネを使ってみよう。
常闇の具足
DEF11 MDEF10
移動速度が20%アップする。
常闇の羽飾り、常闇の鎧と同時に装備した時、最大HP25% 最大SP25%アップする。
おお、足装備か。
所謂セット装備ってやつだな。
多分どれもモリガンが落とすんだろうなぁ。流石にこれを揃えるのは無理か。
でも移動速度アップは地味だがかなり美味しいな。
このゲーム、結構徒歩での移動が多いからありがたい。
早速装備してみると、身体が軽くなったような気がする。
「すごいや。足に羽が生えたみたいだ。ちょっとその辺歩いてみよっと」
俺は宿から出ると、しばらく近くを歩いてみることにした。
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――移動速度アップってエグすぎだろ。各大陸でトップギルドに送られる神器の一つが移動速度アップの靴じゃなかったっけ。
――アキレスのブーツね。あれは一応他にもクソ強い効果はあるし、移動速度も30%アップだから上位互換ではあるが。
――それでも強いって。しかも移動速度が上がったら回避もしやすくなるでしょ。ユートさん無双が更に捗るな。
――ていうかあれだけ動いた後で更に動けるとか、本体がチートでしょ。どんだけタフだよ。俺なら即寝落ちだわ。
――どうでもいいけどモリガンから逃げるタイミングで何かしてなかった? 俺の気のせい?
――そういえば腕になんか模様が付いてたような……
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溜め込んでいた蛍光色の角を売り、目標であったバーゼラルエッジを購入した。
んん〜いい輝きだ。早速試したい。どれくらいの確率で状態異常が出るんだろう。ワクワクするなぁ。
「……ん、なんだこれ」
気分よく歩いていると腕に何か、変な模様がついていることに気づく。
それは一言で言えば黒い手形。墨を塗りたくった女の手が俺の腕に巻きつけられたかのような跡だ。
じっくり見ていると、解説文が浮き上がってくる。
黒縄は魔血皇女にかけられた呪いである。
魔血皇女が敵と認めた証、触れられた時点で刻まれ、HP15%ダウン、DEF30%ダウン。攻撃、防御時に強制的に闇属性が付与される。
暗闇耐性。直接攻撃時、HPを微少回復。
夜に一定確率で魔血皇女とエンカウント。
ただし眷属になるのを受け入れるか条件を満たせば解除される。
>眷属化、日中ステータス↓↓、夜間ステータス↑↑
ヒールの効果半減、ブラッドスキル及び闇属性魔法スキルを多数会得可能。
代わりに職業が眷属で固定され、転職不可。
「ええええええっ!? なんだこれ! いつの間に付けられたんだ?」
戦闘時を思い返すと……あぁ、帰還の羽で逃げた時に何かが腕に触れたような感覚があった。
あの瞬間に呪いをつけられたのかもしれない。……しかし敵と認めたとか、怖すぎるんですけど。
デメリットもまぁまぁデカいな。ステータスダウンだけでも痛いのに、闇属性付与はなぁ。
光属性の敵にはダメージが上がるが、基本的に光属性のモンスターは少ないし、闇付与されると闇属性のモンスターにダメージが与えられないのだ。
このゲーム、同じ属性同士だとダメージが入らないのである。
何よりヤバいのが夜に歩いているだけでモリガンが出てくることだ。
もう二度と夜に外出できないじゃないか。
もちろん眷属化は論外だ。
ブラッドスキルとやらは魅力的ではあるが、ヒールが効き辛くなるのは勘弁である。
狩りの時間が夜に制限されるのも嫌だが、何より転職が出来ないとか問題外だ。
オルティヴオンラインの楽しみを半分以上失っていると言っていいだろう。
それにもう誰かのパシリは嫌だ。いじめられっ子は卒業したのだ。ゲームの中とはいえ、誰かの眷属なんて御免被る。
……そういえば転職は今作ではどこでやるんだろ。無性に転職したくなってきたぞ。
レベル的には十分なはずだし、次の目的は転職でもいいかもな。
◆
――ふーむ、モリガンたんはヤンデレであったか。
――触られまくって大事なものを盗まれたからな。乙女の怒りもやむなしである。
――冗談は置いといて、ライバル視みたいな? このゲームって時どき変なシステムを積んでるなー。
――ていうかまだ転職してなかったんだよな。一時職であの強さとか。ヤバいでしょ。
――転職所ねぇ。他のスタート地点なら割とどこの街でもあったりするけど、奈落ではどこなんだろうかねぇ。
――さぁ、もっとデカい街があるんじゃないの? しかしユートさん結構歩いてたのに、全然それらしき場所なかったよなぁ。
――ともあれ、新たな旅立ちが始まるのであった。
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