第15話VS魔血皇女。後編(ユートさんSUGEE!)
どどどどどどど! と爆音を響かせながら黒い刃が迫る。
モリガンの振るった攻撃はどうやら射程が非常に長いらしく、分厚い攻撃判定がそのまま飛んでくるのだ。
「よっ、ほっ、はっ!」
とはいえ距離が離れれば刃と刃の間隔は大きく開くので、そう困るものでもない。
いや、でも鎧とか着てたら避けられないよなぁコレ。
普通はタンク役を突っ込ませて耐えさせなきゃいけないのに、こんなもんぶん投げ続けられたら耐久型が近づくのは一苦労だろう。
「しかもこれだけじゃないからなぁ……っと、きやがった!」
ずどどんっ! と巨大な雹が降り注ぐ。
数秒感覚で飛んでくる氷塊は魔術師スキル『アイスボルト』。
円形範囲に氷属性ダメージを与えるスキルだが、落ちてくるまでに僅かな時間があるので画面が光った瞬間に『ステップ』で移動すれば当たらない。
SPは使うがこれなら確実に回避可能。いくらレイドボスと言えど、遠距離ではそう致命的な攻撃手段はないようで助かる。
◆
――あの黒爪だけでもヤバいのに、アイスボルトまで使うのかよ……闇鎧だけで対策できるかと思ったけど、エグすぎだろ。
――しかもアイスボルトは攻撃を受けた際に凍結状態になって足が鈍るからなぁ。躱すしかないようだ。
――いや、普通あれを見てから避けるのは普通無理だから。一瞬詠唱があるとはいえ、反応できんよ。
――今更だけどユートさん反応速度良すぎィ! もしかしてボクサーとか? やたらスタミナあるし。
――運動神経が半端ないことだけは確かだな。今更だけどVRって反射神経無双?
――俺もやってみたが、一時間で身体ガタガタになっちまったよ。おっさんには辛いゲームだぜ……
◆
「さて、SPも回復してきたな」
距離を取って避け続けていたのはSPの自然回復を待つ為だ。
何せ『空蝉』はかなりSP使うからな。
タイミングはモリガンの放つアイスボルトは避けた瞬間、一秒くらいの硬直を突いて『空蝉』発動。
生まれた分身を纏い、俺は再度モリガンに突っ込んでいく。
「キャヒ!」
不気味な笑い声と共に黒い刃が無数に迫る。
先刻同様、身体を倒しながら跳ぶが――十字。縦と横にクロスして黒爪を放っていた。
俺が最初そうして避けたのを学習したのだ。
オルティヴオンラインのNPCは高度なAIが積んでいるというのはわかっていたが、こいつの学習能力は人間並みである。
「――ま、それは想定していたけどな」
そこらの雑魚ですら持っている学習能力をレイドボスであるこいつが持ってないわけがない。
当然対策は考えてある。
発動させるのは『パリィ』。黒い刃が砕けて散る。
この黒爪が通常攻撃なのは知っていた。そしてそれなら『パリィ』で弾ける。
勢いのまま、前へ。二連撃でモリガンはかなり大きな隙を晒している。
◆
――今更パリィ避けとか驚かないけどさぁ……それよりレイドボスに学習能力とかエグいってぇ!? つかこれじゃタンクが抱えるのも無理じゃね?
――レイドボスのチート能力には前衛でないと耐えられないもんなぁ。下手したらヘイト管理とかも効かないとかありうるぞ。
――ありうるありうる。開発チーム、こいつを倒させる気ないんじゃねーの?
――ユートさんばりの鬼PS持ち数人で倒す感じ? 見応えはありそうだけどな。パンピーお断りか。
――レイドボスはエンドコンテンツだしね。動画もほとんど出回ってないし、どれも瞬殺されてるのばかりだったよ。
――じゃあこれが世界初、まともなレイドボス戦……てコト?
――しかし流石に終わりかなぁ。ここで突っ込んでもダークファイアウォールに弾かれちまうよ。
――ステップと空蝉で無理やり躱す気かね? 分が悪そうだが。
◆
よし、さっきと同じ状況に持ち込めたぞ。
ダークファイアウォールの射程は5メートルだった。
タイミングはかなりシビアだぞ。かといって足は止められない。止めたらまた通常攻撃が来てしまう。
あと3メートル、2、1……今!
モリガンがダークファイアウォールの詠唱を開始する。
詠唱時間は確認済み。0.1秒、瞬きするような僅かな隙間を狙い――石を投げる。
「lalal――」
ビシッ! と音がして詠唱が止まる。
スキルの詠唱には白色と黄色があり、白色の場合は攻撃を当てることで詠唱を中断させることが可能なのだ。
◆
――うぇぇぇぇっ!? 投石で詠唱中断とかマジか!? いや、対魔術師の常套手段ではあるけどさ、あのクソ短い詠唱に差し込むのはあり得んでしょ!?
――あらかじめ距離を測って投げたんだろうな。見てから投げたら間に合わないだろうし。つかユートさんスペック高すぎw
――ダークファイアウォールは持続時間長いからな。ステップで躱すのは無理と考えたんだろう。いや、こっちも大分無理筋だと思うけど。
――おおおっ! すごい! ついにモリガンに攻撃が当たるぞ!
◆
「だりぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
咆哮と共に飛びかかる。
もちろん俺の攻撃力ではダメージは与えられないだろう。
キリングナイフの発動を期待するのは無理筋だし、仮に発動しても無意味。てかそもそも避けられるだろうな。
無意味なプライドをかけた無謀な特攻。かすり傷程のダメージを与えるがそれだけで、即座に嬲り殺されるだけの哀れな存在の小さな足掻き。
眼前のモリガンも多少驚きつつも半分は冷ややかな笑みを浮かべており、やれやれ人間如きにいっぱい食わされたか、程度の表情に見える。
「――って思うじゃん?」
モリガンに直に触れる。
攻撃ではない。触れただけだ。そして発動させるのは『スティール』だ。
流石に一度では成功しないか。だが俺は構わずスキルを連射する。
ミスった場合のクールタイムは0秒、SPの続く限り何度でも連打可能だ。
「キ……サマァァァ……!」
俺の企みにようやく気づいたモリガンが、怒りにその目を真っ赤に染めて俺を狙う。
「ぐっ……! だがまだ死なないんだよね」
流石にゼロ距離では攻撃を躱せないが、分身が代わりに喰らって消滅するのみだ。
その為に空蝉で分身を作っておいたのである。
モリガンの攻撃速度は射程が長い反面、回転速度はそう早くない。
分身が全て消されるその前に、俺はスティールを連打し続ける。
減り続けるSP、消されていく分身、最後のSPを使ったその瞬間。
チャリーン、と音がした。
「いよっし! スティール成功!」
「逃サナイィィィィィィッ!」
甲高い叫び声と共に繰り出される一撃を前に俺は――
「悪いけど勝ち逃げさせて貰うよ」
そう言って笑いながら、帰還の羽を使うのだった。
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