第14話VS魔血皇女。前編(ボスTUEE!)
老人のような白髪、しかし瑞々しいロングヘアを風に靡かせながら、女性は鼻歌を歌いながらスキップをしている。
その姿はまるで散歩する令嬢だ。NPC? 何かのイベント? 呆然としながらも視線を送っていると、女性は俺に気がついたようにこちらを向く。
「月ガ綺麗デスネ……?」
人外めいた声、そしてオタク的には愛の告白めいた言葉、しかし俺は即座に『ステップ』で飛び退いていた。
視線を下ろすと俺が今いた場所がざっくりと抉れている。
何らかの攻撃だ。いつの間にか虚空に生み出されていた黒い爪が霧散し消えていく。
ともあれ、女性の頭上に浮かぶ文字で全てを察する――
「モリガン・ド・ブラッドクインか……こいつが噂の魔血皇女さんで間違いなさそうだな。でもなんでこんなところに……?」
爛々と真紅の目を輝かせるモリガンを前に、俺は冷や汗を浮かべ対峙するのだった。
◆
――ちょ、モリガンさん美人w w
――いやそうじゃねぇだろ。なんでダンジョンボスがその辺うろついてんだよ!?
――つか攻撃力エグくね? クソ硬いフィールドが一撃でざっくり抉れるとか。
――だがなんでこんなところに……何かのイベント? そういう行動ルーティン? 全然わからん。
――奈落の情報ってほぼないからなぁ。ユートさんが生きるWikiよ。
――とりあえずハァハァしておきますね。
――こいつ運営に通報した。
◆
モリガン・ド・ブラッドクイン
LV99
HP666666666
SP666666666
弱点属性 光
「――さてどうしたもんか」
鑑定メガネの出したステータスを見て、俺は思わずため息を吐いた。
なにこのヤケクソステータス。億とか書いてるけど何かの間違いですか? 間違いじゃないですかそうですか。
普通に考えて勝てる相手じゃない。
キリングナイフによる割合ダメージは最高でも9999、発生率は約5%。
もはや殴ってどうこうなる次元ではない。
そして当然攻撃力も半端じゃないだろう。一撃即死も十分有り得る。
――逃げる、か?
本来ならボスからは逃げられない仕様になっているが、さっき買った帰還の羽を使えば多分街へ戻れるはず。
帰還の羽を使えば戦闘から逃げられるのはシリーズ共通だし、多分出来るだろう。じゃないと高レベルでのデスペナが痛すぎるもんな。
それが妥当な判断ではある。誰だってそうするが――俺はしない。
「オルティヴ・オンラインのデスペナは経験値−10%、所持金10%、ついでに復活時にHP1まで減少……そこそこ重いが、今はレベルが上がったばかりだし所持金も大してない。折角だし戦ってみるか!」
父が手も足も出なかったレイドボスとの戦い、それを横目で見ていた俺は自分もいつか戦ってみたいと思っていたのだ。
あの緊張感を体感してみたい。勝つのは無理でもできるだけ長く。できるだけ楽しんでやる。父さんよりも。
いじめられっ子だった俺がそんな考えに至るなんて、とても奇妙な感じではあるが――逃げずに得られるものは存外大きいことを俺は知った。
だから、戦う。
「Ah〜lalala〜♪」
歌いながら俺の方を向くモリガン。
どこを見ているかわからないような真紅の瞳と目が合う。
頭と背中からはコウモリのような翼が生え、口元には鋭い牙が覗き、マントの下は貴族が着るようなドレスを纏っている。
見惚れるような姿ではあるが、間違いなく敵だ。
「!?」
不意に、DEF↓↓、ATK↓↓、とデバフ表示がポップする。
ステータスが二割程下がっている。どうやらあの歌を聞き続けるデバフがかかるようだ。
……ま、どうせダメージも与えられないし喰らったら終わりだし、今の俺には大して意味はない。
「言っとくが何もせずにやられるつもりはないぞ。一太刀くらいは喰らわせてやる!」
モリガンに向かって駆けながら使用するのは『ステップ』から派生するスキル『空蝉』。
現在HPの1/4を消費することで二つの分身を作り出し、攻撃を受けた際の身代わりとするのだ。
長めのクールタイムがあるので連打は出来ないが、保険程度にはなる。
「lalala〜♪」
ゆるり、と腕を軽く振るうモリガン。
同時に数本の黒い刃が俺を襲う。
「うおっとぉ!?」
身体を横に倒しながら跳躍して、爪と爪の間を跳び抜ける。
斬撃は後方の岩山にぶつかり、崩壊せしめた。
……あっぶな。異常なまでの攻撃判定の大きさだ。流石ボスってところか。
「しかし隙だらけだ!」
攻撃を放ち終え、無防備を晒すモリガンへ向けて腕を振り上げる。
――が、その瞬間に俺の背筋を嫌な予感が撫ぜる。瞬間、俺は咄嗟に『ステップ』を発動させていた。
どどぉん! と鋭い音がして俺が居た場所に黒い炎の柱が生まれていた。
あれは『ファイアウォール』!? 魔術師のスキルだが、何か黒いぞ。差し詰めダークファイアウォールというところだろうか。
というかマズい。『ファイアウォール』は多段ヒットして敵を弾くスキルだ。
一瞬ではあるが触れてしまった。つまり、『空蝉』が消滅している。
「当然のように分身を焼き切るか。くっそ、接近対策は万全ってわけだな……!」
流石レイドボス。近づくだけでも容易じゃないな。
ギリギリ『ステップ』で移動していなければ、なにが起きたかもわからずにやられるところだった。
◆
――いや、こっちは見てても何が起きたか分からなかったっての。超スピードだとか催眠術だとかじゃねぇヤツを感じたぜ……解説よろ。
――あの黒い斬撃は通常攻撃っぽいね。爪の間を跳び抜けないと接近すらできないっぽい。してもダークファイアウォールで弾くと。盤石な体制ですな。
――闇属性攻撃っぽいね。属性耐性を100%にすれば無効化できるんじゃない? 闇鎧必須かー。
――ま、将来はそんな感じで壁をすることになるのかもね。今はそんな装備ないだろうけど。
――ノックバックしないよう壁を背負ってタンクに持たせつつ、後衛が倒すってのが基本パターンになりそうね。何にせよソロだと近づくことすら無理よ。
――一合、打ち合っただけでも流石だわ。でもいくらユートさんでもこいつは無理だろ。死んだな。
◆
否――手はある。
厳しいが、何もできないわけではないのだ。だったらやるしかあるまい。
一旦距離を取りながら呟く。
「どのみち試す価値はあるよな」
俺はモリガンを見据え、ニヤリと笑みを浮かべた。
※初めてギフトというものをいただきました。
ありがとうございます!光栄です。頑張ります。
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